チーム医療

新型コロナウィルス感染症対応におけるDMAT派遣報告

当院では、以前から災害時支援に職員を派遣しております。今年1月から政府チャーター機帰国者収容施設や、ダイヤモンド・プリンセス号の患者搬送などにも支援活動に参加した、 救命救急センター医局員で救急救命士の加藤渚さんの報告記をご紹介します。

概要

中華人共和国湖北省武漢市で令和元年12月以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生が報告されて以来、日本をはじめとして世界各地から報告が続いている。
政府は武漢市に在留する邦人引き上げを行い、帰国した邦人の隔離施設の医療対応としてDMATへの派遣要請があり出動した。その後も約4000人収容の大型クルーズ船 ダイヤモンドプリンセス号の医療対応としてDMAT要請が立て続けにあり出動している。
当院として対応した経過について報告する。

活動経過

  1. 1/31~2/2 税関施設(千葉・柏)政府専用機帰国者収容施設支援

  2. 2/7 DP号患者搬送(件数1件)

  3. 2/8 税関施設(千葉・柏)政府専用機帰国者収容施設支援(DMAT撤収作業)

  4. 2/10 DP号患者搬送(件数1件)

  5. 2/11~12 DP号遠洋離岸中の船内診療部門支援

  6. 2/13・14 大黒ふ頭DMAT活動本部支援

  7. 2/17 DP号船内診療部門支援

DMAT要請について

本事案は東京都を介さず、厚生労働省DMAT事務局からDMAT指定医療機関及びDMATロジスティックチーム隊員へ対して【緊急】【至急】での派遣要請があった。

出動について

従来のDMAT派遣時と同様に、病院長、救命救急センター長、各所属長の許可を得た上、当院感染制御部からの指示・助言を受けた上、出動承諾されたものである。

安全管理について

  • 施設・船内においてはサージカルマスク・グローブを常時着用。手指衛生にも特段留意。
  • 導線が患者と重なる廊下を通過する場合はN95着用。
  • その他、厚労省・当院感染制御部が定めるPPEの方針に則り活動を行った。

加藤渚 救急救命士にQ&A

Q 現在の新型コロナウイルス対策室での業務に、今年1月以降のDMATとしてのコロナ対応の経験がどのように生かされていますか?

DMATとして、中国・武漢在留邦人の帰国者隔離施設支援では内閣官房や自衛隊と共に、施設運営の為の本部設営及び関係諸機関との連携・医療対応を行い、クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」では船内の診療支援、船内本部での下船や救急搬送調整、DMATカーによる患者搬送を行いました。

DMATの経験から対策室業務に生かせている点は4つあります。
①迅速な本部設営
②情報収集と各組織との連携体制
③院内患者搬送調整
④DMATカーによる転院搬送

  1. 迅速な本部設営
    大川理事より対策室設置の下命を受けてから1日で対策室を設営しております。このスピード感でできたのは今回のみならず、DMATの災害派遣活動で培った本部運営の経験からです。

  2. 情報収集と各組織との連携体制
    対策室は4月13日から運用開始であり、各部門でコロナ対応がすでに本格化し始まっているなかで下命を受けたため、情報収集としては後手を踏んでいる状況からのスタートでした。 また当室スタッフのほとんどが兼任であり、即席部隊の実戦投入となりましたが、災害対応経験者が中心となり、災害対応で得たノウハウを生かしつつ室員同士も連携し、院内外の情報の一元化へ向けて活動しております。

  3. 院内患者搬送調整
    対策室では院内の患者搬送のコントロールを行っております。
    PCR陽性の患者専用導線の確保や各事務部門への依頼。歯学部附属病院との連携。など、このあたりはクルーズ船で経験した業務に似ており、「複雑な建物構造」・「限られた人員」・「限られた経路」の中から最良・最短のルートを設定し各組織と無線で連携し患者を搬送する。
    これは来院患者様・職員と不要な接触を防ぎ、感染症から守る為に必要なオペレーションです。

  4. DMATカーによる転院搬送
    当院DMATカーの活用:5月1日時点でコロナ関連患者3名(疑い例1件、陽性患者2件)の転院搬送を行っております。 DMATカーの内部は感染症対応の為、シートで保護されております。
    シートでの車内保護はクルーズ船対応時に行っていた事で、現在も緊急の転院搬送要請にも対応できるようになっております。

加藤 渚(かとう・なぎさ)救急救命士

医学部附属病院救命救急センター医局員、災害テロ対策室救急救命士、医病新型コロナウイルス感染症対策室メンバー、厚生労働省日本DMATロジスティックチーム隊員、日本災害医学会認定上級災害医療ロジスティック(*)専門家

*災害医療におけるロジスティックとは? Logisticは直訳すると「物流」となりますが、軍事用語では「兵站」とも言われ、前線のオペレーションを支える後方支援の役割を指します。災害時は「診療」だけを行えばよいのではなく、医療を行う体制や環境を被災地で0から整備することから始まります。本部体制や関係機関との連携により医療活動をスムーズにすることがロジスティシャン(調整員)の役割です。