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「アミノ酸シスチンを取り込む輸送タンパク質を発見」【黒川洵子 准教授】FINDING / PRESS

シスチン尿症の分子メカニズム解明に関する多施設国際共同研究(研究代表者:大阪大学・永森收志准教授、金井好克教授)の成果が米国科学アカデミー紀要Proceedings of the National Academy of Sciencesに電子版で発表(2016.1.4)されました。この多施設共同研究には、黒川准教授が参加しています。
 

アミノ酸シスチンを取り込む輸送タンパク質を発見

 

永森收志 准教授(大阪大学医学系研究科)、金井好克 教授(大阪大学医学系研究科)、Pattama Wiriyasermkul 特任研究員(大阪大学医学系研究科)、奥山裕久 大学院生(大阪大学医学系研究科)、Manuel Palac?n グループリーダー(スペインIRB Barcelona)、黒川 洵子 准教授(東京医科歯科大学難治疾患研究所)他

 
著者名:Nagamori S, Wiriyasermkul P, Espino Guarch M, Okuyama H, Nakagomi S, Tadagaki K, Nishinaka Y, Bodoy S, Takafuji K, Okuda S, Kurokawa J, Ohgaki R, Nunes V, Palac?n M, Kanai Y. タイトル:Novel cystine transporter in renal proximal tubule identified as a missing partner of cystinuria-related plasma membrane protein rBAT/SLC3A1. Proc. Natl. Acad. Sci. USA in press
 

成果のポイント

 
 

研究の概要

 
大阪大学大学院医学系研究科薬理学講座(生体システム薬理学)の永森收志准教授、金井好克教授らは、スペインIRB Barcelona、東京医科歯科大学との共同研究により、アミノ酸シスチンを尿から再吸収する輸送タンパク質(トランスポーター)がAGT1であることを明らかにしました。さらに、このAGT1は、重篤な腎機能障害に陥る疾患シスチン尿症の原因となるタンパク質rBATと結合する未知の因子の正体であり、AGT1の変異がシスチン尿症の一因になる可能性を示しました。シスチン尿症は、全世界では7000人に一人、日本では1?2万人に一人の割合で見られる疾患ですが、根治的な治療法が確立していません。
本研究成果により、シスチン吸収機能の全体像がはじめて明らかになり、加えてシスチン尿症の新たな治療法の開発が期待されます。
 

研究の背景

 
腎臓は、老廃物や有害物質を尿として排出する役割を持ちますが、血液中のアミノ酸や糖などの栄養素は不要なものと一緒に原尿中にいったんろ過された後、腎臓の尿細管を流れながら再吸収されることで、捨てられることなく体内で利用されます。アミノ酸であるシスチンは、二分子のシステインが酸化により結合したもので細胞内ではシステインになりますが、例えば食品中ではシスチンとして存在するとされています。このシスチンの再吸収機構は1960年代からその存在が示されており、さらには性質の異なる二種類の系が存在すると報告されていました。金井教授らは、1999年に遺伝子を扱う分子生物学的手法を用いて、膜タンパク質の一種:b0,+ATがシスチンを輸送する輸送体であり、補助因子であるrBATと結合すること、この二因子の異常によりシスチン尿症が発症することを示していました。一方で、b0,+ATの量は上流(近位尿細管S1分節)に多いにも関わらず、rBATの量は下流(S3分節)に多いことが知られており、S3分節における未知なるrBATの結合因子の存在が示唆されていました(図1)。さらに、b0,+ATとrBATのどちらの変異も無いシスチン尿症の症例が報告されていました。前述のように、尿細管に二種類のシスチン輸送系が存在するという報告もありましたが、S3分節でrBATと結合する因子、第二のシスチン輸送系のどちらも見つかっていませんでした。
 

本研究の成果

 
今回、新しい技術である質量分析計を用いたタンパク質を同定する手法と精製タンパク質を再構成したプロテオリポソームの輸送活性解析という古典的な生化学的手法を組み合わせることで、マウスの腎臓近位尿細管S3分節におけるrBATの第二の結合因子としてAGT1を同定しました。さらに、AGT1とrBATの複合体がシスチンおよび酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)等を輸送することを明らかにし、AGT1とrBATが第二のシスチン輸送系の実体であることを示しました。これによって、腎臓におけるシスチン再吸収機構の全体像が解明し、シスチン輸送系についての長年の謎が解決するものと期待されます。 AGT1がシスチン尿症の原因遺伝子であるrBATと結合し、シスチンを輸送することから、シスチン尿症の新たな病態解明、さらには根治的な治療法の確立していないシスチン尿症の新規治療法開発が期待されます。例えば、b0,+ATの変異によってシスチン尿症になっている場合に、AGT1の機能を増強することで結石の形成を抑えられる可能性が考えられます。また近年、栄養のコントロールは大きな社会的興味の対象となっています。新しいシスチン及び酸性アミノ酸のトランスポーターを明らかにしたことで、腎臓におけるアミノ酸再吸収の全貌解明のみならず、重要な栄養素であるアミノ酸の生体内での動きを明らかにすることに貢献します。さらに、AGT1はマウスにおいてはオスのみに発現しており、アミノ酸吸収に性差があることがはじめて示されました。ヒトにおける研究はこれからですが、栄養吸収に男女の差がある可能性も考えられます。
 

謝辞

 
本研究の一部は、難治疾患共同研究拠点共同研究経費(共同研究者:大阪大学医学系研究科・准教授 永森收志、平成24年度~)の助成を受けて実施しました。
 

図1 腎臓近位尿細管におけるAGT1

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腎臓には多くの尿細管が存在し、糸球体で血液がろ過されることで原尿となり、尿細管を経由して、尿として排出されます。AGT1は尿細管に存在し、尿からシスチン等を再吸収します。