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ゲノムアレイによる先天異常解析と微細ゲノムコピー数異常診断装置の開発FINDING / PRESS

稲澤譲治教授らが研究している先天異常症の高精度診断を可能にする「先天異常症診断アレイ(GD-700)」が世界で初めて実用化されました。
 

「ゲノムアレイによる先天異常解析と微細ゲノムコピー数異常診断装置の開発」

 

林 深特任助教、井本逸勢准教授、稲澤譲治教授等 (ゲノム応用医学研究部門分子細胞遺伝分野)

 
  1. “Comparative genomic hybridization (CGH)-arrays pave the way for identification of novel cancer-related genes.”Inazawa J, Inoue J Imoto I.Cancer Sci. 2004;95:559-563.
  2. “The CASK gene harbored in a deletion detected by array-CGH as a potential candidate for a gene causative of X-linked dominant mental retardation.”Hayashi S, Mizuno S, Migita O, Okuyama T, Makita Y, Hata A, Imoto I, Inazawa J.
    Am J Med Genet A 2008;146A:2145-51.
 
先天異常疾患の中でも、多発奇形を伴う精神発達遅滞(Multiple Congenital Disorder and Mental retardation, MCA/MR)の病態形成にはゲノム構造異常の関与が強く疑われます。例えばWilliams症候群やPrader-Willi症候群などのように臨床症状を基盤として疾患単位が確立され、ゲノム異常と臨床症状との関連が詳細に解析されている先天異常症候群も存在しますが、多くの非定型的症状を呈するMCA/MRの発症機序は不明であり、従来取り得る臨床検査手法は限定的でした。通常のルーチン検査として実施されるG分染法で染色体異常が検出される頻度は7%~30%と報告により大きく差があります。

我々は、ゲノムコピー数変化を高精度に検出することが可能な技術であるアレイCGHを先天異常疾患の解析に供し、実用化することを目的として、2005年より全国の23の医療機関(2009年10月現在)とコンソーシアムを形成し、症例の収集・解析をおこなってきました。用いたのは独自に作製したBACアレイです(発表論文1)。染色体のサブテロメア領域と既知の疾患原因領域をカバーした診断型アレイであるMCG Genome Disorder Array(GDA)で一次スクリーニングをおこない、ゲノム異常が検出されなかった症例に対しては全染色体を対象とした探索型アレイであるMCG Whole Genome Array-4500(WGA)を用いて二次スクリーニングをおこないました。
 
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我々はこの4年間で534例のMCA/MRを解析し、1次スクリーニングでは56症例(10.5%)に何らかの病態に関連するゲノムコピー数異常を検出しました。また、2次スクリーニングでは現在までに303例の解析が終了し、52症例(17.2%)に疾患に関連する可能性の高いゲノムコピー数異常を検出しました。これらの結果は、原因不明であったMCA/MR症例の約1/4に何らかのゲノム異常を検出し得ることを示唆するものです。関連の成果として、BMP4やCASKなどのハプロ不全により形成される新しい先天異常症の病態を明らかにすることができました(発表論文2)。我々の研究は、解析の手段が無いことから、原因不明とされることが多かったMCA/MR症例の診断、疾患原因探索、患児の予後予測、療育方針の決定など臨床・研究の両面に大きく寄与することが期待されます。

これらの基盤的な成果をもとに、実用化レベルの先天異常症の診断用ゲノムアレイを開発し、2009年10月1日より、富士フイルム株式会社より供給、株式会社ビー・エム・エルで受託検査が開始されました。