近年、外科の臓器別診療による専門性の細分化により、重症多発外傷や重症敗血症を伴う急性腹症などの患者への初期対応・手術・集中治療を迅速かつ適切に対応できる外科医が減少しています。米国では2005年より米国外傷外科学会(The American Association for the Surgery of Trauma; AAST)にてAcute Care Surgeryという“Trauma Surgery”, “Emergency General Surgery”, “Surgical Critical Care”を一体として取り扱う新たな外科領域が推奨されています。日本においてもこの概念を取り入れ、2009年に日本Acute Care Surgery学会(当時、研究会)が設立され、われわれの教室が事務局となっています。
当救命救急センターでは、一部の専門症例を除き、外傷・救急外科疾患に対する術前検査、手術、術後管理(集中治療管理)を外科専門医・救急科専門医・集中治療専門医のもと行っています。現在、扱っている疾患は、胸部外傷(心、肺、大血管など)、腹部外傷(肝、膵、脾、腎、腸管・腸間膜など)、腹部大動脈瘤破裂・急性虫垂炎、胆のう・胆管炎、消化管穿孔、壊死性筋膜炎などの軟部組織重症感染症などで、手術件数も年々増加傾向にあり年間270例程度となっています。腹腔鏡手術件数も増加してきており、内因性疾患(虫垂炎、胆嚢炎、消化管穿孔など)や一部の外傷疾患(刺創など)に対し行われ、総手術件数に対する割合も本年度は10%を超えています。日本内視鏡外科学会技術認定医、院内内視鏡外科技術認定医を取得し安全に行っています。多くの緊急手術は院内の手術室で手術が行われていますが、手術室まで間に合わない症例、たとえば大動脈瘤破裂による出血性ショックや大腸穿孔による敗血症性ショック、外傷出血性ショック患者などのバイタルの不安定な患者様に対しては救急室の初療室にある手術室で手術、処置を行っています。
外傷・救急外科医育成コースでは、1年間の大学勤務で外傷・救急外科・集中治療管理の修練の後、2年間外科連携施設に出向し、十二分な症例数の外科研修を行い、外傷・救急外科に対応できる外科を養成しています。
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http://www.tmd.ac.jp/accm/index.html
http://www.jtcr-jatec.org/index_jatec.html
JATECは「外傷初期診療ガイドライン」に基づいて標準初期診療手順が実践できるようになることを目標としたトレーニングコースです。コースは、2日間にわたり開催しており、1日目の技能実習では、外科的気道確保など外傷蘇生に必要な技術を習得、さらに、X線や頭部CTなどの読影法を実際の臨床例を素材に学びます。2日目には、初日に学習した各種技能や診察の手順を基本にして、模擬診療を行います。外傷患者の様々なシナリオが用意されており、臨床に即した救急の医療現場を体験することが可能となっています。コースの最後には、OSCE、ケーススタディによる討論、および筆記試験により、コースの達成度が評価される。このコースでは、ムラージュされた精巧な人形を使用し、実際の医療機器や医療材料を使用するため、臨場感あふれる臨床現場を経験することができます。
当センターではコースを年1回開催しています。外科専門医取得のための単位にも含まれる予定となっています。
JPTECとは、外傷現場において適切かつ迅速な観察を行い、緊急性を判断し、生命危機に関わる処置のみを行い、ただちに現場を出発し、また適切な処置が行える医療機関に、適切な搬送手段を用いて早期に搬入する方法を学ぶための教育プログラムとなっております。
http://www.jsacs.org/special/?id=13560
当科が中心に開催をおこなっている外傷の手術に関するセミナーです。 本セミナーでは本邦を代表する外傷外科医により外傷外科手術のノウハウを学ぶことができるとともに、日頃の外傷診療のディスカッションをする格好の機会となっています。若手にとってもある程度熟練した外科医にとっても有用なセミナーです。新専門医制度における外科専門医取得のための単位にも含まれる予定となっています。
本外科専門医プログラム修了後のキャリアプランの概要をお示しします。外科専門医取得後に救急科専門医を取得する必要があります。優れたAcute care surgeonは、外科専門医を土台とし、さらに救急科専門医の診療能力を持たなければなりません。救急科専門医取得後は、さらに外傷・救急外科の経験を積み、日本Acute Care Surgery学会認定外科医の取得を目指します。