研究

研究内容

当教室の研究テーマは多岐に渡っています。下記の項目別にご紹介致します。

  1. 核酸医薬の研究
  2. 先端的脳画像による病態解明、多モダリティー学習を行う「人工知能」の開発
  3. 神経疾患の体液バイオマーカーの検索
  4. アルツハイマー病の病態解明と治療薬の開発
  5. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因究明と治療法開発研究
  6. 脱髄性中枢神経疾患における神経変性プロセスの解析

1. 核酸医薬の研究

① 新たな核酸医薬技術の創生

核酸医薬とは6-30 塩基の短い天然型または非天然型の核酸 (オリゴヌクレオチド) を基本骨格として利用する医薬品です。細胞膜表面のある分子しか標的にできない抗体医薬と異なって、核酸医薬は細胞内のあらゆるRNAを標的とすることが可能であり、さらに標的となるRNAの発現を抑制、RNA編集やRNA-タンパク結合制御などが幅広い応用が可能なことから、次世代の分子標的治療薬として大きく期待されています。また、神経筋疾患の病態におけるRNA制御機構がこの十年近くで急速に解明されてきています。それに伴い、核酸医薬はRNA 制御治療(RNA-modulating Therapeutics)として多くの神経筋疾患で開発が急ピッチで進んでいます。特に、2016年に海外でかつ2017年に日本でも認可された、脊髄性筋萎縮症に対するアンチセンス核酸(ヌシネルセン)は運動機能・生命予後を劇的に改善させることに成功し、脳神経内科の歴史において大きなターニングポイントとなりました。つまり、「不治の病」と言われることの多い神経変性疾患の根本的な治療が、核酸医薬によって初めて達成されたのです。このヌシネルセンに続いて、同年に、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、2019年にトランスサイレンチン型家族性アミロイドポリニューロパチーといった神経筋疾患に対して核酸医薬が承認されました。このように、素晴らしい臨床試験の結果が続々と出てきており、「神経筋疾患は核酸医薬によって治せる疾患」という時代に突入しています。

臨床応用が進められている核酸医薬の多くはアンチセンス核酸医薬(antisense oligonucleotide; ASO)、small interfering RNA (siRNA) の2 種類ですが、全身投与では肝臓以外への標的臓器への導入効率や遺伝子抑制の有効性が十分ではなく、課題となっています。

そこで我々の教室では、「第3の核酸医薬」としてDNA/RNAヘテロ2本鎖核酸 (図1)を考案しました。ヘテロ核酸は従来の核酸医薬の20-300倍の飛躍的な有効性の向上とともに、神経系を含むあらゆる臓器や細胞への導入が可能とした革新的な新規核酸医薬で、1本鎖DNAであるASOや2本鎖RNAである siRNAと異なる作用機序を有しています。(後述)

図1. 従来型の核酸医薬とヘテロ核酸の対比

更にヘテロ2本鎖核酸の研究開発の推進のために、東京医科歯科大学発のバイオベンチャー「Rena Therapeutics社」が2015年に創立され、一部は大手製薬企業にライセンスされました。パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経難病の根本的な治療薬開発や急性期脳梗塞の病態改善薬の開発などにおいて画期的な最先端の治療薬創生を目指しています。

② ヘテロ2本鎖核酸の特徴

ヘテロ2本鎖核酸は標的RNA への結合でアンチセンス活性を有するDNA の主鎖と、主鎖に相補的なRNA (cRNA) からなる非天然機能核酸です。この主鎖は両端がLNA (locked nucleic acid)などの化学修飾核酸、中央部がDNA であり、2 本鎖の中央部がDNA-RNA ヘテロ核酸になるため、この部分が細胞内のエンドヌクレアーゼであるRNase H によって相補鎖RNAが切断されます。その結果、単独となった主鎖が標的mRNA に結合して再びRNase H が標的mRNA を切断して遺伝子抑制効果を発揮するデザインです。すなわち、RNase H が相補鎖RNA と標的mRNA の切断の一人二役を果たすことにより、主鎖の結合親和性に影響を与えることなく相補鎖RNA にデリバリー分子を結合することが可能となった点が特徴の分子技術です(図2A)。

核酸医薬のデリバリー分子として我々の特許であるビタミンE (VE)をヘテロ2本鎖核酸に結合させた場合、静脈投与にて、ASO やVE 結合siRNA(VE-siRNA) と比較して飛躍的に高い標的遺伝子抑制を肝臓にて実現し、さらに低投与量 (0.75mg/kg) でも99%以上と今までにない劇的な抑制率を達成しました(図2B)。

図2. DNA/RNAヘテロ核酸(HDO)の遺伝子抑制メカニズム(A)と有効性(B)
(A) Ligand分子で細胞内へ導入されたヘテロ核酸は、RNaseHによって相補鎖RNA (cRNA)が切断され単独のアンチセンス核酸 (ASO) となる。その後、標的mRNAに結合して、遺伝子発現抑制効果を生じる
(B) その有効性はASOやsiRNAよりはるかに高い

研究当初は、ヘテロ2本鎖核酸の効果は肝臓に限定されており、その投与ルートも静脈投与のみで有効でした。最近、我々はその新規の分子設計によって肝臓以外の心筋、腎臓などほとんどの腹部臓器や皮下脂肪、骨格筋の標的遺伝子制御を可能にしました(図3)。

その成果から種々の特許や研究資金を獲得し、今後は現在治療法が確立されていない難病の克服に向けた最先端の治療薬創生を目指しています。

図3. 全身でのSrb-1遺伝子抑制効果
ヘテロ核酸静脈投与により肝臓以外の多くの腹部臓器でも内因性標的遺伝子制御が可能になった。

③ 血液脳関門通過性ヘテロ2本鎖核酸

前述のように脊髄性筋萎縮症に対するアンチセンス核酸であるヌシネルセンは脳神経内科領域に革新的な進歩をもたらしました。しかし、既存の核酸医薬は一生涯にわたる頻回の髄腔内投与(腰椎穿刺)が必要で、静脈注射などの全身投与で中枢神経へ核酸医薬の送達ができないことが最大の問題点です。最近、我々は世界に先駆けて血液脳関門(BBB)を通過して効率的に脳内に導入できるリガンド分子を発見し、このリガンド分子を結合したヘテロ2本鎖核酸の静脈投与により、大脳、小脳、脊髄などの中枢神経における内因性遺伝子の広範かつ70-90%に及ぶ顕著な抑制に成功しました。投与したヘテロ2本鎖核酸は、BBBを通過した後に大脳皮質・白質のほとんどの神経細胞やグリア細胞に広くデリバリーされ、顕著な遺伝子抑制が示されました (図4)。

図4. 静脈投与した新型ヘテロ核酸による線条体での標的遺伝子抑制効果
新型ヘテロ核酸は静脈投与後、血液脳関門を通過して線条体で標的遺伝子を抑制することが可能となった。

このBBB通過性ヘテロ2本鎖核酸はブレイクスルー技術として、武田薬品などの日米のリーディングの製薬企業にライセンスされています。(東京医科歯科大学プレスリリース)この技術によって、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患の根本的な治療を実現すべく、AMEDの創薬基盤研究の最大グラントである先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業「次世代血液脳関門通過性ヘテロ核酸の開発による脳神経細胞種特異的 分子標的治療とブレインイメージング」(総額5億円)(AMEDのページ)に加え、AMEDの難治性疾患実用化研究事業「双方向転写産物が関わる遺伝性神経変性疾患に対する核酸医薬開発」(総額2億円)、日本学術振興会の科学研究費助成事業・基盤研究(S)「血液脳関門通過性ヘテロ核酸の開発」(総額2億円)など多数の大型公的研究費を獲得し、さらに日米の複数の大手製薬企業と大型の共同研究(約8億円/年)を推進し、いままで計32の核酸医薬関連の特許を出してきました。最近では、マイクロRNAの制御やリンパ球など免疫系や骨格筋・心筋の遺伝子制御などでも大きな進歩があり、神経や筋の難病克服のためにヘテロ2本鎖核酸技術をバイオ医薬による分子標的治療の標準治療にすべく、一流の化学・遺伝子工学・薬学・分子生物学の研究者と共同で、創薬研究をダイナミックに展開しています。


2. 先端的脳画像による病態解明、多モダリティー学習を行う「人工知能」の開発

脳画像解析を用いた病態、神経ネットワーク、治療効果の可視化

私たちは、先端的な脳画像を用いることで、患者さんの脳で実際に起きている病態を「見える」ようにする研究活動、臨床応用を進めています。複数のMRI撮像法を組み合わせることで、多彩な脳機能、構造を非侵襲的に評価するマルチモーダル脳画像を実用化しています。

具体的には、機能的MRIを用いて、神経ネットワークを同定する機能的結合(functional connectivity)(図A)、拡散テンソル画像を用いて白質による線維経路を同定する構造的結合(structural connectivity)(図B)、脳のシナプス活動を反映する血流量を評価するArterial Spin Labelling(ASL)法(図C)によって、神経ネットワークの視覚化、定量化を行っています。

これまでに、パーキンソン病患者さんの運動機能、認知機能に関わる神経ネットワークの異常(OHBM, 2015)、灰白質や白質の異常、血流変化(Hum Brain Mapp, 2012)、ワーキングメモリー施行時の脳賦活の異常(OHBM, 2018, 図D)、特発性正常圧水頭症(AJNR, 2011, 2012)の白質障害(図E)、半側空間無視に関わる空間性注意の構造的結合(Brain Imaging and Behavior, 2018)(図F)などを明らかにしてきました。

現在、画像解析を専門とする医師、大学院生、病棟医が協力して、下記の疾患の患者さんを対象に画像解析、歩行解析(両足首と腰に加速度計を装着し、治療前後や経時的に評価)、包括的認知機能評価(認知ドメインごとに評価)を行っています。

歩行解析は、単純歩行のみではなくて、7の連続引き算をしながらの歩行(dual task)、トレーとワイングラスを持ちながらの歩行(dual task)、その両者を当時に行いながらの歩行(triple task)なども合わせて行っています。このように、認知タスク、運動タスク、その両者の負荷が歩行に加わることで、脳内で干渉が起きて、代償機転などが取り除かれることでより病態が顕在化するのではないかと考えています。

私たちは、神経心理士によって、記憶機能(短期)、記憶機能(遅延)、視空間認知、言語機能、注意機能、遂行機能の6つの認知機能ドメインを、それぞれ異なる側面を評価する2つ以上のバッテリーで定量的に評価しています。検査結果は、同じ年齢の健常データと比較して正規化(z-score)し、グラフにすることで可視化し、その患者で障害されている認知機能ドメインが一目瞭然となります。

パーキンソン病、パーキンソン症候群

パーキンソン病やパーキンソン症候群は、ドパミン神経の変性、脱落の結果、無動、筋強剛、振戦、姿勢反射障害といった運動症状を呈し、レボドパなどの抗パーキンソン病薬によって症状が改善しうる疾患です。一方で、各症状の詳細な神経基盤や、薬剤の投与が脳の神経ネットワークにどのような変化を与えるかは十分に分かっていません。本研究では、マルチモーダル脳画像、脳内のドパミン節前細胞の神経終末を画像化するSPECT検査、歩行解析、認知機能評価を組み合わせることで、運動症状の神経基盤を解明し、レボドパ投与による神経ネットワークの変化を明らかにすることを目指しています。また、複数の感覚入力を用いたリハビリテーションを行うことで、脳の可塑性を活用しながら運動症状の改善を目指す新たな治療法も確立してゆきます。

こうした研究の成果として、症状に対応する神経基盤が同定できるようになり、より正確な診断が可能となり、治療の効果も可視化できることで、各患者さんに適した治療選択が可能となることが期待されます。

筋萎縮性側索硬化症

筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis, ALS)は、大脳の運動野と脊髄の前角細胞という運動神経に選択的な障害がおきる運動ニューロン疾患として知られています。今日、ALSでは運動野以外の脳領域にも障害が進展してゆくことが知られてきています。一方、通常のMRIでは、ALSによる脳の異常を捉えることは困難で、診断に苦慮することがあります。そこで、我々は、神経ネットワークの評価、灰白質の体積、白質の微小構造、脳血流などのマルチモーダル脳画像、電気生理検査、歩行解析を組み合わせることで、ALS患者さんの脳内の構造的、機能的な異常の可視化を目指しています。

こうした研究の成果として、ALSにおける上位運動ニューロン障害を含む脳の障害が可視化され、正確な診断、進行度の評価、治療法の効果判定が可能となることが期待されます。

特発性正常圧水頭症とその類縁疾患

特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus, iNPH)は、歩行障害、認知機能障害、尿失禁を特徴とする症候群です。iNPHは治療可能な認知症と位置づけられており、超高齢化社会の到来を受けてiNPHの診断の重要性はさらに高まっていますが、その神経基盤は未だに明らかではありません。そこで、我々は髄液除去テスト前後でマルチモーダル脳画像、歩行解析、認知機能評価を行うことで、髄液除去テストによって改善するiNPHの症状の神経基盤を同定しようとしています。

一方で、これまでの先行研究では、iNPHとの診断のもとでシャント手術を施行されたが、のちになって症状が悪化し、剖検にて別の中枢神経疾患であったとする症例も報告されています。こうした報告より、我々は中枢神経疾患を基盤に二次的に髄液除去テスト陽性となるiNPHに類似した病態があるのではないかと考えています。そのために、中枢神経疾患を有する患者さんに髄液除去テストを行い、症状とマルチモーダル脳画像の変化を比較検討する前向き研究を開始しております。

こうした研究の成果として、iNPHや髄液除去テスト陽性となる中枢神経疾患の疫学、病態、神経基盤が明らかになり、正確な診断に基づいたより適切な治療選択が可能となることが期待されます。

多発性硬化症、視神経脊髄炎

多発性硬化症(multiple sclerosis, MS)は、若年の患者さんに好発し、多彩な神経症状を発症しながら、脳や脊髄に多発した病変が蓄積していくことで、症状が進行してゆく疾患です。その根本的治療法はまだ確立されていませんが、疾患の病勢をコントロールするための複数の疾患修飾療法(disease modifying therapy, DMT)が使用可能となっています。MSの疾患活動性やDMTへの応答は、患者さんごとに大きく異なっていますが、これらを短期間で正確に評価することは現状では困難です。

一方、MSに似ているが異なる疾患として視神経脊髄炎(Neuromylelitis Optica, NMO)があります。NMOでは、視神経や脊髄のみならず、脳内にも炎症が起き、中枢神経に病変が蓄積していきます。NMOの治療として免疫抑制療法が使用されることが一般的ですが、NMOの疾患活動性や免疫抑制療法への反応性を、短期間に正確に評価することは現状では困難です。

我々は、MSやNMOの疾患活動性を正確に評価し、かつ、日常臨床の一環としても実施可能で実用的なバイオマーカーの確立を目指しています。そのために、MSやNMOの患者さんを対象にマルチモーダル脳画像、歩行解析、認知機能評価などを用いた詳細な臨床評価をおこなうデータベースを確立しようとしています。

こうした研究の成果として、MSやNMOの疾患活動性がより正確に把握できるようになり、適切にDMTや免疫抑制療法を使用することで、疾患の再発を抑え、症状の進行を抑止できるようになることが期待されます。

脳のシステムとしてのネットワーク解析:グラフ理論

我々は、脳全体のネットワークを包括的に解析しています。具体的には、MRIなどから得られる3次元T1強調像、拡散テンソル画像、機能的MRI画像、脳血流などのデータからそれぞれ脳の各領域間の解剖学的、機能的な結合度(connectivity)の情報を抽出します。

ネットワークを解析する手法として、主にグラフ理論を用いています。グラフ理論とは、脳を数百の細かい領域(ノード)に分割をして、その領域間が結合しているときには線分(エッジ)で結ぶことで作り出される幾何学的図形を数学的に解析します。その結果、ネットワークとしての機能を、機能的分離の程度、機能的統合の程度、ネットワークのクラスター化の程度などの観点から、定量的に評価することが可能となります。

神経変性疾患では、病気の原因となる異常タンパク質が、特定の進展パターンをとりながら、脳領域特異的に蓄積して行きます。したがって、全脳の構造的な障害パターンには、原因となる異常タンパク質の進展、蓄積が反映されていると推測しています。具体的には、アルツハイマー病やパーキンソン病の患者の3次元T1強調画像を用いて、脳の構造的ネットワークの変化をグラフ理論によって解析し、障害されている領域群をネットワーク論の観点から同定しようとしています。その障害パターンには、アミロイド、タウ、シヌクレインといった疾患特異的なタンパク質の進展、蓄積が反映されていると考えており、その証明を試みています。

将来的には、グラフ理論などのネットワーク解析を、マルチモーダル脳画像の解析に応用し、病態把握、治療によるネットワークの変化の把握、人工知能による学習と判断、へと応用していきます。


多モダリティーの情報から統合的に学習できる「人工知能」の開発

私たちは、先端的脳画像(神経ネットワーク、白質や灰白質の構造の評価、脳ドパミン前終末の画像など)に加えて、歩行解析、動画解析、包括的認知機能評価を、脳の各システムが障害された疾患群を対象に行っており、薬剤の投与前後の評価も含むデータベースを構築し、脳の障害されたシステムの同定や薬剤による治療効果を推定する「マルチモーダル学習」を実装した人工知能の基盤を開発しています。

マルチモーダル脳画像の深層学習による病態把握

我々が集積している先端的脳画像の中には、障害された脳のシステム、発症前の顕在化しない病態、治療効果などの膨大な情報が含まれていることが想定されます。

近年、人工知能が急速に発達し、なかでも特に深層学習を利用した画像分類の精度が飛躍的に向上しています。そこで私たちは、先端的脳画像を入力データとして、疾患名、行動学的指標などを教師データとして与える「教師あり」学習モデルを構築し、未知の患者の先端的脳画像を入力すると、高い精度での病態把握が可能となる人工知能の確立を目指しています。

深層学習に脳MRI画像に適用して解析するには、複数の課題がありますが、下記のように解決しながら進めています。

① 限られたデータ数からの深層学習:転移学習

深層学習は複雑な画像のようなデータを入力とし、高い精度での予測を実現していますが、その性能を発揮するには大量のデータが学習に必要となります。しかしながら医療施設では、そのように大量のデータを集めることは簡単ではありません。そこで、「転移学習」という手法を利用して、目的の画像とは異なる画像を用いて事前に学習させたモデルを用いて、目的の画像を後で追加学習させています。

② 深層学習の可視化:Grad-CAM

畳み込みニューラルネットワークを利用した深層学習は、画像認識の領域で高い性能を発揮していますが、判断の過程が不透明であることが課題となっています。そこで、人工知能の判断根拠を可視化するために、私たちは、Grad-CAM (Gradient-weighted Class Activation Mapping)技術を採用しています。これによって、深層学習がMRI画像でどの領域に注目して判断をしたかを可視化しています。

歩行データの機械学習による疾患予測

先行研究でも、ストライド長および歩行速度などの代表的な歩行解析データは、すでに検討されています。一方、私たちのシステムでは、より多くの特徴データを収集しており、病態を反映する有益な情報が含まれていると考えています。現在、歩行解析データからは合計50項目以上の指標が得られていますが、変数間の関係も複雑で統計解析も容易ではないので、機械学習を利用した包括的な解析を進めています。

歩行解析データは、大きく分けると平均値、変動性、左右対称性の3種類に区分されます。それぞれは独立したデータと考えられるため、それぞれに最適な学習モデル(サポートベクターマシン、ランダムフォレスト等)が異なる可能性があります。そのデータごとに最も優れた学習モデルを用いて分析をして、最後に多数決などの方法で疾患および病態の予測を結論します。

脳MRI画像、歩行、認知機能データを統合したマルチモーダル機械学習

私たちは、先端的脳画像、歩行解析、動画解析、包括的認知機能評価を相互に比較しながら、データ駆動方式で学習し、新たな知を創出できるマルチモーダル機械学習の実現を目指しています。具体的には、先端的脳画像に対して、歩行解析、動画解析、包括的認知機能評価を教師データとする「教師あり学習」とすることで、先端的脳画像のみから運動機能や認知機能などを予測できるようにします。こうしたデータベースを構築することで、先端的脳画像のみから、障害された脳のシステム、病態の把握、薬剤による治療効果などの臨床的に重要な情報を引き出せるようになることを目指しています。

さらには、包括的認知機能評価のみから障害された脳のシステムを推測したり、歩行解析や動画解析のみから障害された脳のシステムや認知機能を推測できるようにすることを目指しています。こうした技術開発の結果として、先端的脳画像、歩行解析、動画解析、包括的認知機能評価の一部からでも他のデータを補完的に推測できたり、患者に起きている病態を把握できるようになることを目指しています。

より詳細な説明はこちらを御覧ください。


3. 神経疾患の体液バイオマーカーの検索

当教室では、神経疾患のバイオマーカーとなるマイクロRNA(miRNA)の検索を行ってまいりました。2014~2018年度まで独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)における「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」に参加し,同開発事業で得られたバイオマーカー候補のmiRNAについて、各種の神経疾患における比較検討を行い、疾患特異度の検討を行うこと、病態生理上の意義付けを検討する役割を担当いたしました。

神経疾患では血液と脳脊髄液中のmiRNAの対比が重要であると考えられますが、脳脊髄液中のmiRNAはその発現量が少ないため、網羅的なアレイ解析方法や定量的評価方法がいまだ確立されていません。私たちは、神経疾患のバイオマーカーとしての脳脊髄液中miRNAの網羅的解析方法を確立することを目標の一つとしています。

臨床の教室としての強みを活かし、運動ニューロン疾患やアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患、多発性硬化症、免疫介在性ニューロパチーなど多様な神経疾患を対象に、臨床情報とRNAデータベースを有機的に統合し、神経疾患の診断、治療に有用なRNAバイオマーカーの研究を進めています。

当研究室で独自に考案した髄液中miRNAのノーマライゼーション法により、正常髄液サンプル間のアレイシグナルの近似曲線が、従来のGlobal normalizationよりもよりy=xに収束し、サンプル間のバラつきを抑えることが可能になりました。

2017年には、髄液および血清のエクソソーム分画のmiRNAに着目し、次世代シークエンサー (NGS)を用いてmiRNA発現のプロファイルを解析・報告しています(Yagi Y, Ohkubo T, Kawaji H, et al. Neurosci Lett. 2017;636:48-57. doi: 10.1016/j.neulet.2016.10.042.)。


6. 脱髄性中枢神経疾患における神経変性プロセスの解析

多発性硬化症(Multiple sclerosis, MS)や視神経脊髄炎(Neuromyelitis Optica Spectrum Disorders, NMOSD)における脳萎縮に関して、脳の萎縮、記憶力障害、注意障害などを、日本人の患者さんにおいて評価し、関連性を調べています(下図)。

近年、MS/NMOSD分野では次々に新薬が開発、発売され、no evidence of disease activity-3(NEDA-3; 再発なし、MRI活動なし、障害進行なし)とよばれる状態をゴールとして治療を行うことが提唱されています。しかしながら、これらを満たしていても脳萎縮が進行しうることが知られてきています。我々は、日本人患者さんにおいてもNEDA-3を満たしていても脳萎縮がみられることが高率にあることを日本人のデータとしてはじめて示しました(Yokote et al, 2018)。また、脳萎縮を予測するバイオマーカーとしては血液中ニューロフィラメント軽鎖(neurofilament light)が有望ですが、神経細胞の破壊があれば他の神経変性疾患でも上昇がみられ疾患特異性が低いことが問題です。我々は、免疫調整能をもつレチノールに注目し、血液中レチノール濃度(レチノール結合蛋白で代用)が低いほど年間脳萎縮率が高くなることを示しました (Yokote et al. 2017)。

さらに、最近ではMSにおける脳萎縮の病態の根底にある“inflammation”に注目し様々なサイトカインやケモカイン、リンパ球サブタイプとの関連を調べています。

他施設とも共同研究を進めており、脳細胞の変性を写すことのできる脳MRI撮影や、脳脊髄液や血液中のバイオマーカーを測定・解析することにより、脳萎縮のリスク因子の解析を行っています。また、多発性硬化症の患者さんにおける簡易型認知機能評価であるBrief International Cognitive Assessment for MS (BICAMS)の日本語版のバリデーションに協力しています(Niinoら, 2017)。

 多発性硬化症 (MS)、視神経脊髄炎関連疾患 (NMOSD)、ギラン・バレー症候群 (GBS)、フィッシャー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー (CIDP)、多巣性運動性ニューロパチー (MMN)、重症筋無力症 (MG)、炎症性筋疾患といった免疫性神経疾患は、自己免疫機序による神経難病です。 これら免疫性神経疾患では、主に副腎皮質ステロイド薬、血漿浄化療法、大量免疫グロブリン静注療法 (IVIg)、各種免疫抑制剤による治療が行われています。

 大量免疫グロブリン静注療法 (IVIg)は広く安全に行われている治療ではありますが、問題となる合併症の一つに血栓塞栓症が挙げられます。当教室では、これまでに大量免疫グロブリン静注療法 (IVIg)を施行した免疫性神経疾患患者の診療経過を解析し、血栓塞栓症のリスク因子を検討する研究を行っています。


大学院生も随時募集しております。興味を持たれた方は以下までお問い合わせ下さい。

医局長 小野 大介
E-mail:onno.nuro(アットマーク)tmd.ac.jp

研究業績

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