公募研究班員
A01  応答ゾーン、連携ゾーンの解析

核酸認識TLRによるエンドソーム・ライソソームの応答ゾーンの解明

齋藤伸一郎
東京大学医科学研究所 感染遺伝学分野

研究概要

我々は樹状細胞のエンドソーム・ライソソームの機能が関与する免疫応答に関して研究を行ってきた。エンドソーム・ライソソームは蛋白質分解の場または分解までの小胞輸送の過程という認識が強く、残念ながら細胞生物学的にもあまり注目されていない。我々はエンドソーム・ライソソームがそれぞれ異なる機能を持つ領域(ゾーン)を形成し、免疫反応や自己免疫疾患に大きな影響を与えていることを証明する。
樹状細胞のエンドソーム・ライソソームにはそれぞれウイルスや細菌の核酸成分を認識するToll-like receptorが存在している。それぞれ2本鎖RNAを認識するTLR3と1本鎖RNAを認識するTLR7、そしてCpG DNAを認識するTLR9が存在する。そして抗原提示に関わる組織適合性抗原(MHC)クラス1やクラス2も存在している。我々は樹状細胞の小胞輸送が核酸認識TLRの活性化の制御に重要であることを報告してきた。しかし、これまでの研究は殆どIn Vitroでなされいる為、実際に生体レベルでエンドソーム・ライソソームへの小胞輸送を抑制したらどうなるのかを検討した。初めにTLR7に特異的に会合する低分子量G蛋白質Arl8bの欠損マウスを作製した。Arl8bはライソソームに局在し、ライソソームの順行性輸送に関わる分子である。このマウスの解析からインフルエンザ感染に対するインターフェロン産生や全身性エリテマトーデス(SLE)の発症にTLR7とArl8bが関わっていることが明らかになった。TLR7は同じ低分子量G蛋白質のRab7aとは部分的にしか共局在せず、Arl8bがTLR7と同じ小胞内で特異的にTLR7を制御していた。そしてArl8bを欠損した樹状細胞ではMHC クラス2の抗原提示が著しく減少していた。またMHCクラス1の抗原提示の減少は部分的なものであった。我々はこの小胞の領域をArl8bゾーンと呼び、TLR7とMHCクラス2が関与し、SLEの発症に関わっているゾーンであると考えている。次にライソソームへの小胞輸送に関わるRab7aを検討した。するとRab7aにはTLR3が特異的に会合し、Rab7aを欠損した細胞ではTLR3が関わる単純ヘルペス1型感染に反応して惹起するインターフェロン産生が消失した。そして樹状細胞特異的にRab7aを欠損するマウスを樹立すると、2型自己免疫性肝炎を自然発症した。このマウスは胆管炎の所見がある為、原発性硬化性胆管炎か原発性胆汁性胆管炎なのかの確定診断をする予定である。このマウスは肝臓においてCD8T細胞の活性化が顕著に認められたため、T細胞欠損マウスと交配させると高齢の全てのマウスが35から45週齢で間質性肺炎にて死亡した。この結果Rab7aが関わる自己免疫疾患として2型自己免疫性肝炎や胆管炎、間質性肺炎が存在することが明らかとなりつつある。我々はRab7aが存在する小胞をRab7aゾーンと呼び、今までのところArl8bゾーンとは全く異なる機能をしていることが観察されている。このように樹状細胞のエンドソーム・ライソソームにはArl8bゾーンとRab7aゾーンの少なくとも2つの機能的なゾーンがあると考えられる。そしてさらにTLR9が存在するゾーンの存在が予想されている。本研究ではその新たなゾーンを明らかにするだけでなく、各ゾーンに存在すると考えられる機能的な分子の同定、そしてそれぞれのゾーンへの選別輸送システムを解明する。

代表的な原著論文

  1. Saitoh, SI., Mori Saitoh, Y., Kontani, K., Sato, K., Miyake K. (2019) ADP-ribosylation factor-like 8b is require for the development of mouse models of systemic lupus erythematosus. Int. Immunol., 31, 225-237.
  2. Sato, R., Kato, A., Chimura, T., Saitoh, SI., Shibata, T., Murakami, Y., Fukui, R., Liu, K., Zhang, Y., Arii, J., Sun-Wada, GH., Wada, Y., Ikenoue, T., Barber, GN., Manabe, T., Kawaguchi, Y., Miyake, K. (2018) Combating herpesvirus encephalitis by potentiating a TLR3-mTORC2 axis. Nat. Immunol., 19, 1071–1082.

  3. Saitoh, SI., Abe, F., Kanno, A., Tanimura, N., Mori Saitoh, Y., Fukui, R., Shibata, T., Sato, K., Ichinohe, T., Hayashi, M., Kubota, K., Kozuka-Hata, H., Oyama, M., Kikko, Y., Katada, T., Kontani, K., Miyake, K. (2017) TLR7 mediated viral recognition results in focal type I interferon secretion by dendritic cells. Nat Commun. 8, 1592-1604.
  4. Fukui, R., Saitoh, S., Kanno, A., Onji, M., Shibata, T., Ito, A., Matsumoto, M., Akira, S., Yoshida, N., Miyake, K. (2011) Unc93B1 restricts systemic lethal inflammation by orchestrating Toll-like receptor 7 and 9 trafficking. Immunity. 35, 69-81.
  5. Saitoh, S., Arudchandran, R., Manetz, TS., Zhang, W., Sommers, CL., Love, PE., Rivera, J., Samelson, LE. (2000) LAT is essential for Fc(epsilon)RI-mediated mast cell activation. Immunity. 12:525-535.

総説

  1. Miyake, K., Saitoh, SI., Sato, R., Shibata, T., Fukui, R., Murakami, Y. (2019) Endolysosomal compartments as platforms for orchestrating innate immune and metabolic sensors. J. Leukoc. Biol., 106, 853-862. DOI:10.1002/JLB.MR0119-020R.

  2. 齋藤伸一郎. (2019) 形質細胞様樹状細胞のTLR7による1型インターフェロン産生誘導機構の解明, 感染・炎症・免疫, 49, 31-41.
  3. Miyake, K., Shibata, T., Ohto, U., Shimizu, T., Saitoh, SI., Fukui, R., Murakami, Y. (2018) Mechanisms controlling nucleic acid-sensing Toll-like receptors. Int. Immunol., 30, 43-51.
  4. Saitoh, S and Miyake, K. (2009) Regulatory molecules required for nucleotide-sensing Toll-like receptors. Immunol. Rev., 227, 32-43.
  5. Saitoh, S and Miyake, K. (2006) Mechanism regulating cell surface expression and activation of Toll-like receptor 4. Chem. Rec., 6, 311-319.