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若年発症心筋梗塞のリスクとなる遺伝子を発見FINDING / PRESS

心筋梗塞の遺伝的リスク解明に関する多施設国際共同研究(研究代表者:愛知学院大学・横田充弘教授)の成果が米国循環器学会学術誌(Circulation Cardiovascular Genetics)にオンライン速報版で発表(2013.10.11)されました。この多施設共同研究には、九州大学・山本准教授とともに木村教授が参加しています。
 

ALMS1多型は若年発症心筋梗塞の遺伝的リスクである

 

横田充弘 教授(愛知学院大学、元名古屋大学医学部)、市原佐保子 准教授(三重大学地域イノベーション学研究科)、山本健 准教授(九州大学生体防御医学研究所)、Jong-Young Lee 教授(Korean NIH)、Jeong-Euy Park 教授(Samsung Medical Center)、砂川賢二 教授(九州大学医学部)、下川宏明 教授(東北大学医学部)、室原豊明 教授(名古屋大学医学部)、井ノ上逸郎 教授(国立遺伝学研究所)、木村彰方 教授(東京医科歯科大学難治疾患研究所分子病態分野)他

 
#Ichihara S, #*Yamamoto K, Asano H, Nakatochi M, Sukegawa M, Ichihara G, Izawa H, Hirashiki A, Takatsu MF, Umeda H, Iwase M, Inagaki H, Hirayama H, Sone T, Nishigaki K, Minatoguchi S, Cho MC, Jang Y, Kim HS, Park JE, Tada-Oikawa S, Kitajima H, Matsubara T, Sunagawa K, Shimokawa H, Kimura A, Lee JY, Murohara T, Inoue I, *Yokota M. Identification of a glutamic acid repeat polymorphism of ALMS1 as a novel genetic risk marker for early-onset myocardial infarction by genome-wide linkage analysis. Circ Cardiovasc Genet. (#; equal contribution, *; co-corresponding authors), In Press 2013 Oct 11. [Epub ahead of print](doi: 10.1161/CIRCGENETICS.111.000027)
 

成果のポイント

 
 

研究の背景

 
心筋梗塞(MI)をはじめとする冠動脈疾患(CAD)は、わが国を含む先進諸国における主要な死因であり、高齢、男性、喫煙、高脂血症、高血圧、肥満、糖尿病などが発症の危険因子となっています。また、これらの古典的危険因子の存在を補正しても、家族歴を有することが危険因子であることから、CADの発症には遺伝要因が関与することが明らかです。そこで、この遺伝要因を解明することは、疾患リスクの把握を通じて高リスク者に罹患予防の機会を与えるとともに、発症機序解明への基盤情報を提供するものです。このため、国内外の多くの研究者がゲノム研究を通じた遺伝要因の解明に取り組んでおり、最新の研究ではCADの発症要因として、約150の遺伝子座(遺伝子多型)が解明されています。しかし、CADを基盤として引き起こされるMI、ことに若年でMIを発症することに関与する遺伝要因は必ずしも明らかではありません。
 

本研究の成果

 
本研究は、国際多施設共同研究によってMIの遺伝要因を解明するために実施されたものです。まず、日本(名古屋、福岡)および韓国(ソウル)において、心筋梗塞(MI)を含む冠状動脈疾患(CAD)の罹患同胞対(215家系443例)について全ゲノムに渡る1,723個のSNPデータを収集し、連鎖解析から2p14-p12の約10Mb領域にMI遺伝子座をマップ(LOD=3.44)しました。ついで、MI罹患同胞対発端者111名と対照群480名について1,272個のSNPデータを用いたロジスティック回帰分析によって、ALMS1~C2orf78領域の多型がMI発症と有意に関連する(P=10-3~10-4)ことを見出しました。この関連を確認するために、上記とは別の日本人患者2,186名―対照6,026名、韓国人患者960名―対照1,819名を解析し、両民族ともに共通して、この領域の多型がことに若年発症MIとすることを確認しました(Combined P=9.0×10-9) (図1)。ついで、責任多型を同定するために、若年MI発症同胞対の発端者24名についてALMS1遺伝子全域をシークエンスし、エクソン1内のグルタミン酸リピート多型を見出しましたので、日本人若年発症MI孤発例351名―対照6,026名についてリピート多型を検討し、若年発症MI発症との関連を確認しました。さらに、Bリンパ芽球細胞株を用いて、若年発症MIに疾患関連多型に連鎖するALMS1は高発現性であることを明らかにしました(図2)。ALMS1遺伝子は網膜色素変性症、難聴、肥満、および2型糖尿病を主徴とするAlstrome症候群における変異が報告されていますが、本研究によって、この遺伝子の発現制御が若年発症MIの分子機序に関わることが示されました。
 

謝辞

 
本研究の一部は、難治疾患共同研究拠点共同研究経費(共同研究者:九州大学・生体防御医学研究所・准教授 山本健、平成20年度より)の助成を受けて実施しました。
 
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図1 若年発症MIに関連する遺伝子座の同定
 
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図2 若年発症MIに関連するALMS1型(rs674804-Aアリル)は発現量が低い