ご挨拶

新学術領域
「細胞機能を司るオルガネラ・ゾーンの解読」発足にあたって

清水重臣
東京医科歯科大学
難治疾患研究所
病態細胞生物学

 生体において、様々な細胞機能が実行されるためには、細胞小器官(オルガネラ)の高度に専門化された役割は欠かすことができません。このため、多様な生命現象を理解し制御するためには、オルガネラの機能や動態を正しく解析することが必要不可欠となります。

 高い空間分解能と時間分解能を有する顕微鏡の開発によって、オルガネラの観察技術は、飛躍的な発展を遂げつつあります。その結果、①1つのオルガネラの中に、異なる役割を担う場が存在しうること、②オルガネラ機能の多くは、これらの場における素反応の集積として発揮されること、などの新たなオルガネラ像が提示されつつあります。

 本領域では、このような新しい視座に立って、オルガネラの内部に存在する機能場を「ゾーン」と命名しました。そして、各オルガネラ・ゾーンの実態やその機能を明らかにすることによって、オルガネラの機能や役割をより深く、より正しく知り、細胞現象や生体現象の理解に繋げていきたいと考えています。本領域では、①種々のストレスなどによってオルガネラ膜上に形成される「応答ゾーン」、②複数の異なるオルガネラが直接接触を介して情報交換を行う「連携ゾーン」、③小胞体やゴルジ体の内部で、輸送分子に適切な修飾を加えて輸送先を決定する「選別輸送ゾーン」の3タイプのオルガネラ・ゾーンを解析します。また、オルガネラ・ゾーン間の相互作用について統合的な解析にも取り組みます。

 本領域には、各オルガネラ研究(ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体など)のエキスパート、各生物種研究(酵母、植物、ショウジョウバエ、哺乳動物)のエキスパートが参画しています。また、細胞生物学や分子生物学の専門家のみならず、免疫・炎症・発生などの生体高次機能の専門家、分子イメージング、超微形態学、脂質生物学、オミックスなどの専門家が参画しており、これら研究者間の有機的連携により領域全体の発展を目指します。また、2018年度からは、既存の枠にとらわれない独創的な研究を行っている研究者や、計画研究との相乗効果を生み出す研究を行っている研究者にも公募班として参画して頂く予定にしております。世界に先駆けて、従来のオルガネラ研究をオルガネラ・ゾーン研究へと深化させ、新たなパラダイムの確立を目指しますので、ご期待ください。

2017年9月1日