文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究 シナプス・ニューロサーキットパソロジーの創成

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研究領域【シナプスパソロジー】

計画研究

岡澤グループ

研究課題名 発達障害・変性疾患のシナプスダイナミックパソロジーの解明

発達障害、変性疾患の両グループにおいてシナプスにおける分子変化・機能変化が注目されている。しかし、疾患遺伝子の発現と各種シナプス分子の発現・局在さらにはシナプス機能の時空間的関係は明らかではない。私たちは低密度培養神経細胞におけるウィルスベクターによる疾患遺伝子発現とシナプス分子の発現・局在・機能の時空間的 in vitro 解析に加えて、ショウジョウバエ、マウスの変性疾患・発達障害モデルを作成し、それらのin vivo imagingから得られるシナプス伝達変化の情報を統合することで、発達障害・変性疾患のシナプスダイナミックパソロジーの解明を目指す。

岩坪グループ

研究課題名 シナプスを標的とするアルツハイマー病の病態解明と治療

アルツハイマー病(AD)脳に生じるAβペプチド蓄積の形成過程ならびに神経障害のメカニズムには不明な点が多い。近年シナプスがAβ分泌の場であることも示唆され、ADを「シナプス異常症」と捉える視点が生じつつあるが、Aβの産生・蓄積とシナプス活動の関係を直接検証した研究はない。そこで本研究においては(1)ADモデル動物脳におけるシナプス活動依存性Aβ産生・蓄積の実証 (2)シナプスにおけるAβ分泌機構の解明 (3)Aβによるシナプス障害機構の解明と治療法開発について検討を行う。

公募研究(H25-26)

有賀(寛芳)グループ

研究課題名 DJ-1によるドレブリンを介したスパイン形成調節

樹状突起スパインは後シナプスにおける神経伝達物質受容に重要な機能を有し、種々の神経変性疾患、とりわけ認知機能低下をもたらす疾患ではスパイン形成異常が報告されている。また、家族性パーキンソン病原因遺伝子DJ-1ノックアウトマウスではシナプス伝達の長期抑圧(LTD)が見られ、ドパミンシグナル低下がLTDに関与することが示唆されている。我々はDJ-1が直接ドレブリンに結合し、アクチン重合を活性化しスパインの突起伸長と太さを増幅することを見出した。そこで、DJ-1によるシナプス制御機構を、酸化ストレス等病態関連因子をからめて分子レベルで解析する。

塩田グループ

研究課題名 ATR-X症候群におけるシナプスパソロジー分子機構の解明

本研究の目的は、X 連鎖 αサラセミア精神遅滞症候群 (ATR-X 症候群) モデルマウス (Atrx マウス) と ATR-X 症候群患者由来 iPS 細胞を用いて、ATR-X症候群における認知機能障害の原因因子を同定することである。私達は Atrx マウスを用いた解析の結果、あるインプリント遺伝子 XがAtrx マウス脳特異的に高発現していることを明らかにした。そこで、インプリント遺伝子 X に着目し、ATR-X 症候群由来 iPS 細胞とAtrx マウスを用いて脳神経の機能解析を行い、治療ターゲットとなるシナプス病態関連分子の探索を行う。

吉田グループ

研究課題名 シナプスオーガナイザーの機能破綻から神経発達障害の発症に至るシナプス病態の解明

Il1RAPL1、Neuroliginなどのシナプスオーガナイザーの単一遺伝子欠損は自閉症・知的障害などの神経発達障害を引き起こすことが知られている。一方で、シナプスオーガナイザーによって惹起される細胞内シグナルやシナプスオーガナイザーが担う脳神経回路構築の基本原理は未だに明らかになっていない。本研究ではIL1RAPL1-PTPδおよびNeuroligin-Neurexinによって活性化されるシナプス誘導シグナルに関わる細胞内分子ネットワークを明らかにするとともに、シナプスオーガナイザーの機能欠損が引き起こす神経発達障害におけるシナプス病態と回路構築病態の解明を目指す。

郭グループ

研究課題名 Ca2+透過性AMPA受容体過剰発現による緩徐な運動ニューロン死の分子病態解析

孤発性ALS脊髄運動ニューロンでは、RNA編集酵素であるADAR2の発現低下に依り、正常には発現しない未編集型AMPA受容体サブユニットGluA2 が発現し、そのためCa2+透過性AMPA受容体を介したメカニズムにより緩徐な運動ニューロン死を引き起こしている。この分子病態を再現するAR2マウスはCa2+透 過性AMPA受容体を介した緩徐な細胞死の初めてのモデルマウスであり、TDP-43病理の形成をもたらすなど孤発性ALSの分子病態をよく再現している。このマウスの解析から、核に形態異常を引き起こすことが明らかになったので、過剰なCa2+流入が核障害を介して緩徐な細胞死を引き起こすメカニズムの解析を行う。

渡瀬グループ

研究課題名 Cav2.1遺伝子異常による神経機能障害の解明

電位依存性カルシウムチャネルCav2.1遺伝子の変異は、さまざまな優性遺伝性神経疾患と関連しているが、特にC末端細胞質内領域の欠失は、てんかんを伴う進行性失調の原因となり、またC末端領域のポリグルタミンをコードするCAGリピートの伸長は本邦で頻度が高い脊髄小脳変性症6型(SCA6)の原因となる。本研究では我々がこれまでに作製してきたSCA6モデルやC末端領域欠失モデルを材料として、これらの疾患における小脳シナプス・神経回路の分子病態を蛋白間相互作用や遺伝子発現制御の面から解明し、治療への手掛かりを得ることを目指す。

鈴木グループ

研究課題名 中枢シナプスの形成、維持、可塑性を制御する分子から解く病理メカニズム

脳が正常に作動するにはニューロンとニューロンが正確に繋がりあい、その繋がりを維持し、状況に応じて可塑的に変化させなければならない。これらが異常となると、精神疾患など重篤な病気につながると考えられる。本研究は、ショウジョウバエ視神経系をモデルとして、優れた遺伝学的手法を駆使して、中枢シナプスの新たなシナプス・オーガナイザーを同定し、原因タンパク質の機能解析を1シナプスの高解像度で解析する。中枢シナプスの1) 形成、2) 維持、3) 可塑性の分子メカニズムを明らかにすることによって、中枢シナプス病の発症要因の解明、疾患モデル動物の開発を目標としている。

森グループ

研究課題名 DISC1/Neuregulin-1とシナプス形成

統合失調症の発症原因、発症機序およびその分子病態は現在もなお不明な点が多く、解明に向け研究の推進が望まれている。本研究では、有力な統合失調症発症脆弱性因子(DISC1、Neuregulin-1など)に焦点を当て、その分子間ネットワークを解明することにより、統合失調症の分子病態を理解することを目的とする。我々はDISC1がNeuregulin-1の細胞質内ドメインに直接結合し、Neuregulin-1の細胞内輸送と分泌の制御に関与することを見出した。DISC1とNeuregulin-1の細胞内輸送機構およびシナプス形成への関与を、細胞生物学的な手法で明らかにする。また、DISC1欠損マウスおよびNeuregulin-1トランスジェニックマウスを用いた個体レベルの分子生物学および行動薬理学的解析から、統合失調症の診断や治療への応用を目指す。

中島グループ

研究課題名 神経発達障害におけるシナプス病態の分子基盤解明

MeCP2遺伝子の変異は、Rett症候群(RTT)をはじめ、自閉症、双極性障害、統合失調症をふくめた種々の発達障害・精神疾患への関与が示唆されている。これらの疾患はいずれもシナプス機能障害との関連が示唆されているが、MeCP2の遺伝子異常によりシナプス機能障害が引き起こされるメカニズムは不明である。そこで本研究では、申請者らが発見したMeCP2によるmiRNAプロセッシング作用をもとに、MeCP2の機能欠損がどのように興奮性シナプス伝達の障害を引き起こすのか、そのメカニズムを明らかにすることにより、RTTのみならず他の発達障害・精神疾患へも応用可能なシナプス病態の分子基盤の解明を目指す。

伊藤グループ

研究課題名 神経変性を伴うリソソーム蓄積症におけるシナプス病態の解明と治療への応用

リソソーム酵素の遺伝的欠損が原因で中枢神経症状を示すリソソーム蓄積症(LSD)の発症機構の解明と新規治療法開発を目的とし、神経変性LSDモデルマウス脳室内に、酸性pH活性化蛍光プローブで標識された組換えヒトリソソーム酵素を投与し、脳組織内分布および酵素活性のin vivo蛍光イメージングを行う。また質量顕微鏡を用いるイメージングMSにより、酵素補充前後の各脳組織での蓄積物質の分布の変動を解析する。さらにLSDモデルマウスの小脳における神経可塑性制御分子とシナプス病態との相関及び中枢神経症状を伴うLSD患者iPS細胞から分化誘導した培養神経系細胞を用い、シナプス・ニューロサーキット形成異常と組換えリソソーム酵素補充による正常化の分子メカニズムを解明する。

祖父江グループ

研究課題名 ストレスホルモン曝露に伴うシナプス形成・可塑性障害の分子メカニズム

ストレスによる内分泌恒常性破綻に伴うグルココルチコイド(ストレスホルモン)曝露は、シナプス形成・可塑性から大脳構築に至る障害を来たし、うつ病・不安障害など広義の感情障害発症の要因と考えられている。本研究は、ストレスホルモン曝露によるシナプス形成・可塑性障害の分子メカニズムを、新規に確立した完全合成培地による長期神経細胞培養系を用いて、アクチン細胞骨格群とPSD蛋白質群およびシグナル伝達分子による制御から解析を行なう。また同上新規神経細胞培養を用い、網羅的遺伝子解析によりストレスホルモン曝露に伴いエピゲノム制御を受けるストレス関連標的遺伝子群の検索を行い、シナプス可塑性障害への関与を解析する。

深田グループ

研究課題名 遺伝性側頭葉てんかんのシナプスおよび神経回路病態の解明

"てんかん"は最も頻度の高い神経疾患の一つであり、根本的な病態の理解と治療法の開発が待たれている。家族性側頭葉てんかんの原因遺伝子産物である分泌蛋白質LGI1は膜蛋白質ADAM22/ADAM23のリガンドであり、脳内の主要な興奮性シナプス伝達を担うAMPA受容体機能を促進する。また、LGI1機能欠損マウスでは海馬シナプスのAMPA受容体機能が低下し、てんかんが必発する。本研究では、てんかん関連リガンド・受容体LGI1・ADAM22をてがかりに、LGI1遺伝子変異が1)シナプス伝達異常と2)神経回路異常をもたらす分子過程を明らかにして、てんかんの根幹的な病態を解明すると共に、3)見出した分子病態に基づく新たなてんかん治療戦略を探索することを目的とする。

有賀(純)グループ

研究課題名 近視難聴合併症とシナプス病態との関連の解明

近視と難聴は共に非常に頻度の高い感覚障害であるが、難聴の小児では近視の発症率が高いことが知られている。最近、我々はシナプス誘導能を持つ膜タンパク質をコードするSLITRK6が近視と難聴の合併症の原因遺伝子となることを見いだした。内耳・網膜には共通してリボンシナプスと呼ばれる構造があり、眼や内耳の感覚受容に特化した構造ではないかと提唱されているが、その形成機構の詳細は不明の点が多い。本研究では疾患モデルマウスを用いて、シナプス形成障害と関連した病態、Slitrk6およびSlitrkファミリーによるシナプス形成制御の生理学的意義を明らかにする。

山形グループ

研究課題名 自閉症関連分子TAO2キナーゼによるスパイン形成制御

神経活動によって発現制御されるプロトカドヘリンarcadlin/PCDH8が、シナプス接着に必須なN-cadherinのエンドサイトーシスを促進することによってスパイン退縮を起こすことを明らかにしている。この過程には、arcadlinの細胞内ドメインと結合するTAO2キナーゼ、その下流のp38 MAPキナーゼの活性化が必要である。一方、TAO2遺伝子を含む染色体領域(16p11.2)の微小欠失が自閉症や統合失調症と関連することが明らかになってきた。そこで、arcadlinの細胞内情報伝達系の異常がスパインの形態変化を引き起こし、脳病態発症に関与するかどうかを検証する。

和田グループ

研究課題名 母体の食変化と子の脳機能発達に関する病態神経科学研究

母体の高脂肪食摂取が子のシナプスにどのように影響するかをマウスで解析する。これまで母体の妊娠前~離乳までの高脂肪食摂取は幼若期産仔海馬で酸化脂質の蓄積と神経新生低下、BDNF値低下、樹状突起分岐不全、記憶学習の低下を誘導することを発見し、さらに微細なスパインレベルにおいても数の低下と成熟不全が産仔に存在することを示した。また、離乳後継続する産仔の高脂肪食摂取は海馬、内側前頭前皮質のスパイン数低下と成熟不全を非可逆的に誘導することも見いだした。今回は産仔を離乳後通常食で飼育した際のスパイン成熟不全の継続性、治癒性について解明し、スパインの機能形態変化を防止する要因を特定する。さらに幼若期に認めたスパインの機能形態変化が成長後の精神神経疾患の発症に関わるか否かを明らかにする。

一戸グループ

研究課題名 霊長類特異的シナプス形成/刈り込みメカニズムと発達障害におけるその異常

ヒトを含む霊長類では、生後に新生児期、小児期にシナプスの急速な増大が起こり、小児期にピークに達し、その後、児童期、思春期、青年期、成人とシナプスが刈り込まれて行く。近年、このパターンの異常と精神疾患に関連がある事が解明されつつある。例えば、自閉症スペクトラムでは、シナプスの増大に比して、シナプスの刈り込みが小さく、統合失調症では、思春期のシナプスの刈り込みが過剰に起こっていると考えられている。本研究は、霊長類マーモセットを用いて、その正常な分子メカニズムを検討するとともに、開発した自閉症モデルマーモセットを用いて、その分子的なシナプス形成/刈り込みの異常性のメカニズムを明らかにする事を目指す。

永井グループ

研究課題名 シナプス発達障害仮説に基づいた神経変性疾患における機能障害発現メカニズムの解明

アルツハイマー病、パーキンソン病、ポリグルタミン(PolyQ)病など多くの神経変性疾患では、様々な神経機能障害を来たして発症に至ると考えられているが、その詳細な分子メカニズムはこれまで未解明であった。本研究では、様々な神経変性疾患に共通する普遍的な神経機能障害メカニズムとしてのシナプス発達障害仮説の証明を目的として、1)疾患モデルショウジョウバエを用いた遺伝学的解析により、シナプス機能異常が関わる神経機能障害の共通分子メカニズムを明らかにする。2)2光子顕微鏡を用いたin vivoイメージングにより、疾患モデルマウスにおけるシナプス-ミクログリア相互作用の異常、さらにシナプスよりも上位の神経ネットワークレベルでの病態を明らかにする。

公募研究(H23-24)

塩田グループ

研究課題名 シナプスパソロジーにおける脱リン酸化酵素PP1/PP2Aのスパイン制御機構の解明

神経細胞における脱リン酸化酵素PP1・PP2A は、精神疾患に関連し、主に細胞核内に局在することが示唆されている。PP1・PP2A は神経細胞核内においてリン酸化酵素 CaMKII 活性を制御し、病態関連因子の機能調節を担っていると考えられるが、神経細胞核内の脱リン酸化酵素に着目し、疾患関連遺伝子の発現とシナプス分子の発現、それによるシナプス機能に与える影響に関する研究は未だ報告がない。本研究では、(1) 神経細胞における核内PP1・PP2A 脱リン酸化酵素活性の同定 (2) 神経細胞核内 CaMKII/PP1・PP2A 活性バランスの破綻によるスパイン形態、シナプス伝達の異常とそのメカニズム (3) ヒト精神遅滞モデルマウスにおける核内 CaMKII/PP1・PP2A 活性制御によるシナプスパソロジー改善効果について検討する。

郭グループ

研究課題名 孤発性ALSにおけるRNA編集酵素活性制御異常の分子病態の解析

孤発性ALS脊髄運動ニューロンでは、AMPA受容体のサブユニットGluR2 Q/R 部位のRNA編集効率が低下し、AMPA受容体のCa2+透過性亢進を通じて運動ニューロン死を引き起こしている。この部位のRNA編集は、adenosine deaminase acting on RNA 2(ADAR2)が特異的に触媒することから、孤発性ALS運動ニューロンではADAR2活性が低下していると考えられる。本研究では,孤発性ALSの発症にADAR2活性低下が関与していることを明らかにし、ADAR2活性制御異常を生じる分子メカニズムを探ることを目的とする。

森グループ

研究課題名 DISC1/Neuregulin-1とシナプス形成

統合失調症の発症原因、発症機序およびその分子病態は現在もなお不明な点が多く、解明に向け研究の推進が望まれている。本研究では、有力な統合失調症発症脆弱性因子(DISC1、Neuregulin-1など)に焦点を当て、その分子間ネットワークを解明することにより、統合失調症の分子病態を理解することを目的とする。最近、我々はDISC1がNeuregulin-1と相互作用する可能性をアフィニティクロマトグラフィーにより見いだした。DISC1とNeuregulin-1の細胞内での機能およびシナプス形成への関与を、細胞生物学的な手法で明らかにする。また、DISC1およびNeuregulin-1欠損マウスを用いた個体レベルの分子生物学および行動薬理学的解析から、統合失調症の診断や治療への応用を目指す。

祖父江グループ

研究課題名 ストレスホルモン曝露に伴うシナプス形成・可塑性障害の分子メカニズム

ストレスによる内分泌恒常性破綻に伴うグルココルチコイド(ストレスホルモン)曝露は、シナプス形成・可塑性から大脳構築に至る障害を来たし、うつ病・不安障害など広義の感情障害発症の要因と考えられている。しかしこれまでの研究は現象論的解析が中心で、障害の分子メカニズムは不明であった。本研究は、ストレスホルモン曝露によるシナプス形成・可塑性障害の分子メカニズムを、新規に確立したストレスホルモンを含まない完全合成培地による長期神経細胞培養系を用いて、アクチン細胞骨格群とPSD蛋白質群およびシグナル伝達分子による制御から解析を行なう。

白根グループ

研究課題名 細胞内膜系調節によるシナプス制御の分子機構

本研究は「細胞内膜系(endomembrane system)調節によるシナプス制御の分子機構解明」を目的とし、細胞内小胞輸送および細胞内膜構造の調節が、高次脳機能に関連するシナプス制御、および変性疾患・発達障害・精神疾患などの脳神経疾患発症に、どのような分子機構で関与しているのか明らかにする。特に(1)樹状突起スパインの機能調節における小胞輸送の関与の詳細な機構に焦点を当てて解析する。また(2)神経突起やスパイン等の機能における、細胞内膜系の膜曲率上昇(membrane curvature)と膜系構造変化の関与について解析する。そして、それらの機構の異常と脳神経疾患との関連を明らかにする。

松本グループ

研究課題名 ヒト脳神経疾患を惹起するシナプス関連分子異常探索

本研究では2系統の脳神経疾患を対象とする。常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症(Autosomal Recessive SpinoCerebellar Ataxia, ARSCA)と小児難治性てんかんである。ARSCAは既知遺伝子の異常に依らない、血族婚を有した3家系を集積し既にSNPアレーを用いたhomozygosity mappingにより候補遺伝子領域を数カ所にまで絞っている。この内一家系に於いて全ゲノムエクソーム高速シーケンス解析を行い、原因となる遺伝子変異を特定した。さらに小児難治性てんかんは、報告済みのシナプス関連遺伝子異常に加え新規分子異常を見出している。これら2系統の疾患のシナプス関連分子探索によって、シナプス関連分子異常が惹起するヒト脳神経疾患の確立と解明を目指す。

富山グループ

研究課題名 細胞内A・オリゴマーによるシナプス・細胞障害とtauとの相互作用

アルツハイマー病のシナプス機能障害や記憶障害は細胞外A・オリゴマーが原因であると考えられている。一方で、細胞内A・の寄与を示唆する報告もあり、私達もA・オリゴマーの細胞内蓄積がシナプスや細胞の機能を障害することをE693・変異APPトランスジェニックマウスで示した。細胞外A・の毒性にはtauが必要不可欠であることが示されているが、細胞内A・の毒性にtauが関与しているのかどうかは不明である。そこで本研究では、E693・変異APPマウスをtauノックアウトマウスやtauトランスジェニックマウスと交配しtauの欠失や過剰発現の効果を調べることで、細胞内A・オリゴマー毒性機構のさらなる解明をめざす。

小林グループ

研究課題名 モノアミン系機能亢進によるグルタミン酸シナプス表現型変化の解析

統合失調症やうつ病などの精神疾患においてモノアミン神経系とグルタミン酸作動性シナプスの両者の機能不全が示唆されている。私たちは最近、高用量の抗うつ薬を成体マウスに慢性投与することによって、海馬のグルタミン酸作動性シナプスの表現型が成熟型から幼若型に変化することを発見した。さらに、モノアミン系の神経修飾の亢進がこのシナプス表現型変化において重要な役割を果たすことを示した。この表現型変化は行動の不安定化などの行動異常の発現と相関するため、抗うつ薬の有害反応に関連する可能性がある。本研究ではこの系をシナプス病態モデルとして活用し、モノアミン神経系機能亢進に依存したグルタミン酸シナプス表現型変化の誘導・発現メカニズムの解明を試みる。

深田グループ

研究課題名 遺伝性側頭葉てんかんのシナプス病態、神経回路病態の解明

“てんかん”は人口の1%程度に発症する頻度の高い神経疾患であるが、その病態、病因は不明な点も多く、根本的な治療法の開発が待たれている。本研究では、私共がこれまでに見出した脳内の正常な神経活動を支える基盤システムである“LGI1とADAM22/23からなるリガンド・受容体相互作用”を手がかりとして、てんかんの根本的な病態機構の解明を目指す。具体的には、1)てんかん原性LGI1遺伝子変異とシナプス伝達異常の関連性と2)てんかん発症における海馬シナプス・神経回路の分子病態を解明する。

山形グループ

研究課題名 結節性硬化症におけるスパイン形成障害の分子病態

結節性硬化症は、精神発達遅滞やてんかん発作、自閉症などを主徴とする母斑症の一種である。その原因遺伝子産物はTSC1あるいはTSC2であるが、近年TSC2が代表者の発見した低分子G蛋白質RhebのGTPase活性化因子であることが報告された。RhebはmTOR(ラパマイシンの標的分子)を活性化することから、「TSC2変異によって、RhebがGTP型となり、下流のmTORを活性化する結果、上記の症状を発症する」と考えられている。一方、結節性硬化症においても、他の発達障害と同様にスパイン形成異常が観察されている。本研究課題では、結節性硬化症におけるスパイン形成障害の分子機構を明らかにする。

和田グループ

研究課題名 母体の食変化と子の脳機能発達に関する病態神経科学研究

栄養状態の個人差がいかにシナプス機能に影響するかに関して分子的に明らかにした研究は無い。これまで、母体の妊娠前〜離乳までの高脂肪食摂取は幼若期の産仔に脳機能形態学的変化(海馬での酸化脂質の蓄積と神経新生低下、記憶学習獲得過程の遅延)を誘導することをマウスで見いだした。本研究ではこれまでの研究を発展させ、母体の食習慣が子のシナプス機能・形態変化についてどのような影響を及ぼすかを解析する。また、神経回路学的評価、行動学的評価との連動から、母体の食習慣ははたして子の脳機能発達に非可逆的変化をもたらすのか否か、特に、もたらす場合はその要因を、明らかにすることをめざす。

永井グループ

研究課題名 神経変性疾患におけるシナプス機能異常に着目した神経機能障害メカニズムの解明

アルツハイマー病、パーキンソン病、ポリグルタミン病など多くの神経変性疾患において、様々な蛋白質のミスフォールディング・凝集により可逆性の神経機能障害を来たして発症に至ると考えられているが、その詳細な分子メカニズムはこれまで未解明であった。本研究では、神経症状発症に関わる個体レベルでの可逆性神経機能障害の分子メカニズムの解明を目的として、1)疾患モデルショウジョウバエを用いた遺伝学的スクリーニングにより、シナプス機能異常が関わる神経機能障害の分子メカニズムを明らかにする。2)2光子レーザー顕微鏡を用いたin vivoイメージングにより、疾患モデル動物におけるシナプスの形態・機能異常を明らかにする。

吉田グループ

研究課題名 IL1RAPL1によるシナプス形成調節と精神遅滞・自閉症の発症機構の解明

Interleukin-1 receptor accessory protein-like 1 (IL1RAPL1)はX染色体連鎖型非特異的精神遅滞の原因遺伝子として同定され、自閉症家系においてもその変異が報告されている膜分子である。IL1RAPL1は細胞外ドメインを介して興奮性シナプス前終末を誘導し、細胞内ドメインを介してスパイン形成を誘導する活性を持つシナプスオーガナイザーであり、実際にIL1RAPL1欠損マウスのいくつかの脳部位においてシナプスが減少することを見出した。本研究ではIL1RAPL1がシナプスオーガナイザーとしてシナプス前終末と後終末を誘導するシグナル複合体を明らかにし、IL1RAPL1の欠損がシナプス形成調節の破綻、疾患の発病を引き起こすメカニズムの解明を目指す。

木下グループ

研究課題名 前シナプス膜とグリア膜直下のセプチン細胞骨格の破綻を伴う精神・神経疾患病態の解析

セプチン(SEPT1-14)はシナプス膜やグリア膜を裏打ちする重合性蛋白質であり、多様な精神・神経疾患に関与する。脳特異的サブユニットSEPT4は生理的にシヌクレインと相互作用するparkinの基質であり、パーキンソン病においてシヌクレインと共凝集する。本研究ではマウスのドパミンニューロンでセプチン系を破綻させ、神経伝達障害とシヌクレイン凝集の再現を試みる。また、グリア細胞でのセプチン系の破綻がアミロイド小体様凝集体を多発させることを新たに見出したので、そのメカニズムとグリア機能障害を解析する。これら病態モデルの解析を通じてシナプス病態およびグリア病態の一端を理解し、バイオマーカーや治療標的の発見を目指す。

班友

富田グループ

研究課題名 神経活動によるセクレターゼ活性制御機構の解明

近年、アルツハイマー病発症に関与するアミロイドβタンパク(Aβ)の産生は神経活動と連関することが示されつつある。またAβ産生に関わるプロテアーゼであるα、β、γセクレターゼは、神経活動を制御するシナプス接着分子の代謝にも関わることが知られている。しかしその活性制御に関わる分子機構やシナプス機能との関連についてはほとんど不明である。本研究ではこれらセクレターゼの活性制御機構について神経活動の観点から明らかにすると同時に、その切断システムがシナプス機能に及ぼす影響について検討を行う。

内匠グループ

研究課題名 自閉症ヒト型モデルマウスを用いた社会性行動のシナプスパソロジー

我々は、染色体工学的手法を用いて、ヒト染色体15q11-q13重複のモデルマウスの作製に成功した。15q11-q13重複は自閉症の細胞遺伝学的異常としてはもっとも頻度の高いもので、本モデルは、自閉症様行動を示すという表現型妥当性を示すだけでなく、自閉症の原因である染色体異常を患者と同じ型で有するという構成的妥当性をもみたす自閉症ヒト型モデルマウスである。本研究においては、本マウスのシナプス異常を中心に、シナプス異常がもたらす社会性行動異常のメカニズムを明らかにすることを目標とする。本マウスを用いて、スパインレベル、さらにそのニューロサーキットレベルの解析を行うことにより、社会性(行動)の責任脳部位とそのニューロサーキットが明らかになるばかりでなく、自閉症を含む発達障害もシナプスパソロジーとしてあらたな分野の創成が期待されるものである。

内山グループ

研究課題名 神経軸索におけるタンパク分解機構とその破綻

軸索/シナプス前領域は、樹状突起や細胞体に多く存在するシナプス後領域とは異なり、オートファジー/リソソーム系での分解については不明な点が多い。本研究では、軸索/シナプス前領域における、オートファゴソーム形成に必須なタンパク質の動態を検討し、不必要な物質の排出機構を解析、疾患との関わりを解析する。このため、Atg9A、DFCP1と蛍光タンパクとの融合タンパク質のトランスジェニック(TG)マウスを作製し、正確なリアルタイムイメージングによってオートファジーの形成過程を解析し、これを分子細胞生物学的に検討する。

服部グループ

研究課題名 オートファジー破綻におけるシナプス機能不全のメカニズム

パーキンソン病(PD)の殆どは遺伝歴のない孤発型であるが、その一部に遺伝性PD(FPD)が存在する。長期に渡ってPDは、L-ドーパ反応性を示すことから、後シナプス機能は保持され、前シナプス機能不全が本態であると予想される。PDは一つの疾患名であるが、その病態は多岐に渡っていると言わざるを得ない。この多様性疾患の病態を解明するには、単一遺伝子異常で発症するFPDの病態を解明することが最も効率的な神経変性解明の戦略だと考えている。近年、FPDの原因遺伝子産物parkin, PINK1のオートファジーへの関与が明らかにされた。本課題では、その破綻がもたらすシナプス機能不全を、膵β細胞のインスリン分泌をモデルとして捉え、PDの病態に迫りたい。

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