もやもや病のあなたとご家族へ。
妊娠前から妊娠中・産後まで、専門家が監修した
最新情報に基づく実用ガイドです。
皆さんが抱える不安や疑問に、「Q&A」の形でわかりやすく、
やさしい言葉でお答えします。
ご質問の内容一覧
妊娠前のこと
- もやもや病でも妊娠できますか?
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はい。すでにもやもや病と診断されていて、産婦人科や脳神経外科、麻酔科などが連携している病院であれば、安全に妊娠・出産できることが多いです。妊娠を考える前に、病気に関する基本的なリスクなどをしっかり知っておくことが大切です。
しかし、すでにもやもや病の診断を受けている方の場合、脳出血などの重い症状が出るリスクはかなり低いことが分かっています。
【プレコンセプションケアとは?】
プレコンセプションケアとは、妊娠前の健康管理で、最近広まりつつあります。プレコンセプションケアには、性や健康に関する正しい知識を持つ、健康的な生活習慣や適切な医療的ケアを受けることが含まれます。将来の妊娠・出産を希望しない方でも、妊娠・出産について正しい知識を持っておくことは大切です。
もやもや病の方も、プレコンセプションケアを受けることがすすめられます。妊娠前に病気のリスクや出産の方法などを、脳神経外科や産婦人科の先生と一緒に話し合っておくことで、安心して妊娠・出産を迎えられます。
- 妊娠前に気をつけておくべきことは何ですか?
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妊娠を希望する場合は、事前に画像検査をして妊娠のリスクを把握した上で、計画的に妊娠することが大切です。
妊娠中も画像検査はできますが、なるべく避けたほうが良いものもあります(Q11. 妊娠中にできる脳の画像検査はありますか?)。ですので、妊娠前に必要な検査(MRIや脳血流検査など)を受けておくと安心です。
特に、子どものころに手術を受けた方で、しばらく検査をしていない場合は、画像データが残っていないことがあります。そうなると、妊娠中の対応が難しくなることもあるため、10代後半などで一度検査をしておくのが良いとされています。
妊娠前から高血圧のある方は、あらかじめ治療を始めることをおすすめします(Q7. 妊娠したら、特に気を付けるべきことはなんですか?)。普段飲んでいるお薬がある場合、妊娠前から主治医の先生と相談してください(Q5. 今飲んでいる薬は妊娠したらどうすればよいですか?)。
- 妊娠を考えている場合、妊娠前にバイパス手術をしたほうがいいですか?
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バイパス手術を受けた方は妊娠・出産時に脳梗塞・脳出血を起こしにくいという報告があります。ただし、誰でも妊娠・出産前にバイパス手術が必要なわけではなく、その必要性については主治医の先生としっかり相談することが大切です。
もやもや病の脳梗塞・脳出血のリスクは、現在の症状、脳血流の状態、脳の血管の形などから判断されます。脳梗塞・脳出血のリスクが高い場合、バイパス手術が将来の脳梗塞・脳出血のリスクを下げるとされています。
バイパス手術を受けた方は、妊娠・出産中に脳梗塞・脳出血を起こしにくいという報告があります。ただし、バイパス手術が妊娠・出産時の脳梗塞・脳出血を減すという明確な証拠はありません。もやもや病だからといって、妊娠を考えているすべてのお方で手術が必要なわけではありません。妊娠前にバイパス手術を行うかどうかは、現在の症状や脳血流の状態、脳の血管の形などをもとに、医師としっかり相談して判断することが大切です。
- 不妊治療はできますか?
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できます。ただし、脳神経外科主治医の先生に妊娠可能といわれていることが前提です。
現在のところ、もやもや病があると不妊治療のリスクが特別に高くなるというはっきりした根拠はありません。
ただし、不妊治療で卵巣を刺激する方法を使うと、女性ホルモン(エストロゲン)が一時的に高くなることがあります。その結果、血液が固まりやすくなり、脳の血管に負担がかかり、脳梗塞のリスクが少し高まる可能性があります。
そのため、もやもや病の状態が不安定で、脳神経外科主治医から「妊娠はまだ難しい」と言われている場合、不妊治療はおすすめできません。もやもや病の状態が安定していて、脳神経外科の主治医と不妊治療の医師がしっかり連携できる状況で行うことが大切です。
年齢が上がると妊娠に不妊治療が必要になることが多いため、妊娠を希望される場合、早めに主治医と妊娠について相談し、準備を進めていくことをお勧めします。
- 今飲んでいる薬は妊娠したらどうすればよいですか?
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自己判断せず、必ず妊娠前に産婦人科、脳神経外科の先生に相談しましょう。
妊娠中でも、病気の症状を和らげるために薬が必要な場合には、薬を使うことがあります。薬を使うかどうかは、病気を治す・悪化を防ぐ効果と、赤ちゃんへの影響を比べて判断します。
【妊娠初期の赤ちゃんと薬の影響】
赤ちゃんの体の基本の形が作られるのは妊娠4~10週ごろです。この時期に一部の薬を飲むと、赤ちゃんの体の形に影響が出る可能性がありますが、そのような薬はすでにごく一部と分っています。薬を使わなくても赤ちゃんに体の異常が出る確率は約3%くらいありますので、赤ちゃんに対する薬の影響はこの自然なリスクと比べて考えます。【もやもや病の妊娠中の薬の使い方】
多くの方は妊娠に気づいたときにはすでに5週を過ぎています。そのため、妊娠を希望する段階で、妊娠前に必要な薬の量や種類を調整し、安全なものに変更することがあります。
たとえば、てんかんの薬の中には、量が多いと赤ちゃんへの影響が大きくなるものがあります。バルプロ酸という薬は多く飲むと赤ちゃんに影響を起こすリスクが高いので、妊娠前に量を調整することが重要です。最近では、薬の選び方や量の工夫で赤ちゃんへのリスクはかなり減っています。それでも、てんかんの薬を使う場合は、赤ちゃんの背骨の病気(二分脊椎など)の発症リスクを下げるために、妊娠1か月前から1日400μg以上の葉酸をサプリなどで摂取することがすすめられます。(てんかんの薬を飲んでいなくても妊娠前からの葉酸サプリはすすめられます。)
もやもや病の治療で使われるアスピリン(血液をさらさらにする薬)やカルシウム拮抗薬(血圧を下げる薬)は、妊娠中も比較的安全に使えることが分かっています。ただし、妊娠中は体の状態が変わるため、薬の量を調整する必要があることがあります。【妊娠中の薬の相談】
薬のことに不安がある場合は、まずは脳神経外科や産婦人科の医師に相談してください。さらに詳しい相談を希望する場合、全国の「妊娠と薬外来」がある病院を紹介してもらうこともできます。(妊娠と薬情報センター https://www.ncchd.go.jp/kusuri/)
- もやもや病は赤ちゃんに遺伝しますか?
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遺伝することもありますが、赤ちゃんがもやもや病になる可能性より、ならない可能性のほうがずっと高いです。
もやもや病患者さんの10%〜20%には、家族に同じ病気の人がいることがあります。ただし、これは母親だけでなく、父親、兄弟や祖父母、いとこなど、血の繋がったすべてのお方を含めての数字です。ですから、もやもや病の母親の赤ちゃんが同じ病気になる可能性は、10%〜20%よりも低いです。もやもや病になる可能性より、ならない可能性のほうがずっと高いということです。
もやもや病に関係する遺伝子として「RNF213」という遺伝子が知られています。日本人もやもや病患者さんの80%〜90%は、この遺伝子に変化があります。しかし、もやもや病のない日本人の1%〜2%にも変化があります。つまり、遺伝子だけでは、もやもや病になるかどうかはわからないということです。
もやもや病になる前の赤ちゃんに遺伝子や画像の検査が必要かは、まだわかっていません。遺伝の不安があれば、主治医の先生に相談しましょう。遺伝専門外来や遺伝カウンセリングを紹介してもらうのもよいと思います。
RNF213遺伝子についての情報は、今後発行される予定のRNF213遺伝子についてのパンフレット(仮)を参照してください。
妊娠中のこと
- 妊娠したら、特に気を付けるべきことはなんですか?
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妊娠中の高血圧に注意して下さい。
妊娠中に高血圧になると「妊娠高血圧症候群」と診断されます。これにはもともと高血圧を持っている人と妊娠中に初めて高血圧になる人が含まれます。もやもや病を持っていない妊婦さんでは、3〜8%の方が妊娠高血圧になり、重い場合は、けいれん発作、脳出血、肝臓や腎臓の障害、胎盤のトラブル、赤ちゃんの発育不良や子宮内死亡につながることもあります。
もやもや病患者さんの妊娠高血圧症候群の発症率は20〜50%と非常に高くなるといわれています。ただし、重い合併症(重症妊娠高血圧腎症)まで至ることは少ないとも報告されています。それでも血圧が高くなると脳出血や脳梗塞の危険が高まるため、妊娠中の血圧管理はとても大切です。
妊娠高血圧症候群と診断された場合、出産前には脳出血に、出産後は脳梗塞に特に注意する必要があります。
妊娠した時はまず妊娠高血圧症候群にならないことが重要ですが、妊娠高血圧症候群になった場合、血圧をしっかり管理し、脱水にならないように注意しましょう。妊娠高血圧症候群の予防、管理、分娩方法などについて、産婦人科や脳神経外科の先生としっかりと相談することが大切です。
- 血圧以外に妊娠中や出産の時に気をつけたほうがよい体の変化はありますか?
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過呼吸、貧血、血栓症に注意する必要があります。
妊婦さんは貧血になりやすいといわれていますが、もやもや病患者さんが貧血になると脳梗塞を起こしやすくなる可能性があります。妊娠中に貧血になった場合は、鉄分のお薬を飲んで治療をしましょう。
出産のとき、痛みのせいで過呼吸(呼吸の 回数が 増えること)になったり、血圧があがることがあります。過呼吸は脳梗塞の原因に、血圧は脳出血の原因になる可能性が心配です。このため、痛みをやわらげるような出産方法がより安全といわれています(Q12. どの分娩方法がよいですか?)。
妊娠中や出産後は血栓症(血管の 中に 血のかたまりができて 血管がつまる 病気)になりやすいです。もやもや病患者さんの脳の血管は細くてつまりやすいため、血栓症にも注意が必要です。脱水にならないように注意しましょう。
- 妊娠中にアスピリン(血液をさらさらにする薬)を内服したほうがよいですか?
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もやもや病だけを理由に内服したほうがいいとはいえません。ただし、妊娠中に高血圧になりやすい方は、その予防のために内服することがすすめられます。
もやもや病の患者さんで症状がない場合、または脳の血流が悪い場合に、アスピリンを内服するほうがよいというはっきりとした証拠があるわけではありません。
ただし、妊娠中に高血圧になりやすいと考えられる場合、その予防のためにアスピリンを飲むことがすすめられます。
アスピリンは妊娠12~16週ごろから出産まで毎日少量を内服することで、妊娠高血圧症候群になりやすい方が重い妊娠高血圧症候群を発症するリスクを低下させる効果があるといわれています。
ただし、出血のリスクも少し上がるため、全員に使ったほうがよいわけではありません。以下のような方は特にすすめられます。
- 以前の妊娠で妊娠高血圧症候群になったことがある
- 多胎(双子以上)の妊娠
- もともと高血圧や糖尿病、腎臓の病気がある
- 自己免疫の病気がある
初めての妊娠や35歳以上など、中程度のリスク因子がいくつかある場合も検討されます。産婦人科、脳神経外科の先生とよく相談してください。
- 妊娠したら、脳のトラブルは起こりやすくなりますか?
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既にバイパス手術を受けている方は比較的安全に妊娠・出産ができるといわれています。手術が必要な状態にも関わらずバイパス手術を受けていない方は、妊娠・出産中に脳卒中で重い症状がでやすくなる可能性があります。
【脳のトラブルの発生頻度】
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すでにバイパス手術を受けている場合
妊娠中や出産のときに脳卒中や痙攣発作が起こる可能性は約0〜8%です。実際に問題が起っても軽症で済むことが多いと言われています。 -
バイパス手術を受けていない場合
妊娠中や出産のときに脳卒中や痙攣発作が起こる可能性は、報告によってばらつきがあり、0〜38%です。時に重症化する場合もあり、中には脳出血で亡くなった人も報告されています。ただし、手術が必要ないと判断されていた人ではトラブルの頻度は高くないとも言われています。誰でも妊娠・出産前にバイパス手術が必要なわけではなく、その必要性については主治医の先生としっかり相談することが大切です(Q3. 妊娠を考えている場合、妊娠前にバイパス手術をしたほうがいいですか?)。
【トラブルが起きやすい時期】
脳卒中の多く、特に脳出血は妊娠中期〜後期(特に妊娠24週以降)に起きています。分娩中や出産後にトラブルが起きることもあり、特に脳梗塞は出産後3〜7日くらいに起こることが多いです。 -
すでにバイパス手術を受けている場合
- 妊娠中にできる脳の画像検査はありますか?
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医師が必要と判断した場合には、頭のレントゲン、CT検査、MRI検査を妊娠中いつでも受けることができます。
頭のレントゲンやCT検査は放射線を使った検査ですが、赤ちゃんが受ける放射線の量は少なく、影響はほとんどありません。MRI検査は放射線を使っていないので、妊娠中いつでも可能です。
造影剤(体の中をよく見えるようにする薬)を使った検査は、赤ちゃんに大きな影響が出るとは言われていませんが、小さな影響がある可能性があります。そのため、造影剤の検査は医師が必要と考えた場合にのみおこなうことになっています。
SPECT検査も赤ちゃんが受ける放射線の量は少なく、必要な時は検査ができます。ただし、ヨードを使った薬を使う場合、赤ちゃんの甲状腺に影響が出る可能性があります。
出産・産後のこと
- どの分娩方法がよいですか?
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過換気、いきみ、血圧上昇を避けるため、帝王切開や痛みを和らげての経腟分娩が行われることが多いです。帝王切開と経腟分娩のどちらが良いかは、はっきりしていません。
もやもや病で、自然なお産(経腟分娩)が脳梗塞や脳出血を増やすという明確なデータはありません。しかし、過換気やいきみ、血圧の上昇は避けたほうがよいと考えられています(Q8. 血圧以外に妊娠中や出産の時に気をつけたほうがよい体の変化はありますか?)。
帝王切開は、いきみをなくし、血圧をより厳しく管理できる利点があります。妊娠高血圧症候群になった場合、帝王切開を選択する施設が多いともいわれています。昼間に脳神経外科医が待機している状態で、短時間で分娩が行えるのも大きなメリットです。
経腟分娩は身体への影響が少なく、分娩後の痛みからの回復が帝王切開よりも早いとされます。このため、血圧や脳血流への影響も帝王切開より少ないと考えられています。経腟分娩では、分娩時間を短くするために吸引や鉗子分娩が使われることもあります。
もやもや病での帝王切開、痛みを和らげての経腟分娩については、多くの施設や国から報告があります。しかし、どの分娩方法が優れているかは、血圧の管理、脳梗塞や脳出血の発症、赤ちゃんの健康状態、いずれの観点でもはっきりしていません。妊娠前から適切な管理を受けていれば、分娩中や分娩直後に脳梗塞や脳出血を起こす危険は高くないと考えられています。
帝王切開、経腟分娩いずれの方法にも利点と欠点があります。また、もやもや病の状態も患者さんによって異なります。そのため、一律にもやもや病はこの方法がよいとは決められません。それぞれの施設が考える一番よい方法を選んでもらうのが良いと思います。
- 退院後の育児で注意することはありますか?
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もやもや病を理由とした授乳や育児の制限はありません。母親の飲んでいる薬や画像検査は、基本的に赤ちゃんに影響しません。
【薬について】
薬を飲んでいても、基本的に授乳は可能です。薬の種類によっては母乳に移行することはありますが、おなか中の赤ちゃんへの移行と比べると格段に少ないです。殆どの薬は10%以下、1%未満などしか移行せず、赤ちゃんへの影響はありません。ただし、授乳を続けるかは、赤ちゃんの成長や母親の希望、育児の疲れなどを考えて判断することが大切です。妊娠前・妊娠中に薬ををやめたり変更した場合、まず次の妊娠を希望するか考えましょう。その上で、主治医の先生と今後の薬について相談しましょう。
【画像検査について】
画像検査で造影剤を使っても、授乳をやめる必要はありません。注射のあと、24時間以内に母乳に移行する量は1%もありません。赤ちゃんが母乳から吸収する量はもっと少ないので、授乳を続けても問題ありません。放射線を使う脳血流検査を受けた後も、赤ちゃんや周りへの放射線の影響を心配する必要はありません。脳血流PET(ペット)検査は、検査直後から周囲の被ばくは全くありません。脳血流SPECT(スペクト)検査も、妊娠中でも赤ちゃんにほとんど影響しません。検査後の周囲の方の被ばく量は、自然界の放射線による被ばく量と比べてもごくわずかです。検査の後も安心して授乳や育児を続けてください。
