FHOD3変異は拡張型心筋症の原因となるFINDING / PRESS
木村教授らが九州大学・住本教授らと実施した難治疾患共同研究拠点における共同研究の成果が日本循環器学会誌(Circulation Journal)にオンライン速報版で発表されました。
FHOD3変異は拡張型心筋症の原因となる
木村彰方 教授、有村卓朗 准教授(東京医科歯科大学難治疾患研究所分子病態分野)住本英樹 教授、武谷立講師(九州大学大学院医学研究院生化学分野)他
#Arimura T, #Takeya R, Ishikawa T, Yamano T, Matsuo A, Tatsumi T, Nomura T,*Sumimoto H, *Kimura A. Dilated cardiomyopathy-associated FHOD3 variant impairs the ability to induce activation of transcription factor SRF. Circ J. Oct 1.[Advanced Publication (doi: 10.1253/circj.CJ-13-0255)] (#; equal contribution,*; corresponding authors)
Kawauchi J, Inoue M, Fukuda M, Uchida Y, Yasukawa T, Conaway RC, Conaway JW,Aso T, Kitajima S. Transcriptional properties of mammalian Elongin A and its role in stress response. J Biol Chem. 2013 Jul 3. [Epub ahead of print] PubMed PMID:23828199
成果のポイント
- 既知の原因遺伝子に変異がない家族性拡張型心筋症の発端患者さんにFHOD3遺伝子のミスセンス変異(Tyr1249Asn)を見出しました。
- FHOD3変異は進化上よく保存されたアミノ酸の変異で、健常者400人には存在せず、またdbSNPや1000 genomeデータベースにもなく、PolyPhen-2スコアが0.998であり、3D構造モデル上で大きな構造変化をもたらすため、病因変異であると推定されました。
- FHOD3変異はアクチン動態依存性のSRF活性化能を約20%低下させました。また、この効果は正常FHPD3存在下でも認められるため、FHOD3変異はdominant-negativeに働くと考えられました。
研究の背景
拡張型心筋症(DCM)は、特に誘因なく心筋収縮機能が低下し、重症の心不全、不整脈や突然死を来す疾患で、厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されています。DCM患者の20-30%には、常染色体性優性遺伝形式に従う家族歴が認められ、そのような患者では遺伝子変異が原因となることが分かっています。これまでの研究で多くの原因遺伝子が明らかになっていますが、それらの原因遺伝子のいずれかに変異が検出されるのは家族性DCM患者でも約30%に過ぎず、さらに未知の原因遺伝子が存在すると考えられています。FHOD3はアクチン動態(F-アクチンとG-アクチン間の移行)に依存して転写因子であるSRFの活性化を制御することが知られています。また、人工的な変異(Ile1127Ala)を導入してアクチン動態依存性のSRF活性化能を喪失させたFHOD3変異体を導入した遺伝子改変マウスは、生後早期に拡張型心筋症様の病態を呈して死亡することが報告されています。このため、FHOD3はヒトにおける拡張型心筋症の原因遺伝子の候補となります。
本研究の成果
既知の原因遺伝子に変異が見出されない家族性DCM発端患者48名を対象としてFHOD3変異を検索したところ、心不全(HF)や突然死(SCD)の家族歴がある患者さんにヘテロ接合性のミスセンス変異(Tyr1249Asn)が検出されました(図1)。この変異は、一般健常者集団には存在せず、FHOD3の進化上よく保存されたアミノ酸の置換であり、3D構造予測モデルでは構造変化をもたらすと考えられました(図2)。また、PolyPhen2予測スコアは0.998であり、大きな機能低下が生じると予測されました。そこで、アクチン動態依存性のSRF活性化機能を検討したところ、Ile1127Ala (IA)変異ほどではありませんが、Tyr1249Asn (TN)変異もSRF活性化を減弱することが判明しました。また、正常FHOD3と変異FHOD3を1:1で導入した細胞において、IA変異の場合と同様に、TN変異は正常FHOD3機能を抑制すると考えられました(図3)。これらのことは、Tyr1249Asnがdominant-negativeな機能変化をもたらすことを示し、患者さんが変異のヘテロ接合体であることと合わせて、常染色体優性遺伝形式をとる成人期発症の拡張型心筋症の原因であることを示唆しました。
謝辞
本研究は、文部科学省科学研究費補助金および難治疾患共同研究拠点共同研究経費(共同研究者:九州大学大学院医学研究院・生化学分野・教授 住本英樹)等の助成を受けて実施しました。


