国立大学法人 東京医科歯科大学 核酸・ペプチド創薬治療研究センター
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ヘテロ核酸医薬

研究紹介

① 新たな核酸医薬技術の創生

核酸医薬とは6-30 塩基の短い核酸 (オリゴヌクレオチド) を基本骨格とする医薬品です。核酸医薬は細胞内のあらゆるRNAを標的とすることが可能であり、さらに標的となるRNAの発現を抑制や、RNA編集、RNA-タンパク結合制御など、幅広い応用が可能なことから、次世代の分子標的治療薬として大きく期待されています。特に2017年に認可された、脊髄性筋萎縮症に対するアンチセンス核酸(ヌシネルセン)は運動機能・生命予後を劇的に改善させることに成功し、核酸医薬開発の歴史において大きなターニングポイントとなりました。
臨床応用が進んでいる核酸医薬ですが、全身投与では肝臓以外への標的臓器への導入効率や遺伝子抑制の有効性が十分ではないことが長年の課題とされていました。それを受け私達のグループでは、「第3の核酸医薬」としてDNA/RNAヘテロ2本鎖核酸を考案しました(図1)。ヘテロ核酸は従来の核酸医薬の20-300倍の飛躍的な有効性の向上とともに、神経系を含むあらゆる臓器や細胞への導入が可能とした革新的な新規核酸医薬で、1本鎖DNAであるASOや2本鎖RNAである siRNAと異なる作用機序を有しています。

図1. 従来型の核酸医薬とヘテロ核酸

②ヘテロ2本鎖核酸の特徴

ヘテロ2本鎖核酸は標的RNA への結合でアンチセンス活性を有するDNAの主鎖と、主鎖に相補的なRNA (complimentary RNA) からなる非天然機能核酸です。2 本鎖の中央部がDNA-RNA ヘテロ核酸になるため、この部分が細胞内のエンドヌクレアーゼであるRNase H によって相補鎖RNAが切断されます。その結果、単独となった主鎖が標的mRNAに結合して再びRNase Hが標的mRNAを切断して遺伝子抑制効果を発揮します。この分子技術により、主鎖の結合親和性に影響を与えることなく相補鎖RNA にデリバリー分子を結合することが可能となりました(図2A)。例えば、核酸医薬のデリバリー分子として我々の特許であるビタミンE (VE)をヘテロ2本鎖核酸に結合させることで、ASO やVE 結合siRNA(VE-siRNA)と比較して飛躍的に高い標的遺伝子抑制を実現しました(図2B)。

図2. DNA/RNAヘテロ核酸(HDO)の遺伝子抑制メカニズム(A)と有効性(B)

(A) Ligand分子で細胞内へ導入されたヘテロ核酸は、RNaseHによって相補鎖RNA (cRNA)が切断され単独のアンチセンス核酸(ASO)となる。その後、標的mRNAに結合して、遺伝子発現抑制効果を生じる
(B) その有効性はASOやsiRNAよりはるかに高い。研究当初は、ヘテロ2本鎖核酸の効果は肝臓に限定されており、その投与ルートも静脈投与に限定されていましたが、その後の私達の分子設計技術により、肝臓以外の心筋、腎臓などの主要臓器や皮下脂肪、骨格筋の標的遺伝子制御が可能になりました(図3)。

図3. 全身でのSrb-1遺伝子抑制効果
ヘテロ核酸静脈投与により肝臓以外の多くの腹部臓器内因性標的遺伝子制御が可能になりました。

③ 血液脳関門通過性ヘテロ2本鎖核酸

既存の核酸医薬は静脈注射などの全身投与で中枢神経へ核酸医薬の送達ができないことが最大の問題点です。最近、我々は世界に先駆けて血液脳関門(BBB)を通過して効率的に脳内に導入できるリガンド分子を発見し、このリガンド分子を結合したヘテロ2本鎖核酸の静脈投与により、大脳、小脳、脊髄などの中枢神経における内因性遺伝子の広範かつ70-90%に及ぶ顕著な抑制に成功しました。投与したヘテロ2本鎖核酸は、血液脳関門(BBB)を通過した後に大脳皮質・白質のほとんどの神経細胞やグリア細胞に広くデリバリーされ、顕著な遺伝子抑制が示されました (図4)。

図4. 静脈投与した新型ヘテロ核酸による線条体での標的遺伝子抑制効果

新型ヘテロ核酸は静脈投与後、血液脳関門を通過して線条体で標的遺伝子を抑制することが可能となった。この血液脳関門(BBB)通過性ヘテロ2本鎖核酸は、新なブレイクスルー技術として日米のリーディング製薬企業にライセンスされています。これらの新しい基盤技術をもとにAMED先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業「次世代血液脳関門通過性ヘテロ核酸の開発による脳神経細胞種特異的 分子標的治療とブレインイメージング」を始め、多数の大型公的研究費を獲得し、さらに日米の複数の大手製薬企業と共同研究を推進し、これまで30を超える核酸医薬関連の特許を出してきました。TIDEセンターでは、ヘテロ2本鎖核酸技術を分子標的治療の標準治療とし、難病の創薬研究開発につなげるため、内外の化学・遺伝子工学・薬学・分子生物学の研究者と共に、様々な創薬研究を展開しています。これらの技術を応用し、治療法のない難病の克服に向けた最先端の治療薬創生を目指しています。

ヘテロ核酸医薬に関する詳細ページはこちら
https://www.tmd.ac.jp/med/nuro/study.html
研究内容
研究内容の詳細を掲載しています。
研究実績
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参加研究室
東京医科歯科大学内における
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