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「食シグナルの生体内での可視化に成功」【安達貴弘 准教授】FINDING / PRESS

安達准教授および産業技術総合研究所・辻典子上級主任研究員らによる難治疾患共同研究拠点における共同研究の成果がFrontiers in Immunology に発表(2016.12.16)されました。

【2017年1月30日付けの日経バイオテクONLINEに掲載されました。】
「東京医歯大、産総研など、納豆菌の小腸上皮細胞への刺激を可視化-生きた個体の細胞でカルシウムシグナルをリアルタイムに観察-」

https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/01/27/02211/
 

プロバイオティクスによる腸管上皮細胞のカルシウムシグナリングの可視化

 

安達貴弘 准教授(東京医科歯科大学難治疾患研究所・免疫疾患)、辻典子 上級主任研究員(産業技術総合研究所)、平山和宏 准教授、角田 茂 准教授(東京大学大学院)、藍原祥子 助教(神戸大学大学院)、越阪部奈緒美 教授 (芝浦工業大学)、烏山 一 教授、吉川宗一郎 助教(東京医科歯科大学大学院医歯総合研究科・免疫アレルギー学)、宮脇敦史 チームリーダー(理化学研究所脳科学総合研究センター)、他

 
著者名:Adachi T, Kakuta S, Aihara Y, Kamiya T, Watanabe Y, Osakabe N, Hazato N, Miyawaki A, Yoshikawa S, Usami T, Karasuyama H, Kimoto-Nira H, Hirayama K, Tsuji NM. タイトル:Visualization of Probiotic-Mediated Ca2+ Signaling in Intestinal Epithelial Cells In Vivo.
 

成果のポイント

 
 

研究の背景

 
腸管は食物の栄養を吸収すると同時に、取り込まれる病原体を防御する役割を持っており、神経系―免疫系―内分泌系の細胞が集中し、それらが複雑に絡み合い、恒常性が維持されています。また、腸管には非常に多くの細菌が共生しており、腸内細菌叢が我々の健康の維持に密接に関わっていることもよく知られています。この腸内細菌叢は摂取される食品により影響を受け、悪玉菌が増加すると疾患の原因になることや、プロバイオティクスとして知られる乳酸菌や納豆菌により腸内環境が整えられ、免疫力が向上することやアレルギーの軽減化することも明らかになってきています。しかしこれまで、プロバイオティクスの様々な効用は明らかにされてきましたが、これらを含め食品が実際に生体内の腸管でどのように作用しているか、これまでリアルタイムで評価する検出系はなくブラックボックスのままで不明でした。
 

研究の概要

 
東京医科歯科大学難治疾患研究所の安達貴弘准教授は以前樹立したFRETを基盤としたカルシウムバイオセンサーYC3.60の細胞系譜特異的な発現トランスジェニックマウスを利用して、腸管での食シグナルをリアルタイムでモニターできるマウス個体レベルの生体イメージング系を確立しました(図1)。このシステムを利用して、産業技術総合研究所の辻典子上級主任研究員、神戸大学大学院藍原祥子助教との共同研究により、プロバイオティクスとして知られる納豆菌が腸管上皮を刺激する様子をリアルタイムで可視化することに成功しました。さらに辻典子上級主任研究員らとの共同研究の一環として、東京大学大学院の平山和宏准教授、角田茂准教授らと共同で、無菌のカルシウムバイオセンサーマウスを作製し、腸内細菌叢がいる状態では刺激が見られなかった乳酸菌についても腸管上皮にカルシウムシグナリングを惹起することを見出しました(図2)。
 
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図1 腸管上皮細胞での生体イメージング
(左) 腸管の生体イメージングの概要 麻酔下のカルシウムバイオセンサーを全身性に発現するマウスの小腸上皮に乳酸菌、納豆菌を添加し、細胞内カルシウム濃度変化を共焦点顕微鏡で観察。右は共焦点顕微鏡で取得した小腸管腔側の絨毛の3Dイメージ。
 
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図2 腸管上皮細胞での乳酸菌によるカルシウムシグナル
無菌のカルシウムバイオセンサーを全身性に発現するマウスの小腸上皮に乳酸菌を添加(矢印)し、細胞内カルシウム濃度変化を共焦点顕微鏡で経時的に観察。時間経過に伴い小腸上皮全体でカルシウム濃度が上昇している。黄色矢印は無刺激の状態からみられる局所的なカルシウム濃度の上昇した部位を示す。左図内に細胞内カルシウム濃度の疑似カラーを示す。
 
 

本研究の意義

 
今回、細胞系譜特異的カルシウムバイオセンサーYC3.60発現マウスを利用したマウス個体を使った生体イメージングにより、腸管でのカルシウムシグナリングのリアルタイム可視化によって、生体内での食シグナルの検出を可能にしました。また、プロバイオティクスとして知られる納豆菌や乳酸菌が直接、腸管上皮を刺激することを明らかにしました。食シグナルの生体内でのリアルタイム評価系を確立したことにより、食品がどのように腸管で作用しているか、その生理機能の機序解明が飛躍的に進展することが期待されます。
 
語句の説明
CFP(Cyan fluorescent protein;シアン蛍光蛋白質)
オワンクラゲ由来の緑色蛍光蛋白質に変異を導入し、短波長側に励起波長、蛍光波長がシフトしたもの。480 nm付近をピークとした蛍光波長。
YFP(Yellow fluorescent protein;黄色蛍光蛋白質)
オワンクラゲ由来の緑色蛍光蛋白質に変異を導入し、長波長側に励起波長、蛍光波長ともシフトしたもの。430 nm付近をピークとした蛍光波長。なお、VenusはYFPの円順列変異体。
YC3.60(Yellow Cameleon 3.60)
分子内のCFPとVenusの蛍光蛋白質の間にカルモジュリンのカルシウム結合部分とミオシン軽鎖キナーゼのM13ペプチドを持ち、カルシウムが結合するとカルモジュリンの部分がM13ペプチドを包み込み、構造がコンパクトになる。その結果、FRETが起こりうる距離にCFPとVenusが隣接する。CFPのみを励起させた場合、YC3.60がカルシウムと結合するとFRETが起こり、蛍光波長がシアンから黄色側にシフトし、これがカルシウムイオンをセンスするメカニズムとなっている。
FRET(F?rster/Fluorescent resonance energy transfer;フェルスター/蛍光共鳴エネルギー移動)
近接する2つの発色団の間において、供与体で吸収された光エネルギーが他方の受容体にエネルギーが移動する現象をいう。YC3.60の場合、供与体がCFP、受容体がYFPであり、FRETが起こるとCFPの蛍光が弱くなり、YFPの蛍光が放射される。
プロバイオティクス
乳酸菌、納豆菌などの人体によい影響を与える微生物
 

謝辞

 
本研究の一部は、難治疾患共同研究拠点共同研究経費(共同研究者:産業技術総合研究所・上級主任研究員 辻典子)およびキヤノン財団「理想の追求~食~」(辻典子、安達貴弘、平山和宏、藍原祥子)の助成を受けて実施しました。