公募研究班員
A01  応答ゾーン、連携ゾーンの解析

脂質交換輸送ゾーンの形成機構と生理機能の解明

中津史
新潟大学大学院医歯学総合研究科

研究概要

オルガネラや細胞膜は、輸送小胞やセカンドメッセンジャーなど様々な手段で物質や情報を伝達・交換しながらコミュニケーションをとっている。しかし近年、それら生体膜は近接することで直接コミュニケーションを図っていることがわかってきた。オルガネラや細胞膜が近接する領域はmembrane contact site(膜接触部位)とよばれ、生体反応の場となることが徐々に明らかになりつつある。なかでも、私たちは脂質交換輸送制御に着目して研究を行っている。オキシステロール結合タンパク質ファミリーは、脂質を輸送するドメインを有する「脂質輸送タンパク質」として機能する。興味深いことに、オキシステロール結合タンパク質ファミリーは、膜接触部位において2つの異なるリガンド脂質を交換輸送する活性を有することが判明している。このオキシステロール結合タンパク質を介した交換輸送においては、イノシトールリン脂質・PI4Pが、膜接触部位の形成、オキシステロール結合タンパク質のリクルート、および脂質交換輸送反応の駆動力産生などのいくつかの重要な役割を担っているが、それらの詳細な分子メカニズムは明らかになっていない。また、その脂質交換輸送が担う生理機能についてもほとんど明らかになっていない。本研究では、培養細胞やゼブラフィッシュなどを用いて、脂質交換輸送の場となる脂質交換輸送ゾーンの形成機構とその生理機能の解明を目指す。

代表的な原著論文

  1. Nozumi M, Nakatsu F, Katoh K and *Igarashi M.: Coordinated Movement of Vesicles and Actin Bundles During Nerve Growth Revealed by Superresolution Microscopy. Cell Rep.18, 2203-2216, 2017
  2. Xiong D, Xiao S, Guo S, Lin Q, Nakatsu F and *Wu M.: Frequency and Amplitude Control of Cortical Oscillations by Sequential Phosphoinositide Waves. Nat. Chem. Biol. 12, pp. 159-166, 2016
  3. Chung J, Torta F, Masai K, Lucast L, Czapla H, Tanner LB, Narayanaswamy P, Wenk MR, *Nakatsu F and *De Camilli P. (2015) PI4P/phosphatidylserine countertransport at ORP5 and ORP8-mediated ER-plasma membrane contacts. Science 349(6246), 428-32
  4. Nakatsu F, Messa M, Nandez R, Czapla H, Zou Y, Strittmatter SM and De Camilli P. (2015) Sac2/INPP5F is an inositol 4-phosphatase that functions in the endocytic pathway. J. Cell Biol. 209(1), 85-95
  5. Nakatsu F, Baskin JM, Chung J, Tanner LB, Lee SY, Pirruccello M, Hao M, Ingolia NT, Wenk MR, De Camilli P. (2012) PtdIns4P synthesis by PI4KIIIα at the plasma membrane and its impact on plasma membrane identity. J. Cell Biol. 199(6), 1003-16 (equal contribution)

総説

  1. 中津 史:オキシステロール結合蛋白質ファミリーによる細胞内脂質輸送制御 医学のあゆみ Vol. 269 No.13, p19921-19926, 2019
  2. 中津 史:ホスファチジルイノシトール4-リン酸による細胞機能の制御 領域融合レビュー 5, e008, 2016
  3. 中津 史、Olof Idevall-Hagren:脂質オプトジェネティクス〜光による脂質の操作〜 実験医学 33, pp. 3089-3092, 2015