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INTERVIEWインタビュー

コメディカルと管理会計・コスト意識

MMA13期生 羽田紘人 特別オンライン座談会

羽田紘人
MMA卒業 13期生
羽田 紘人
Hada Hiroto
大阪府出身。大学卒業後、2007年東京医科歯科大学医学部附属病院に診療放射線技師として入職。勤務の傍らX線CT認定技師、AI(Autopsy imaging)認定診療放射線技師の資格を取得。2016年に東京医科歯科大学 医療管理政策学(MMA)コースに入学。2017年4月より一橋大学経営管理研究科荒井耕教授に修士論文の指導を受ける。MMA在学期間中である2016年10月から2017年9月まで同大学歯学部附属病院へ出向し、医学部附属病院と歯学部附属病院の統合に向けた準備に携わる。2018年3月東京医科歯科大学医療管理政策学修士取得後、2018年4月より東京医科歯科大学医学部附属病院放射線部 主任放射線技師(CT部門責任者)に昇任。院内では、MMAでの学びを活かした医療放射線安全管理委員、大型医療機器(CT、MRI)調達に関する委員なども務めている。また、広島国際大学 医療経営学部、群馬医療福祉大学 看護学部ほかで非常勤講師として後進の育成を担当。2021年より、京都大学 大学院情報学研究科社会情報学専攻 医療情報講座に在籍し、東京医科歯科大学病院で働きながら博士号の取得を目指している。

第3回は、MMA13期生(医療政策学コース)であり、東京医科歯科大学病院で主任放射線技師として活躍する羽田紘人さんにお話を伺いました。羽田さんは、大学を卒業後、診療放射線技師として東京医科歯科大学医学部附属病院に勤務するため東京に来ました。以来、およそ15年間、同病院の放射線部で働いています。

まず初めにMMAの志望動機を教えてください。

羽田:MMAには、2016年に入学しました。東京医科歯科大学の病院に入職後5,6年過ぎ、仕事もそれなりに一通りこなせるようになってきた頃、何かステップアップをしたいということで、大学院で学ぶことを検討し始めました。放射線関連の大学院もありましたが、私は、病院管理やマネージメントを学びたいと思っていたので、MMAを志望し、受験しました。

放射線関連の大学院に進むという選択肢もあった中で、MMAで病院管理を学びたいと思ったのは何かきっかけがあったのでしょうか?

羽田:そうですね。MMAのカリキュラムは、病院の全てを俯瞰的に学べると考えていました。大学院の進学を考えていた頃、私は毎日の診療の中で医療従事者のコスト意識の低さに、日々疑問を持ちながら働いていました。医療現場が多忙なことは重々承知していますが、少し意識するだけで診療の質を保ちながら、医療資源を効率的に利用できるのではと考えていました。このような問題意識が強くなってきたころでMMAに出会い、入学しました。実際にMMAでは管理会計に出会い、荒井研究室(一橋大学)での研究を通して、管理会計を医療現場に広めるために突き詰めていきたいと思った次第です。

MMAに通われている時に、上司の方々からの理解を得るのは大変でしたか?

羽田:ちょうど私が大学院を目指したタイミングが、「アカデミアで通用する人材を育てていきたい」と所属する部門が変革を始めた時期と重なり、凄く理解はしていただきました。MMA 2年目に修士論文の指導を受けに一橋大学国立キャンパスに行くことになったのですが、その辺も理解いただきながら進めました。ただ、やはり業務上、私だけ特別扱いするということはなかなか難しい状況でしたので、当直の「入り明け」*や代休日・有給休暇などを使って、工夫をしながら大学院に通っていました。
*「入り」とは、当直(夜勤)の始まる時間(夕方)、「明け」とは当直(夜勤)の終わる時間(朝)を言います。

在学中を振り返ってみて、実際にMMAで学んで楽しかったことや印象深かったことについて御紹介いただけますでしょうか

羽田:MMAでは、考えていた通り、医療を俯瞰的に多角的に、いろいろな視点からから学べると感じながら授業を受けていました。授業も良かったのですが、共に学ぶ仲間が素晴らしい人ばかりでした。同期生や同窓生にはすでに医療の業界で活躍されている方も沢山いました。官僚の方々やシンクタンクの方々など、普段の病院勤務ではなかなか出会わない方々と、一緒に議論できる仲を構築できたのがMMAで私が得た財産だと思っています。凄く楽しい大学院時代を過ごしておりました。

講義で一番興味を持たれたのは、管理会計における原価計算だったのでしょうか?

羽田:医療経済学も含めて、お金にまつわるところにすごく興味を持ちました。修士論文に繋がった管理会計や原価計算からは、その後も凄く良い影響を与えていただいていますし、これからも勉強を続けていきたいと思っています。

修士論文で扱ったテーマと内容を簡単にご紹介いただけますでしょうか

羽田:修士論文では、大型医療機器の採算性と共同利用政策への影響というテーマで研究を行いました。具体的には、国立大学病院におけるCT検査やMRI検査の採算性の分析を行いました。また、平成26年度の診療報酬改定で、CTやMRIの共同利用について、診療報酬点数が新たに算定されましたので、医療機器共同利用の実態や阻害要因について調査を行いました。

MMAでは医療に関するいろいろな科目がありますが、羽田さんが研究されていた経営関係の科目などは、あまり多くないと思うのですが、授業の内容についての希望はありましたか?(コース担当伏見先生より)

羽田:先程もお話ししましたように、MMAの授業で医療経済や管理会計を学べて凄く良かったと思っています。ただ、一方で、もっと深く経営学や経営分析について勉強できれば良かったなというところはあります。よくMMAがMBAと比較されて、経営のことを専門的に勉強しているのかという質問を受けるように、MMA終了生に対して病院経営を支える人材としての期待が寄せられているとも感じています。

コメディカルの方も毎年継続的にMMAに入学していますね(コース担当伏見先生より)

羽田:臨床現場で働くコメディカルから見るとちょっと変わった大学院に入っているなという印象が確かにあると思います。しかしながら、東京医科歯科大学病院でも14期に臨床工学技士の方が入学されているように興味を持っている方もいると思います。その方の入学前には臨床工学部門の技師長から私にMMAに関する問い合わせがあり、入学するにあたって、個人的にお話を伺う機会がありました。

受験のきっかけはお話しいただきましたが、それ以外のところで、MMAに関して入学前に知りたかったことはありましたか(コース担当岡田先生より)

羽田:MMAの受験にあたっては修士1年制と2年制の2種類のコースのどちらにするかという点も悩みました。また、本当に働きながら大学院生としてやっていけるのかと悩みました。実際に入学してみると、社会人で仕事をしながら頑張っている方がほとんどでした。ですから、私も含めて同級生たちも、かなり大変な学生生活を送っていたと思うのですが、「他の仲間も頑張っている、頑張って乗り越えていこう」という共通の意識みたいなものがあり、乗り越えられたと思っています。MMAに入学前は、不安要素もそれなりにありましたが、MMAでは同じ境遇の同期がいて、頑張れる環境があったということに大変感謝しております。

他大学の公衆衛生学の大学院とは迷いましたか?

羽田:入学を検討している頃には、他の公衆衛生学大学院のホームページなどを見て検討もしていました。その中で、他の大学院にない特徴的なカリキュラムに惹かれたということに加えて、仕事をしながらでも通いやすい環境というところでMMAを選びました。

修了後も同じ職場に勤められていますが、仕事の役割や考え方に変化が表れてきたりしたことはありましたか?

羽田:私がMMAに入学した年は、附属病院合併の前段階であり、両病院に重複する放射線部門等の合併について模索していた時期になります。入学した年の10月に現学長の田中雄二郎先生(当時は、医療担当理事)の命により、歯学部附属病院へ出向となりました。出向を1年で終え、MMAを修了した後に、医学部附属病院の主任放射線技師としてCT室の責任者を務めることになりました。仕事上ではMRIやCTなど数億円を超えるような医療機器の設備投資の委員や放射線安全管理の委員を務めさせていただいており、MMAで学んだこと、管理会計で学んだことが大変役に立っているのではないかなと考えています。東京医科歯科大学で購入している医療機器は病院の役割から高性能のものが多いと思います。診療報酬から来る採算性だけで考えると、非常にコストが高いものになります。ただ、やはり東京医科歯科大学は、高度先端医療を担っている大学病院であり、研究機関という側面がありますので、総合的な判断を行えればと考えています。

歯学部附属病院の放射線部に出向していた時の具体的な統合に向けてのミッションを可能であれば教えていただけますか?

羽田:歯学部附属病院にもMRI装置やCT装置が導入されていましたが、歯科の患者さんを対象としたものであり、稼働率が高いとは言えない状況でした。そこで、病院統合に向けた医科・歯科双方への検査体制の構築をミッションに進めていました。また、稼働率の向上をめざした取り組みも行っていました。

実際に今も歯科のMRIやCTは医科の患者さんも受け入れる形で運用されているのですか?

羽田:病院が合併した後は、一つの検査部門として検査の割り振りを行い、医科棟・歯科等での効率的な検査を行っています。

現在、京都大学の博士課程に進学されているとお伺いしました。羽田さんは、京都大学の大学院に入学して、今、どんなことを研究されているのかを教えいただけますでしょうか。

羽田:MMA修了後に博士課程への進学を検討した際、東京医科歯科大学の大学院や、修士の2年目でお世話になった一橋大学の経営管理研究科に進学することも考えていました。その中で、やはり、病院に蓄積されたデータを利用した経営管理みたいなものは、これまで以上に必要になっていくのではないかと感じていました。医療情報を用いた管理会計ということで、同様の研究が行われていた京都大学に入学することになりました。
現在はトークンエコノミー手法を用いた病院管理システムが、医療従事者の経営意識やコスト意識にどのような影響を与えるかについて研究しています。

非常に興味深い研究ですね。MMA入学の経緯とは、別のところに興味関心が移っているのは面白いですね。

同期や同窓生の方とは今どんな交流をされていますか(コース担当岡田先生より)

羽田:MMA修了後、この3月で5年が経とうとしていますが、いまだに多くの方と交流しています。その中にはさまざまな悩みを相談できる人もいます。私自身は30歳ぐらいで入学したのですが、同級生の中では一番若い部類に入っていました。中には10歳、20歳も年上の仲間がいたのですが、日々のディスカッションの中でその方々のキラキラした目、時にはギラギラした目に多くの刺激をいただいてMMA在籍時は楽しい期間を過ごさせていただきました。世代を超えた関係は卒業後も繋がっていて、今でも多くのディスカッションをさせていただいています。
例えば、医師のライフプランについて講義を行っている同期には、どのようにキャリアを積んでいけばいいのか、ファイナンシャルプランも含めてどうしていけばいいかということも相談もさせていただいたりもしています。また、アカデミックの方に進んでいる仲間には、研究者としての心構えや、研究者として、どのような道を歩めば良いのかなど、いろいろな相談させていただいています。

MMAでは、1年間、授業を通して、いろんな角度からの医療にかかわる授業を受けられたと思うのですが、MMAで学ぶ意義を羽田さんはどのようにお考えですか?

羽田:私自身、まだまだ勉強不足だとは思ってはいるのですが、MMAでは医療制度だったり、政策であったり、あとは病院の建築だったり、医療に関するいろんなことを俯瞰的に、多角的に学んできたと思います。これにより医療業界の中では、ある程度どこへ行ってもその道の専門家の方とディスカッションができるのがMMA修了生の強みではないかと思います。

MMAは、医療に強い興味関心がある人が集っていて、MMAに若い年代の方が入学 されると、いろんな人に刺激されて、いろんな世界が広がっていく中で向上心が芽生えて、それがキャリアを考え直すきっかけになったという人もいます。羽田さんは、そういったキャリアに関する悩みはできましたか?

羽田:キャリアアップといいますか、この先に目指していきたい道のようなものができたり、この人のような仕事に私も挑戦してみたいという刺激はMMAで多くいただきました。そんな中で、キャリアアップのために博士課程で研究してみたいという気持ちが大きくなり、進学しました。現在の悩みは、平日は診療に100%、夜と土日に研究を行っており、そのバランスをとるのが難しいです。診療にやりがいを感じるのと同時に研究も楽しいので時間が足りないのが一番の悩みです。

羽田さんが現在、医療政策や病院管理に関してのご自身の思いや、政策論をお聞かせください。

羽田:先程から話に上がっていますように、医療従事者のコスト意識と経営意識はまだまだ低いと思っています。そういうところにすごく問題意識を持っています。例えば、飛行機の客室乗務員さんやコンビニエンスストアの店員さんは、皆さん、自分が提供している商品やサービスの価格をある程度把握してお仕事をされていると思います。ところが、医療従事者は患者に受けてもらっている検査の代金や、使用しているお薬の値段など、自身が行っている医療サービスの値段を知らない人がすごく多いと思います。そこが無意識的に医療資源の過剰使用につながっているのではないかと考えています。 これでは、限られた医療資源の中で、必要なところに有効に資源を配分することができないと考えています。医療者は1度現場に出ると、毎日命と向き合い、すごく多忙であり、学ぶ余裕がなくなる人もいますので、医学教育や学部教育のうちに医療に関わるお金について知るべきだと私は強く思っています。
各医療職の国家試験の出題基準なども重々承知しており、「学部教育の中でそんなに時間が取れない」と先生方からご意見いただくこともありますが、コスト意識の構築ということが目的ですので、例えば医学部教育6年間に一コマとか学部教育4年間に一コマとか、わずかでもいいので、医療に関わるコストなどに向き合う時間ができればと考えています。まだまだ夢のような妄想ですけど、いつか実現すればいいなぁと考えています。

元医系技官である岡田先生にお伺いします。コスト意識を医療従事者にどのように植え付けていけばよいのか、お考えがあればお聞かせいただけますでしょうか。

岡田:医療従事者がコスト意識を持つことは、大事な視点だと思っています。私が先週、医学部の1年生に講義をしたのですが、点数表を見せて「この手術いくらだと思う」と聞いて、実際白内障の眼内レンズはいくらだよという話はしています。医師は、病気のガイドラインがわかっているというだけでは不十分で、医療制度が複雑になってきている今、福祉の制度に精通したり、マネージメントができる医師が望まれているので、ぜひ羽田さんのような方にお力添え頂いて、医療従事者の社会性をもっと上げていきたいですね。

羽田:私も携われるように頑張りたいと思います。お金の話は、結構好きな人も多いと思うんですよね。それが、組織のことになると他人事に思えて意識が薄れてしまうのが問題だと思っています。医療従事者も組織の一員として自分のお財布からお金が出ているような感覚で、病院の経営についても考えていただければなと思っています。私ももっと頑張って広めていけるようになりたいと思います。

今後のキャリアに関する展望をおきかせください

羽田:医学教育の中で病院経営の考え方をもっと広げていけるような研究を続けていくことができればと思っています。また、指導する立場にも将来的にはつきたいと考えています。まずは、今、行っている博士課程の研究を発展させて、学生の皆さんに教えていけるようになっていきたいとも考えています。

最後に入学を検討されている方へのメッセージをお願いします。

羽田:MMAは本当に医療を俯瞰的に多角的にいろいろな角度から学ぶことができます。また、すごく素晴らしい同期生、また同窓生が幅広い分野で活躍されており、そんな方々とディスカッションをする機会が沢山あり、将来にわたって付き合える関係づくりが在籍中にできると思います。MMAは、一部レポートとか、授業の量とか、仕事しながらではかなり負担となるところもあると思いますが、そこは皆、同じ境遇の仲間が多いので、切磋琢磨しながら、時には協力しながら乗り越えていけると思います。また、それが乗り越えた後の自信にも変わってくると思います。入学されたら、ぜひ医療政策や医療経営について同窓生としてディスカッションをさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

お忙しい中、お時間をお取りいただきありがとうございました。

聞き手:
新城 大輔
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
医歯学系専攻 環境社会医歯学講座
医療政策情報学分野 准教授

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