東京科学大学 口腔科学センター

東京科学大学

口腔科学センター

ACTIVITIES

研究内容

口腔科学センター(Oral Science Center)
では、
「口腔全身健康部門」と
「口腔デバイス・マテリアル部門」の
2部門が連携し、
より効果的な歯科治療技術の確立と
革新的な口腔医療を提供するための
研究を推進してまいります。

口腔全身健康部門

少子高齢化による急激な社会構造の変化により、我が国の口腔疾患の疾病構造は大きく変化してきており、歯を治すことを中心とした医療から、口腔を通して全身を診る医療に変遷しつつあります。

重点研究領域「口腔科学」では、高次複雑系の生体において、口腔と全身との連関システムをデ-タ駆動型アプローチで科学的に理解し、“口腔制御”による口腔からの先制医療を発信することを目指します。

重点研究領域「口腔科学」

01

口腔細菌叢を基軸とした
口腔と全身のクロストーク解明

  • 歯周病関連細菌が口腔内dysbiosisを引き起こし、各臓器に影響するメカニズムを解明
  • 口腔内の健康改善が全身疾患の予防・改善へと繋がるエビデンスを構築

健康な口腔

健康な口腔

細菌叢の精巧な
バランス

口腔内細菌叢のバランスの崩壊

口腔内dysbiosis

歯周病

歯周病

歯周病関連細菌が
口腔内dysbiosisを引き起こす

矢印

全身の恒常性の破綻

全身の恒常性の破綻

『口腔内dysbiosis』と『全身疾患』の全世代におけるエビデンスの構築

宿主の摂取する食餌や薬剤、口腔衛生状態から生じる口腔粘膜の炎症、唾液の量や質などによって口腔細菌叢が変化すると、局所的に細菌叢のバランスが崩れた口腔細菌叢のディスバイオーシスが生じ、様々な全身疾患に影響を及ぼすことが推察されています。

本プロジェクトでは、口腔細菌叢のディスバイオーシスがどのように口腔局所応答を変化させ、同時に全身の臓器および全身疾患に影響を与えるかどうかを、臨床疫学および基礎的な細胞レベルおよび分子レベル研究での基礎・臨床融合研究を実施します。さらに、口腔内状態の評価・診断および口腔細菌叢の評価が、全身疾患の予知・予防に、さらには、口腔内の健康改善が全身疾患の予防・改善へと繋がるエビデンスを構築し、最終的には、口腔からと全身状態と全身疾患を予知予防する先制医療を目指します。

02

がんおよび慢性炎症における
頭頸部微⼩環境の特性解明と
治療法開発

  • 生理的に特有の機能を有し、外界からの種々の刺激を受ける頭頸部領域の粘膜組織の特殊性を明らかにする
  • 頭頸部がんを含む頭頸部領域疾患の発症・進展の機序を解明することを通じて、新規診断・治療法を開発する

生理的に特有の機能を有し、
外界からの種々の刺激を受ける
頭頸部領域の
粘膜組織の
特殊性を明らかにする

外来からの刺激

喫煙イラスト
喫煙イラスト
矢印

頭頸部領域粘膜組織

頭頸部領域粘膜組織
矢印

恒常性維持と破綻による疾患発症

  • 免疫応答

  • 炎症

  • 頭頸部がん
    難治性粘膜疾患

頭頸部がんを含む
頭頸部領域疾患の発症・進展の
機序を解明することを通じて、
新規診断・治療法を開発する

矢印

早期診断法の開発

  • 唾液サンプル
    など

  • DNA診断

恒常性維持と破綻による疾患発症

  • 化学療法

  • 免疫療法

  • 放射線療法

頭頸部領域の特殊性を明らかにし、
頭頸部がんを含む
難治性疾患の
新規診断・治療法開発を目指す

頭頸部領域における粘膜組織は生理的に特有の機能を有し、呼吸や摂食などの日々の営みや喫煙などの生活習慣によって、外来から種々の刺激を受けています。

頭頸部がんおよび難治性粘膜疾患の発症機序は複雑です。頭頸部がんにおいては、拡大手術やネオアジュバント療法により手術適応が広がったものの、再発・転移症例のコンロトールは今なお困難をきわめ、化学療法・放射線療法・免疫療法などの適切な複合療法によるQOLを維持した低侵襲治療法の選択と開発が望まれます。本プロジェクトにおいては、難治性粘膜疾患および上皮発がんに関わる制御遺伝子・分子の同定や、頭頸部がんの微小環境ネットワークシグナルの解明を通じて、頭頸部領域の特殊性を明らかにするとともに、希少がんであり、外科療法によって患者のQOLの低下を招きやすい頭頸部がんの非/低侵襲治療法を開発することでアンメットメディカルニーズの課題解決を図ります。

03

⼝腔システム―脳連関の統合的解明による早期⼝腔医療の創発

  • 口腔システム-脳連関を分子・細胞・ネットワーク・行動の多階層で解明する
  • 口腔機能低下が脳・精神機能に与える影響を解明し、新規予防法・治療法の開発に資する

口腔システム-脳連関を
分子・細胞・ネットワーク・
行動の
多階層で解明する

口腔機能

脳機能

  • 分子

    分子

  • シナプス

    シナプス

  • 細胞

    細胞

  • ネットワーク

    ネットワーク

口腔機能低下が脳・精神機能に
与える影響を解明し、
新規予防法・治療法の
開発に資する

口腔機能低下

矢印

脳・精神機能低下

すべての世代において口腔機能と
脳機能を向上・維持させる予防法や
治療法を開発し、
健康長寿社会の
推進に大きく貢献することを目指す

咀嚼や嚥下などの口腔機能低下は2018年の「口腔機能発達不全症」の保険収載にみられるように、社会から大きな関心を集めています。また、加齢や障害に伴う認知症などの脳機能低下は、少子高齢化社会の医療の大きな課題です。

近年、歯の喪失、咀嚼能力の低下、歯周病といった口腔システムの不全が脳機能低下のリスクファクターであることが分かりつつあります。これらのエビデンスは、口腔システム―脳連関の観点から脳疾患を捉えることで脳疾患の革新的な予防法・治療法の開発につながることを示唆しています。本プロジェクトでは、口腔システムの健全な発達や維持の基盤となる神経メカニズムと疾患や加齢による口腔システム不全が脳に与える影響を明らかにし、すべての世代において食べる・飲み込むなどの口腔機能を向上・維持させ、食べる楽しさや生きる意欲を高め、脳機能を向上・維持させることで、健康長寿社会の推進に大きく貢献することを目指します。

口腔デバイス・マテリアル部門

健全な飲食はQOLの第一歩であり、「噛む・飲み込む」能力の維持は健康寿命の延伸に繋がります。加齢に伴うこれら口の機能低下が全身の病的老化の要因となる可能性が高く、正しい診断と治療・リハビリテーションが必須となります。

「口腔機能評価デバイスの開発・貴金属に頼らない歯科修復材料の実用化」を目指し、機械・材料・細胞工学、データサイエンスなどの理工学研究者が医歯学チームに加わった一体組織での研究を邁進してまいります。

機械・材料・細胞工学、
データサイエンスなどの
理工学研究者が医歯学チームに
加わった一体組織での研究邁進

01

噛む・飲み込む能力や口内状態
の評価・リハビリ法の開発

  • 噛む・飲み込む・喋るなどの口腔機能の評価指標の策定
  • 口腔機能評価デバイスの開発
  • 口腔機能の変化(オーラルフレイル)から、口腔・全身疾患を予測できる診断法を開発し、病気を未然に防ぐ(未病)
  • 口腔機能を維持・回復することによる健康長寿社会の実現

噛む・飲み込む・喋るなどの口腔機能評価デバイスの開発
ウェアラブルセンサ、バイオセンサ技術を用いた口腔機能の低下(オーラルフレイル)の正確な診断機器

バイオセンサ

微小センサ入りグミ

食品を口内で噛む動きを無線非接触測定

食品を口内で噛む動きを無線非接触測定イメージ

食品を噛む・潰す機能を
リアルタイムで数値化して測定

↓

噛む機能の標準的評価

↓

ビッグデータ蓄積

蛍光剤入り食品

咽頭(のど)を通過する動きを赤外線で測定

咽頭(のど)を通過する動きを赤外線で測定イメージ

X線などの被ばくや
内視鏡の患者負担なしに
光だけで食品が咽頭を
通過する動きを検出

↓

飲み込む能力を数値化して正確に評価

↓

ビッグデータ蓄積

ウェアラブルセンサ、
リモートセンサ

本学摂食嚥下
リハビリテーション学分野が
咀嚼・嚥下・呼吸のウェアラブルセンサを開発中
(岩手大などとの共同研究)

ウェアラブルセンサ、リモートセンサイラスト

噛む(咀嚼)、飲み込む(嚥下)などの口腔機能を早く正確に評価するための標準手法が乏しいことが問題となっています。現状の検査ではエックス線造影や内視鏡の挿入が必要で患者の被ばくや負担が大きく、特殊な検査機器と高額な検査費用が必要で汎用な検査とはなっていません。口腔機能低下の予防には正確かつ簡便な評価手法を開発し普及することが必須です。

本課題に置いてはウェアラブルセンサ、リモートセンサなど先進計測技術を用いた口腔機能の低下(オーラルフレイル)の正確診断技術を開発し、全身の病的老化を未然に防ぐ(未病の発見・抑止)ことを目指します。さらに、将来的に噛む・飲み込む機能の補助またはリハビリ装置の開発に繋げ、口から全身の機能回復、健康寿命の延伸に貢献します。

02

デジタル技術を用いた
歯科治療材料・装置の開発

  • デジタル造形法を活用して物性・精度・価格が安定し、省資源で環境負荷の少ない歯科治療技術を確立する(SDGsの達成)
  • 新規バイオマテリアルと再生医療の創生で生体に優しい補綴物と歯周組織の再生を実現

デジタル技術を用いた歯科治療材料・装置の開発

設計

設計イメージ

歯や粘膜の形・状態を
デジタルスキャンして
記録・長期保存

矢印

遠隔診断・早期診断
医療ビッグデータ利活用・
災害時の個人識別 etc.

矢印

製造

製造イメージ

コンピュータ設計+AI連携
による品質の安定

矢印

中間製作段階による
材料消費の削減
省資源・環境負荷の低減

矢印

完成品

完成品イメージ

デジタル加工による
材料の選択肢拡大

矢印

安全で美しく
品質・価格も安定した
デジタル時代の材料への変革
(セラミックス・複合材料 etc.)

貴金属による従来の歯科治療は材料消費や環境負荷が大きく、社会情勢による価格変動が医療費を圧迫してきました。さらに、従来の歯科治療材料・装置の製造法はデジタル化に未適合で医療ビッグデータの蓄積と利活用にも十分な対応が困難です。

近年はデジタル技術を活用した製造法に変化しており、医療ビッグデータを有効利用するだけでなく、中間材料の消費を削減し環境負荷と省資源にも繋がります。但し、新たな製造法の速度や精度は発展過程であり、専用となる素材の種類や特性についても開発途上にあります。本研究ではデジタル製造手法に適合し、価格も性能も安定した新規歯科治療材料と、新たなデジタル製造技術を開発し、省資源で安定した品質・価格の歯科治療技術を確立することでSDGsの達成ならびに歯科医療費の削減を目指します。