ロールモデルインタビュー

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“研究者”という自分がいるからこそ、介護生活を前向きに

お名前:成瀬 妙子(なるせ たえこ)氏
家族構成:夫
所属・職位:東京医科歯科大学難治疾患研究所 分子病態分野 プロジェクト助教
研究内容:免疫遺伝学に関する研究

インタビュー:2016年1月29日

研究者になろうと思ったきっかけをお聞かせください。

はじめに就職した血液センターで、HLA(ヒト白血球抗原)の解析を担当することになり、職務内容に事務補助と書いてあったため、デスクワークをすると思って入社したので正直びっくりしました。もちろん教えてくださる方がいたのですが、私は全くの門外漢でした。必死に勉強をしたのをよく覚えています。そして勉強するうちに次第にHLAを中心としたヒトの遺伝子に興味を持ち、もっと深く知りたいと思うようになりました。その後、研究の仕事の傍ら、大阪市立大学の大学院医学科研究生として通い学位を取得しました。9年ほど前から東京医科歯科大学で研究を続けています。

成瀬 妙子(なるせ たえこ)氏

研究を続ける上で苦労したことはどんなところですか?

まったくの素人からのスタートでしたので教科書を探しましたが、当時はまだマイナーな分野で、英語で書かれた論文を読むしかなかったのです。苦手な英語で専門用語を解読しなければいけない作業は、大変な労力でした。

また、ポスドク時代には国際学会の幹事を拝命し、約3年間、準備と運営に費やしました。当時は常時5人ほどの院生や卒業研究の面倒も任されていたので、自分の研究に割く時間が減少し、思うように業績をあげられなかったのは辛かったです。経験から得られたものはそれなりに大きかったのですが、科研費の申請などではそういった理由は考慮されませんので、キャリアアップを考える上ではとても苦しい時期でしたね。

その頃ご結婚されていますが、タイミングなどは考えたのですか?

もともと結婚願望が全くなかったのです。結婚したら、時間が制約されてしまうと思っていましたから。ただ、そのとき研究仲間だった今の主人に、「しんどそうだから、サポートしてあげたい」と言われたんです。主人は「家でご飯を作ってひたすら夫の帰りを待つような女性は嫌だ」というタイプだったのもあり、それなら研究も続けられると結婚を決めました。今も「出張するならご飯作っていってくれ」とか、家事を強いられることもなく、お互い自立しているので長く続いていると思います。また、夫は大学院時代研究をしていたとこもあり、学会のための出張などについても理解があるのはありがたいですね。

ご両親の介護をされていますが、研究との両立はどんなところが大変だと感じますか。

介護については、経験して初めてその大変さを実感しました。介護には明確なフィニッシュラインもありませんし、いつまでどのようにかかわるのか、まったく予測が立たたないので精神的にも疲れます。

また、介護施設は一度預けてしまえば何もしなくてもいいようなイメージがありましたが、両親が入居している施設では人手不足で手が回らず、実際には多くのことを求められました。通院の付き添いはもちろん、おむつなども自身で購入し、準備しなければなりません。急な受診が必要と電話で呼び出され、車椅子用送迎車の手配、自分が付き添えない場合は付き添いヘルパーの手配なども行う必要があります。

以前、母が夜間に救急車で病院に搬送されたことがありました。症状が治まったので帰宅となりましたが、施設に電話をすると、夜間は職員が当直だけになるので送迎ができないと言われたんです。担架で搬送されたため車椅子もありませんし、介護タクシーも夜間は連絡が取れません。結局、60㎏の母を主人と2人で抱えてなんとか普通乗用車に乗せましたが、翌日から腰痛で2日間仕事を休むことになってしまいました。こうした仕事や家庭への思わぬしわ寄せが重なることで、焦りや不安が生じ、介護が精神的な重荷となるのも辛かったです。

成瀬 妙子(なるせ たえこ)氏

両立するにあたって、組織内の支援制度などは利用しましたか?

本学の研究支援員配備事業によって研究支援員を配備いただいていることが大きな支えになっています。このことにより、実験効率や業績の質が大幅に向上しました。公的な競争的研究費を獲得している研究者にとっては、申請した研究計画を着実に遂行し、かつ成果をあげることが求められます。また、共同研究では分担研究が遅れると全体へ悪影響があることから精神的な負担感も強いです。年度を通じてご支援をいただけることで安心して仕事や介護にあたることができ、精神的な負担は大きく軽減されました。

勤務体制はどうなっていますか?

大変恵まれていて裁量労働制なので、実績さえ出せば出勤時間もある程度自由というのが両立しやすいポイントとなっています。両親の身の回りの世話などは、仕事への影響を考慮してなるべく休日に行うよう心がけていますが、通院付き添いや、財産管理のための成年後見人としての各種手続き、年金や保険の手続きなどの役所仕事は平日にこなさなければなりません。そのため、どうしても平日の午前中や昼間に介護の用件が集中し勤務時間が不規則になりがちですが、教授や教室員には、ミーティングを始め各種スケジュール調整について最大限柔軟に許容していただいているので本当にありがたいですね。

そして、所属長(教授)が介護と仕事の両立の難しさをご理解くださっているので、大変心強いです。だからこそ、こうしたご理解や信頼を裏切らないように、実験データや原稿提出などの期日は必ず守り、業績を出すことを心がけています。支援していただけるからこそ、研究へのモチベーションもさらに高まるのは大きなメリットですね。

今後の目標をお聞かせください。

仕事もプライベートも、内面的に美しく年齢を重ねたいと思っています。そのためには自分がこもってしまってはいけないので、仕事に対しても守りに入らず、チャンスがあれば前進していきたいです。支えていただいている皆様の期待を裏切らないように頑張っていこうと思っています。

成瀬 妙子(なるせ たえこ)氏

両立を考えている研究者、研究者を目指している方へメッセージをお願いします。

私自身両立に悩み、「本当に辞めるしかないのか?」と何度も考えたことがあります。でも、「一度研究を止めると復帰するのは難しい」と思い、教授や研究者仲間にも支えていただき、現在も頑張っているところです。

今、私が平常心で介護をこなせるのは、研究者という別の自分が存在しているからだと思います。もし研究を諦めて介護に専念すれば、それを両親のせいにしてストレスを二人にぶつけてしまっていたかもしれません。「両立」という言い方をすると完璧にこなさなくてはとプレッシャーがかかってしまうから、「両立」というより、「別の世界」を持ってチャンネルを切り替えている、と私は考えています。研究者の世界、介護の世界、趣味の世界など、それぞれのチャンネルを切り替えながら、日々の生活を送るとよいのではと思います。

介護や育児などライフイベントとの両立に困ったら、まずは上司に積極的にいろんな状況を話してみてください。自分の気がつかないところで解決案や支援が転がっているかもしれません。

一度きりの人生です。やりたいことは迷わずやったほうがいいと思います。

1日のタイムスケジュール

7:00 起床 午前中 介護関係の手続き、事務処理や病院付き添い
11:00〜11:30 出勤
11:30〜19:00 仕事・研究
19:00〜20:00 退勤
22:00 夕食、家事など
24:00 仕事(自宅でできるデータ取りまとめなど)
26:00〜27:00 就寝

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