骨髄細胞が消化管粘膜の潰瘍、炎症を修復 難病治療に期待
東京科学大学消化器内科 岡本隆一
潰瘍や炎症などでヒトの消化管上皮が傷害を受けた時、骨髄由来細胞が緊急事態に対応するレスキュー的な役割を果たし、上皮が修復されることを東京科学大学消化器内科の渡辺守教授、大学院生の岡本隆一らが慶應大との共同研究により見いだした。この成果は26日付けの米科学誌ネーチャー・メディシン(オンラインジャーナル版) で発表した。
研究グループでは最近、元々血液を構成する細胞を作る源である骨髄に注目し、骨髄から作られる血液細胞の一つであるリンパ球の表面にあり、その分化に重要な働きをするとされているインター ロイキンー7受容体が、一時期、消化管の上皮細胞にもみられることを見い出した。今 回、これまでその由来が全く不明であった消化管上皮細胞も骨髄から作られ得る可能性 を追究した。
- 骨髄移植後の患者の胃および大腸内視鏡施行時に採取した組織検体を使って、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸のヒトの全ての消化管上皮細胞のほんの一部(1000個に数個)ながら、骨髄細胞からできることを明らかにした。更に通常はわずか1000個に数個程度しかない骨髄からできる上皮細胞が、胃潰瘍、大腸炎などでできた消化管内面の潰瘍(傷口)が治っていく過程ではなんと50倍から100倍にも増え、概ね10個に1個の消化管上皮細胞が骨髄由来である現象を見いだした。
- この研究は経過をおって内視鏡が施行でき、組織検体が採取できた消化器内科の特殊性によるもので、臨床に携わる研究者独自のアイデアによるものである。
- 渡辺教授は、「難病に指定されている潰瘍性大腸炎、クローン病、ベーチェット病などの腸疾患の治りにくい潰瘍、炎症に対して、腸管上皮の再生を促す治療法が有効である可能性が出てきた」と話している。
患者さんの皆様へ
先日の新聞で取り上げて戴いた「骨髄由来細胞による腸管粘膜再生によるクローン病を含めた腸疾患治療への臨床応用」は、残念ながら、まだ、日本では実際には行われていません。東京科学大学病院、慶應義塾大学病院でも近いうちに試験的に始めようとしていますが、実際の応用には相当な時間がかかります。但し、米国では既に複数の施設で試験的に始められており、まだまとまった結果は出ていませんが、良い結果が出てくれば、将来的に期待は出来るかと思います。
しかしながら、この治療はあくまでも、かなり重症な患者さんのための緊急避難的な治療です。現在のクローン病治療は格段の進歩を遂げておりますので、クローン病の患者さんの大多数は今、現在の普通の治療でよくなりますので、この治療は必要ないと思います。主治医の先生と良くご相談して、自信を持って治療にあったって下さい。