1年生 A・B組と C・D組に分かれて、前期の木曜日 3、4限と金曜日 3、4限にそれぞれ行われている。時間割では 16 時20 分に終了になっているが、実際には 19~20 時までかかることがしばしばで、入学したばかりの学生にとってはかなりの忍耐力が必要と思われる。
正しい化学知識及び化学実験に対する基本的態度を身につけ、注意深い観察力、正確な判断力を養うことにより医学・歯学の分野での指導的役割を担える人材を養成することを目的にしている。
内容はおおまかに I:無機定性分析(陽イオン系統分析、ペーパークロマトグラフィーの応用) とII:容量分析(中和滴定、キレート滴定) である。いずれも大学受験で化学を選択した学生ならば馴染みのあるテーマである。陽イオン系統分析では H2Sガスを用いて硫化物を沈澱させるので、毒ガスを実際に取り扱うことにより、危険なものを正しく処理できる操作を身につけることができる。また中和滴定では一次標準物質を用いて二次標準溶液を標定したり、器具の公差を考慮に入れて誤差を議論することにより、本格的な容量分析を学ぶことができる。
Primary Record とは、実験中の経過、状況などをその場で記録するもので、できるだけ多くの生の情報(そのとき記録しなければ永遠に失われるもの)を書き留める習慣をつけることを目的としている。実験室で行ったことは、その場ですぐにノートに記入するのはもちろんのこと、離れた場所で試薬の重さを測るときはその場所へノートを持っていくべきである。薬包紙・ろ紙・その他の紙片にとっさにデータや計算を書き散らすというような悪癖は絶対につけてはならない。ノートに記入しなければならないことは、試薬の量、操作、反応条件(温度、時間)、観察事項(色、発熱)などである。
文章や形式を整える必要は全くない。そのようなことのために、忙しい実験中に余計な労力を使うことはない。自分だけにわかる略号などを使ってもよいが、あまり略しすぎて二、三日たって読んでみたら自分にも意味が分からなかったというようでは困る。そういう事態を避けるためには、名詞のみの羅列はやめて、短い文章を書くのがよい。複雑な構文は避けるべきである。記号や絵を使うのも良い。観察事項の追加がしやすいように実験経過が追いかけやすいもの(たとえばフローチャート形式)がよい。一連の実験は見開き 2頁以内に書き、頁をめくって次にわたらない方がよい。実験の区切りごとに時刻を記録するのがよい。
実験しなくても書けるようなことや、あとでも書けるようなことは実験中には書かない。感想、解釈、考察などは実験中の状況の記録になる場合もあるので、待ち時間など余裕があって観察の必要もないような場合には書いてもよい。主観的で未熟な記述(きれいな、きたない、など)は報告には不適であるが Primary Record ではかまわない。
可能な限り量的に記述してあいまいさを排除し、操作だけでなく所見も書く。定性分析と言えども定量的な記述は必要である。結果の検討のときなどにそれが生きてくる。逆に、容量分析になると数字だけ書き並べて定性的所見を書かない人がいるが、これも良い Primary Record とは言えない。
あらかじめ記入欄を作って実験しながら記入する方式は、よく予習したという意味では良いが、 Primary Record の本来の趣旨からは外れている。実験では予想外の事態が起こる可能性が常にあり、そういう時にこそ、特に詳細な Primary Record が必要なのである。試料をこぼしたこと、器具の破損なども記録されるはずである。何回かやり直しをしたら、そのすべてについて記録するのは勿論である。(配布された)試料をどのように実験に消費したか、その経過をできるだけ詳細に記録する。最終段階では廃棄(流しまたは回収瓶)の記録があるはずである。一度ノートに記入した事項は、消しゴム等で消してはならず、もし変更、削除などをするときは、その箇所に 2本線を引き、後からでも読めるようにしておく必要がある。間違った情報でも、結果の検討に役立つことがある。あとで間違っていないことがわかった場合には、二本線のそばに「イキ」と書いて日付を入れておく。
乱雑に書き込まれた実験ノートにあとで手をいれるのは手間がかかる。はじめから計画的に記録をとること、すなわち実験ノートをどんな形式にするかを決めておく必要がある。われわれが初めて化学の研究に従事し、実験ノートに記録を始めるのは、実験の経験に乏しい時代である。それはただ現象を克明に記入するということから始められる。整理をするということを考慮に入れるなどの余裕は持ち合わせていない。先輩諸氏からも『「こういった形式で記入するように」と詳細にノートについての指示をされない場合には、各人勝手に、しかも自分だけがわかればよいといった形式で記録され、このような自己流の記載形式は、その後の長い研究生活を通して、ほとんど変えられないまま惰性的に継続される。』という感想が寄せられている。
そこで、将来研究実験を始める諸君がその前に、実験ノートから実験内容を引き出しやすいように、整理されたノートの記載方法を自分で作り出すことは極めて大切なことである。以下各自が実験ノートの記載方法を定めるに当って、参考とすべきことを述べる。
高校まで化学実験をやったことのない学生もしくは 4~5 人のグループでしかやったことのない学生が過半数を占める中で、各自が一人一人独立して実験を行う形で化学実験は行われる。それぞれのテーマにはテスト形式のものがあるので、学生は緊張感の中で実験を行うことになるが、それが責任感につながり、やがて本実習が終了する頃には、一人で実験することに対する自信とやり遂げた達成感を満喫できるようにプログラムが工夫されている。
実験レポートに関して、ただノートを提出させるというような一方通行の指導では学生の能力を充分に引き出すことはできないという考えから、教官と学生との双方性が保てるように、面接(ノート面接)を頻繁に行っている。そこではレポートの書き方の基礎から実験結果の議論までマンツーマンで指導するので、学生は実験報告を行うことの重要性を認識する。
実験の最終回に自分自身で実験のテーマを見つけさせる「考察実験の週」を平成 10 年度に設けた。現在ではこれは化学実験の学生の関心をそそるテーマの一つになっている。将来研究者としての潜在能力のある学生を早いうちに発掘したいという教官側の興味から、はじめ容量分析テスト合格者に対して行ったものである。実際に、好奇心を駆り立てられてひとりで独創性を追求する学生ばかりでなく、グループでテーマに取りくんで協調性を大切にする学生もかなり見受けられ、学生各自の持っている能力を十分発揮できる機会になっている。またテストに失格した者の中にも自主的に考察実験に取り組もうとする姿勢が見られる。優秀な考察実験を行った者に対しては「考察実験優秀者」として評価・公表するので、次年度の学生の刺激にもなっている。
参考: 佐賀医科大学教育視察団が見た「化学実験」の感想 (医歯大ひろば No.76 p.9 )
「(前略 )また、解剖の増子教授、生理学の江原教授、化学の高崎教授は、午後からの化学の実習を見学させていただき、 3人とも、実習を指導されていた先生の熱意、迫力にいたく感銘を受けたようです。帰途、ずっと一緒だった増子教授は、佐賀医大では試験の評価が厳しい先生として学生から恐れられている存在なのですが、「うちでも、ああいう風に引き締まった雰囲気の中で実習がやれないものか」と、しきりにうらやましがっておりました。(後略)」
出席点、面接点、実験ノート(一次記録およびレポート)、考察実験等について総合的に評価する。