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毛包幹細胞が色素幹細胞を維持する仕組みを解明FINDING / PRESS

-17型コラーゲンが白髪と脱毛を抑える-

 
西村栄美教授らの研究成果が、国際科学誌Cell Stem Cell(セルステムセル)に、2011年2月4日付で掲載発表されました。
 
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西村 栄美 教授
難治疾患研究所 幹細胞医学分野
ホームページ:http://www.tmd.ac.jp/mri/scm/index.html
 

概要

 
東京医科歯科大学・難治疾患研究所・幹細胞医学分野の西村栄美教授らの研究グループは、北海道大学の清水宏教授ら、および前任地の金沢大学田所優子助教らとの共同研究で、17型コラーゲンが白髪と脱毛を抑えており、欠損すると毛包内の2種類の異なる幹細胞間での相互作用による幹細胞維持機構が破綻するため、白髪や脱毛を発症することを明らかにしました。毛包幹細胞と色素幹細胞は毛包のなかほどバルジ領域付近に存在していますが、色素幹細胞は、黒髪のもとになる色素細胞の供給源となり、毛包幹細胞は毛髪のもとになる角化細胞の供給源となることで、毛が生え変わるごとに色素を持つ毛を生やしています。17型コラーゲンは、ヘミデスモソームを構成する膜貫通性のコラーゲンで表皮基底細胞を基底膜に強く固定する役割が知られてきました。また、ヒトで先天的に17型コラーゲンを欠損すると早発性の脱毛が見られますが、その仕組みについては明らかにされていませんでした。今回、毛包幹細胞が17型コラーゲンを高レベルで発現しており、毛包幹細胞の幹細胞性を維持するという役割を持つと同時に、毛包幹細胞が色素幹細胞のニッチ細胞として機能するためにも必須であること、これらの役割により白髪と脱毛を抑えていることが判明しました。そのメカニズムとしては、毛包幹細胞がTGF-βシグナルを介して色素幹細胞の未分化性や休眠状態を促進制御していることによるもので、17型コラーゲンを欠損するマウスでは、毛包幹細胞におけるTGF-βの発現が早期から失われ、隣接して存在する色素幹細胞におけるTGF-βシグナルが入らなくなるために色素幹細胞を維持できなくなり若白髪になること、毛包幹細胞を含む基底細胞でのみ17型コラーゲンを発現させると一連の異常がすべて回復することが判明しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金・若手研究(S)、特定領域(細胞外環境)の他、複数の助成金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Cell Stem Cell(セルステムセル)に、2011年2月4日付で掲載発表されました。
 

ポイント

 
 

研究成果の概要と意義

 
毛包で機能する組織幹細胞である毛包幹細胞および色素幹細胞は、毛包のなかでも立毛筋が付着する部位であるバルジ領域付近に局在することは知られていましたが、毛包幹細胞と色素幹細胞の相互関係や相互作用、その分子メカニズムと白髪・脱毛との関連については明らかではありませんでした。今回、毛包幹細胞の維持に膜貫通性のコラーゲンが必須であることがはじめて見つかり、毛包幹細胞を維持する仕組みや毛包幹細胞が色素幹細胞のニッチ細胞として機能する仕組みが明らかになりました。特に、組織幹細胞自身が他の種類の幹細胞に対してニッチとしての機能を持ちうる点は、これまでに殆ど知られていない重要な知見です。西村教授らは、黒髪のもとになる色素幹細胞をはじめて発見し、色素幹細胞が枯渇すると白髪になること、色素幹細胞の運命制御においてはニッチが優勢の役割を果たすことなどを明らかにしていましたが、その仕組みについては明らかにされていませんでした。これら一連の研究をさらに発展させることにより、白髪や脱毛の予防や治療、アンチエイジングや再生医療への応用に向けての新たな展開が期待できます。
 
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17型コラーゲンノックアウトマウス
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お問い合わせ先

 
東京医科歯科大学難治疾患研究所幹細胞医学分野教授
西村 栄美(にしむら えみ)
電話:03-5280-8064
E-mail:nishscm(ここに@を入れてください)tmd.ac.jp
ホームページ:http://www.tmd.ac.jp/mri/scm/index.html