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領域代表の挨拶
平成22年度から始まる新学術領域『シナプス・サーキットパソロジーの創成』の領域代表を務めます岡澤均です。私たちの目指す学問領域について、そして何故このような提案を行うに至ったかを簡単にご説明したいと思います。
変性疾患研究の歴史は既に100年を過ぎましたが、私たちはまだ真に有効な治療法を手に入れていません。変性疾患に比べて原因遺伝子の発見や病態解明が遅れている印象がある発達障害や精神疾患の研究はなおさらのことです。もちろん、変性疾患研究は多くの知見を私たちにもたらしました。変性疾患は発達障害や精神疾患に比べて遺伝子異常と表現型(症状)の対応が明確であり、また単一疾患に属する患者数が多かったことが、原因遺伝子の発見につながりました。そして原因遺伝子の発見は病理学的に既に知られていた封入体や凝集体の形成の謎をほぼ解き明かしました。また、アミロイドイメージングなどの診断技術の発展にも大きく寄与しました。一方で、進行病変において凝集体を取り除いても症状の回復が見込めないことが分かってきました。その背景となる神経細胞(ニューロン)の様々な機能障害が新たな課題としてクローズアップされています。さらには、神経細胞の機能失調から細胞死へ至る過程も明らかではありません。脳が神経細胞を素子とする回路である以上、素子間のコンタクトを担うシナプスと回路の脆弱性は脳マシーンのパフォーマンス低下の最も重要な原因であることは明らかです。
本研究領域ではニューロン機能異常がシナプス異常と回路脆弱性に如何に結びつくのかを5年間で解明したいという野心的な挑戦です。もちろん、全てが分かるというような慢心はしておりませんが、その本態の幾つかのプロトタイプを確かなものにしたいと考えています。そして、それが脳疾患を早期病変段階で食い止め回復させる、真に有効な治療の礎となることを信じています。多くの脳病態研究者・基礎研究者に参加して頂き、さまざまなアイデアを持ち寄って脳疾患研究の新たなフロンティアを共に切り開いて下さることを切に願っております。
領域代表
東京医科歯科大学難治疾患研究所・教授 岡澤 均