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小頭症・小脳脳幹部低形成を伴う発達遅滞症の原因遺伝子CASKの発現異常に多彩なゲノム構造異常が関与することを証明FINDING / PRESS

稲澤教授らの難治疾患共同研究の成果がHuman Geneticsに掲載されました。
 

小頭症・小脳脳幹部低形成を伴う発達遅滞症の原因遺伝子CASKの発現異常に多 彩なゲノム構造異常が関与することを証明

 

林深特任講師、稲澤譲治教授ほか(ゲノム応用医学研究部門分子細胞遺伝分野)

 
Hayashi, S., Okamoto, N., Chinen, Y., Takanashi, J., Makita, Y., Hata, A., Imoto, I., and Inazawa, J. (2011) Novel intragenic duplications and mutations of CASK in patients with mental retardation and microcephaly with pontine and cerebellar hypoplasia (MICPCH). Human Genetics July 7th on line publication ahead of print.

精神発達遅滞は人口の2~3%に存在しますが、その多くは原因不明です。当研究室では、多発奇形を伴う精神発達遅滞を対象に、発症原因となるゲノム異常を探索してきました。

ヒトX染色体に座位するCASK遺伝子は中枢神経で強く発現し、神経細胞核内においてTbr-1蛋白と結合してReelinの転写活性因子となり、神経細胞の移動と皮質層構造の形成に重要な役割を果たすことが知られています。近年当教室では、小頭症・小脳脳幹部低形成を伴う発達遅滞 (MR/MICPCH)を呈する女性患者に検出したX染色体の欠失から、CASKを原因遺伝子として指摘しました [Hayashi et al. 2008]。

今回の研究では、MR/MICPCHの臨床所見からCASK異常が疑われる女性例10例を解析し、全例にCASKの発言異常が生じていることを示しました。6例はナンセンス変異やスプライシング異常などにより終止コドンを生じる1塩基変異、2例はCASKを含むゲノム欠失、2例は複雑なゲノム再構成を伴うCASKを含むゲノム重複でしたが、これらのゲノム変異はいずれも正常なCASKの発現を妨げていました。これらの結果は、多様なゲノム異常がCASK異常の原因となり得ることを示す一方で、その臨床症状はMR/MICPCHで表されるように互いによく類似し、疾患としての均一性が高いことを示しています。

この成果は、潜在的なCASK異常症を発見・検索する上での基盤情報になると考えられます。また、症例を収集し臨床情報を蓄積することで、CASK異常症の療育や治療、予後予測などに寄与することが期待できます。

本研究は、平成23年度 東京医科歯科大学「難治疾患共同研究拠点」 共同研究「CASK異常を原因とする小脳脳幹部低形成の病態発現機構の解明と治療法の開発」(共同研究者:大阪府立母子保健総合医療センター 岡本伸彦遺伝診療科長)により実施されました。
 

ポイント

 
 
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【図の説明】
CASK異常症におけるgenotype-phenotype連関の概念図。CASK発現異常を引き起こすゲノム変異 (genotype)はゲノム重複・欠失・1塩基変異と多様であり、ホットスポットなどは見いだされませんでした。一方で臨床症状 (phenotype)はいずれも小脳脳幹部低形成を伴う顕著な小頭症 (-3~-6SD)を示し、疾患特異性が高いと考えられます。