得意とする分野

糖尿病性足潰瘍

担当医師 田中顕太郎、森 弘樹、羽賀義剛
外来日 金曜日、火曜日、月曜日

糖尿病性足潰瘍とは

現在、糖尿病に罹患する方の人口は急激に増加しています。糖尿病の合併症として、腎臓障害、眼症状(網膜症)、動脈硬化症などがよく知られていますが、足潰瘍もよく起こる合併症です。非常に治りにくく、また進行性で、重症になると足全体が腐ってしまう壊疽という状態になります。血糖値のコントロールがうまくいかないときなどに急激に症状が広がる傾向にあります。

原因

糖尿病性潰瘍の原因はいろいろな要素が重なり合っています。

  1. 血管障害

    長期間の糖尿病罹患によって動脈硬化症を起こすと、足の血管が狭くなったり詰まってしまったりして血液が流れなくなります。足先に血液が巡らなくなると、傷ができやすく治りにくい状態となります。

  2. 末梢神経障害

    糖尿病の合併症として末梢神経が障害されます。知覚神経、運動神経、自律神経の全てが影響を受けます。知覚神経が障害されると足の感覚が鈍くなり、例えばぶつけて足に傷ができても気付かない、傷が広がっても痛みを感じないということになります。運動神経が障害されると足の筋肉が麻痺して足の変形につながります。足が変形すると体重がかかる場所が変化し、そこに新たな傷ができることとなります。自律神経の場合は体温調節機能や汗をかく機能が失われます。これも足の変形や傷の原因となります。

  3. 感染症

    足は汚れやすく、特に趾間(指の間)から広がる感染に注意が必要です。血糖値が高い環境では細菌が繁殖しやすくなります。また十分な血液が流れていない環境では細菌を防御する機能も十分に働きません。そのため、傷に細菌が感染すると通常よりも急速に感染壊死が拡大する傾向があります。

    これらの要素が組み合わさって足潰瘍は進行します。しかし、どの要素が傷に一番関係しているかは患者さんによって異なります。また、原因によって治療方針も異なりますので、それぞれの病態を正確に把握することが大切です。そのために、ABIやSPPや経皮酸素分圧の測定、細菌検査、血管造影などの様々な検査を行い、総合的に判断を行っています。

治療

原因が診断されれば、それに対する治療を開始します。血管障害に対しては血管外科で血管バイパス術を行って、狭くなった部分を避けて通る新しい血液の通り道を作成します。また、放射線科では細くなった血管を造影検査で確認しながら風船で広げる、またはステントを留置する血管内治療を行っています。老年病内科では血管新生治療を試みています。いずれにしてもなるべく足の先端まで血液が流れるように治療を行うことになります。感染を起こしている場合には、感染源となる壊死組織を早急に除去するとともに、抗生剤などの薬物治療も開始します。

こうした初期治療を誤ると最良の結果を得られなくなることがあります。例えば血管障害が原因の中心なのに早急に壊死組織の除去を行うと、かえって壊死の範囲を拡大することがあります。そのため治療方針を決定するには熟練した医師の判断が必要です。

形成外科は、こうした一連の治療の流れの中で、主に創傷治癒を担当しています。つまりできてしまった傷をいかに治すかということです。当科では極力、足を温存するべく治療を行っており、他院で切断するしかないとされた患者に対しても積極的に加療を行っています。手術内容は植皮術(皮膚移植)、皮弁術(周囲からの組織移植)、遊離組織移植(顕微鏡下の血管吻合技術を用いた遠くからの組織移植)などがあります。

現在の我が国では、傷に対してより大きく足を切断してしまう治療を選択する病院が多いのが現状です。なぜなら、大きく切断すればそれだけ早く傷が治るからです。しかし傷が治っても足を失ってしまうのであれば、それは治癒とは言えないのではないかと我々は考えています。かかとが残らなければ、その人は一生二度と自分の足で歩けなくなります。義足をつけての歩行を練習するか、車椅子の生活となります。糖尿病性潰瘍の傷は非常に治りにくく、治療は困難で非常に長い時間がかかります。しかしなるべく必要最低限の切断で済むように、そして残存した足がなるべくよく機能するように、傷を治すことを心掛けて治療に当たっています。

創治癒後のケア

治療が完了し傷が治ったあとも、気を付けなければいけないことがあります。糖尿病のコントロールをしっかり行う、合併症の進行を食い止める、傷が再発しないように注意する、変形してしまった足に合うような装具を作成する、うまく歩けるようにリハビリテーションをする、などに注意して経過観察していかなければなりません。

このように糖尿病性足潰瘍の治療はひとつの診療科が単独でできるものではありません。

当院では、形成外科、血管外科、内分泌内科、老年病内科、皮膚科、放射線科、リハビリテーション部などが連携をとりながら、患肢救済に取り組んでいます。

主な業績

  • 羽賀義剛. 低密度リポ蛋白アフェレーシス施行症例と非施行症例における費用対効果に関する検討.第4回日本フットケア・足病医学会学術集会, 那覇市. 2023年12月22日

    小島原知大. 麻酔法と抗血栓薬内服から見た当院下腿切断症例の術後合併症の評価. 第4回日本フットケア・足病医学会学術集会, 那覇市. 2023年12月22日

  • 田中顕太郎, 宇佐美聡, 浜永真由子, 本間 勉, 岡崎 睦.重症虚血肢治療における古典的手術手技と新しい造影手技の融合. 第5回日本創傷外科学会. 京都市, 2013年7月11日
  • 田中顕太郎, 宇佐美聡, 川口留奈, 本間 勉, 岡崎 睦.糖尿病性壊疽での下腿部顕微鏡下血管吻合における吻合部閉創時の工夫. 第40回日本マイクロサージャリー学会.盛岡市, 2013年9月27日