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INTERVIEWインタビュー

MMAでの学びと社会実装
~医療ビジネスを通じて~ 後編

MMA12期生 大山 功倫 × MMA12期生 園田 愛 特別オンライン座談会

お二人のお話を聞いて、ルールを知らない野球選手はゲームで活躍できないのと同じで、医療業界で活躍している人は、医療を知っている。お二人のように医療の知識をもち医療現場や医療ビジネスの世界で活躍している人をこれからもMMAでは輩出していきたいと思っています。私たち医師にとっても心強く思いました。 (コース担当 岡田先生より)

MMAでの学びが直接仕事に役に立つと感じたことはありますか

大山:私は製薬会社で働いていますが、国の医療政策に合わせて病院経営も変わっていきます。たとえば病院の重点領域が変わり、慢性期の病院が急性期の病床を増やして行くことに舵を取ることもあります。そうすると慢性疾患であるたとえば糖尿病、高血圧、脂質異常症のための薬はその病院には売れにくくなります。逆に、在宅医療であったり、クリニックが今まで大病院が扱っていた慢性期疾患の患者を扱うことになります。何が言いたいかというと、今まで通りにルート営業をしていたのでは、売り上げは伸びないということです。実は、製薬会社のブランド戦略はその薬の効果や安全性を伝えることはもちろん必要ですが、国の医療政策が患者さんのアクセスを考える上でとても重要で、日本では適切な場所に必要な薬を届けることが大事だと気づきました。取り扱う薬によって販売戦略を考え、どこにフォーカスするのかということは、私たちが決めるのですが、MMAで学んだおかげで、「患者さんの流れ」を読むことができて、患者さんの医療アクセスの改善・向上に寄与することができたと思います。やっぱり知るか知らないかで、ビジネスも全然違ってくると思います。日本ではMMAのように日本の医療政策を学ぶところがあまりない。だから、MMAに出会ってよかったと思っています。

園田:私は、大学を卒業して最初に医療コンサルティングをしていました。新卒時は2000年の介護保険法施行前夜で療養型病床群とか出てきたあの時代です。大きな政策転換を受けて「僕の病院は、一般病床、療養病床、何床ずつがいいだろうか」というようなご相談を多くいただき、政策・行政の差配の病院経営への影響力を目の当たりにしました。一方でそれらを熟知しながらも、地域の医療ニーズから、地域にとって必要な地域医療体制を構築していく地域ごとの活動や、保険者や民間企業といった医療に関わるステークホルダーそれぞれが、それぞれの目指すものに向けて取り組んでおられることも知りました。私は、MMAでの学びを通じて、医療に関わるさまざまなステークホルダーの「今の視点」を知ることができたように思います。そして私は、それらは一つの目標に向かってWIN-WINになれると思っています。たとえば私は、臨床現場の先生方と患者さん、行政、製薬企業等の産業、そして私たちが共有する目標「適切な医療が適切に届き、患者さんのアウトカム・QOLが向上する」のために、デジタルを活用した新しい医療モデルに取り組んでいます。これは、さまざまな視点を得ることができたMMAでの学びを社会実装に活かしているとの実感があります。

これからのMMAについて

岡田:MMAでの学びの社会実装につなげていくことは非常に重要だと思います。それに向けてMMAは今後どうあるべきだと思いますか?MMAでは日本の医療業界独特の共通言語を学ぶ場として機能していて、その理解が進むと医療政策への関与もできるし、大山さんや園田さんのように自ら医療を動かそうと思い始める。これがMMAの良いところだと思っています。大山さんや園田さんのような人が日本中に50人しかいないのと1000人いるのとでは、医療政策のクオリティも変わるし、実現可能性も変わってきます。

大山:それぞれのステークホルダーには、それぞれの目的と追求するものがあって、それをお互いに理解することがまず一歩だと思います。例えば、イギリスは、病院はほとんど国営ですが、日本の病院は多くはプライベートカンパニーなので、経営視点も考慮しないといけない。そういうことをわかった上で、患者さんがよりよい医療にたどり着けるにはどうしたらよいだろう、そのために私たちはどう動いたら良いだろうということを考えていかなくてはいけないと思っています。

岡田:医療のコミュニケーションの質を高めるためには、個々人が医療の理解を深めて、より高い状態でのコミュニケーションができるようにしていくことが大事ですよね。野球でいうと観客の目が肥えていけばプレーヤーのプレーも変わってくるのと同じということじゃないでしょうか。

大山:リテラシーをあげるのはとても大切なことだと思うのですが、残念ながら医療政策は義務教育では教えてくれませんよね。MMAの価値は、医療の現場に関わっている人、私たちみたいなビジネスの人や患者さんなど、医療の情報を求めている人が集まっているところですね。自分が、明日、今勤めている病院で次の経営戦略を立てないといけないという人が診療報酬改定に関する説明を受けたら、これどういうことですかって質問したくなるじゃないですか。だけど、普通にそういう話もあるんだ、面白かったって聞いてるだけでは価値が全然違うんですよね。だからMMAの価値を上げるような仕組みを作っていくには、相互の学生さん同士のコミュニケーションが大事だと思います。ちょっとでも持ち帰って、自分の仕事に役立てようっていう人が周りにいるといいコミュニティになるのかなと思います。例えば、自分が払った医療費が少ない、医療ってどうなってるのみたいなちょっとした興味でも構わないと思います。

岡田:確かに学生さん同士の切磋琢磨は重要ですね。

園田:MMAは学生に多くの「引き出し」をくれたと思います。実社会で何かに触れた時「あ、あの時のあれだ」と思い起こして開けることのできるものを持つことができた。学生たちがこの学びからどのような価値を生み出し、社会に還元しているかを、私たち同窓生も交えて知り合い、シナジーを産むような場もあるといいですね。

今後のキャリアについてお聞かせください

園田:今日のお話の中での気付きでもあるのですが、MMAで学んだことで、自分の中には引き出しが沢山できた。引き出しがあることで気づかずに通り過ぎるのではなく、目の前の課題に気づく。つまり問題解決への入り口を得たような感覚があります。現場最前線の叡智を集めて作られたMMAのカリキュラムやテーマを学んだから、実社会においていろんな場面にアンテナが立ち、自分の幅を広げることにつながっているのだろうと思います。今ちょうど同窓会を立ち上げているので触れさせていただくと、同窓会ができることで期を超えた様々な人たちとのネットワークができることと思いますが、学びをそれぞれに社会実装している人たちがネットワーク化することで、社会に対してできることが倍にも3倍になるようなことが起きるかもしれない。そのようなワクワクとした期待も持って、これからもMMAの学びやネットワークを大切にしていきたいと思います。

大山:私は、患者さんの流れもわかるようになりましたし、日ごろ関わっている先生方は病院の教授や院長など経営に関わっている先生が多くいます。そういう先生と一緒に話す中で、求められていることもよくわかるようになりました。そんな中、私たちの薬をどう使ってもらうと一番効果的なのか、患者さんにとっても効果的なのかを考えることが、病院にとっても私たちにとっても効果的だということがよく分かりました。ペイシェントジャーニーという言葉を私たちはよく使うのですが、患者さんがどこから来てどう流れで行くかということが何となくMMAでの勉強を通してわかるようになってきました。医療政策をMMAのような形で学んだ後、製薬会社のリーダーをしている人はあまりいないと思っていて、それが私の強みだと思っています。例えば、難病疾患に対してどうやって薬剤を届けていくかということもすごくわかりやすくなりましたし、いろんな仕組みがあるということがわかりました。このような知識をもとにして、より多くの患者さんに適切な薬をお届けすることができていると思います。これはMMAに入って医療の仕組みを学んだからこそできてるんだろうなと自分でも思いますし、今の仕事に大変役に立っています。

岡田:ひとつ心掛けているのことがあります。MMAは1年間の講義を聞いて系統だった理解ができるようになる。しかし、医療の制度は変わっていくし、国によっても違う。日本の医療を俯瞰できる人を育てることが大切だと思っています。そのような学びを得る場はMMA以外では、あまりないと思っています。

大山:知っていることは、あたふたしませんが、知らないことが大量に入ってくると人ってあわてふためき、時々間違った方向に行ってしまうこともあります。勉強して理解することは、精神的な安定をもたらしてくれると思います。判断も楽ですね。

岡田:1年間は、いろいろ大変だと思うけど、いろんな話を聞いてもらって、そこに出てきてないことを言われた場合、「それはちょっと知らないです」っていってもらっていいと思います。MMAを卒業して得られるのは修士号で、医師免許のような資格ではありませんがヘルスケアや医療界の中で自信を持つことができると思います。だから自分の中で知らないことは、「それは俺をもってしても知らない」っていうことだから、調べればいいと思います。そこが医療界において最大の武器になると思います。

大山:知ったうえで調べることと全く知らないことを調べることはスピードも違うと思います。

園田:医療というものの地図があるとしたら、MMAの学生は皆、そのどこかの場所に立っているわけです。私はMMAで、この地図への理解、すなわちそこにいるのは誰で、それぞれがどんな動機を持ち、何を目指しているか、あるいはどんな脅威にさらされて、どんな圧のもとでいるか、などへの理解が深まりました。入学以前は、自分の立っている場所からしか世界は見えなかったけれど、卒業時、変わらず自分は自分の立っている場所にいながらも、全体がもう少し見えるようになった。それにより、何をどうしたらもっと成功確率が上がる、ということが前より少しわかるようになったかもしれない。自分が立っている場所から何か変えていくことができるかもしれない。そう考えると、MMAの学びは「より良い医療のための変革者になれる」みたいに捉えられるでしょうか。ちょっとかっこ良すぎるかもしれませんが(笑)

大山:MMA卒業後に転職している人が結構いるんですよね。

園田:もともとそういう気持ちがあって、何かやりたいって思ってる人が入学していますよね。

大山:ここで目覚めたというか。園田さんの説明された地図の例でいうと、よく地図が分かるようになったから、「次は、ここのポジションでやってみようか」という風になるのかなと思ったら素晴らしいことですよね。

岡田:今の日本では4大卒の時点で、ある程度方向性が決められている中で、人材の最適配置を30代、40代で見直すのは重要ですよね。

大山:私は40歳を超えてからMMAに入学しましたが、もうあと10歳若かったら、もうちょっと人生変わっていたかもしれないですね。

MMA卒業後、ご自身の目標の変化はありましたか?

園田:MMAに入ろうと思ったきっかけは、自医療法人の経営のためだったのですが、卒業してみると、より良い医療のために俯瞰的な引き出しをいただいて、自院での体験を切り口に様々な問題意識が芽生えて、今はITベンチャーをやっています。

大山:MMAに入った目的は自分が学ぶためでしたが、入ってみると、医療だけが情報の非対称性が激しい。そういうところは是正すべきなんだろうな、だから、医療に携わる患者さんのリテラシーを上げるような取り組みをしていかないといけないのではないかということを何となく卒業して思いました。患者さんに医療の仕組みを理解してもらって、適正な医療を分かってもらうための取り組みをやるべきじゃないかと思い始めました。この点、製薬会社だけではできないことを園田さんの会社と組んで取り組んでいます。たとえば、患者さんに対してある疾患に対する知識をあげる取り組みをするとか医療の仕組みに対する知識をあげてもらうということをやりたいなと思ってましたので、園田さんと一緒にトライアルを実施しました。なんとなく形はできてきたような感覚があります。

岡田:患者さんの医療へのアクセスを改善することは重要ですね。

ぜひMMAで学んでほしい人は?

園田:医療業界のマップの上で、それぞれ自分の立っているところから、「医療をもっとよりよくしたい」と思う人に来てもらいたいですね。多様な場所にいる人がいらっしゃればいいと思います。今は少ないかもしれませんが、患者さんの立場も重要と思います。

大山:私も園田さんと同意見です。私の場合、一番メリットがあったのが他分野、他業種の人たちと話し合えたことです。一つのことでもいろんな考え方ができるということがよく分かったので、それはすごい良かった。製薬会社の人ばっかりだったら全然面白くなかったと思うんですよね。園田さんみたいな起業家がいたり、臨床で活躍している医師がいたり、めちゃめちゃ面白かったですね。そういう多様な人材が「その領域の責任をしょって持ってこい」みたいな感じですよね。それが一番良かったですね。その領域の代弁者ともいえる人達と同じテーブルで話し合えたのが一番僕にとってすごい勉強になりましたね。業界を越えた交流ってなかなかないじゃないでしょう。僕らが先生とこうプライベートで話すこともなかなかできないことですし。そういう意味で、MMAはそういうことができる唯一の場所かなと思いました。

お忙しい中、お時間をお取りいただきありがとうございました。

聞き手:
新城 大輔
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
医歯学系専攻 環境社会医歯学講座
医療政策情報学分野 准教授

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