化学実験

対象: 医学部医学科、歯学部歯学科

前期 木曜日、金曜日 3, 4 限 (担当 岡崎三代、奈良雅之、勝又敏行)

概要

 1年生 A・B組と C・D組に分かれて、前期の木曜日 3、4限と金曜日 3、4限にそれぞれ行われている。時間割では 16 時20 分に終了になっているが、実際には 19~20 時までかかることがしばしばで、入学したばかりの学生にとってはかなりの忍耐力が必要と思われる。

 正しい化学知識及び化学実験に対する基本的態度を身につけ、注意深い観察力、正確な判断力を養うことにより医学・歯学の分野での指導的役割を担える人材を養成することを目的にしている。

 内容はおおまかに I:無機定性分析(陽イオン系統分析、ペーパークロマトグラフィーの応用) とII:容量分析(中和滴定、キレート滴定) である。いずれも大学受験で化学を選択した学生ならば馴染みのあるテーマである。陽イオン系統分析では H2Sガスを用いて硫化物を沈澱させるので、毒ガスを実際に取り扱うことにより、危険なものを正しく処理できる操作を身につけることができる。また中和滴定では一次標準物質を用いて二次標準溶液を標定したり、器具の公差を考慮に入れて誤差を議論することにより、本格的な容量分析を学ぶことができる。



実験の心得

化学実験の実際

成績評価の方法

化学実験日程表 (2006年度)

実験風景 2006年度 2005年度 2004年度

化学実験 (2006年度) 考察優秀者の発表

プレゼンテーションについて

2006年度 特別報告発表会

学生の感想 2004年度 2003年度 2002年度

昨年度の内容

化学教室



実験の心得 (化学実験テキスト p 3-6 )

  1. 実験を始める前に
    1. 実験書をよく通読し、実験の目的や内容を十分理解しておくべきである。テキスト通りにただ機械的に操作したのでは、単なるロボットにすぎない。できれば、関連事項は参考書等で調べておく熱意が欲しい。
    2. 実験は時間内に終わるようにすること。そのためにはあらかじめ方法等について検討し、計画を立てておくことが望ましい。
  2. 実験中の心得
    1. 実験はまじめな態度で行うべきである。不まじめな行動は思わぬ災害を招き、他人に迷惑をかけることになる。
    2. 定められた実験台は常に清潔に保ち、使用する器具類はよく洗い整頓しておかなければならない。倒れやすい器具類は台の端の方に置くと危険である。
    3. 使用する薬品や器具は大切に扱い、不足したり破損したならば直ちに補充すること。
    4. 試薬瓶の栓は同時に二つ以上開けないこと。栓をとり違えたために、その試薬が使用不可能になる場合が多い。
    5. 薬品をこぼしたままにしておくと災害のもとになる。薬品をこぼしたら直ちに雑巾でふきとり、雑巾は洗っておく。
    6. ガス、水道水、薬品などは無駄に使用しないように心掛ける。薬品などは大量に使用しても実験がうまくいくとは限らず、むしろその処理に時間と手間を要する。
    7. 水に不溶性の廃棄物は、所定の場所に入れ、流し等に捨てないようにする。マッチ棒は火を水で確実に消してから決められた場所に捨てること。
    8. 観察事項等は、直ちに記録しておくべきである。
  3. 災害および衛生について
    1. 実験中に何事が起ころうと、一番大切なことは人体に害のないように心掛けることである。
    2. 薬品を直接手で触れたりいたずらに味をみたりしてはならない。誤って手に触れたり口に入ったりした場合には直ちに水で洗うこと。実験終了後は必ず手を洗うこと。大部分の薬品は有毒である。
    3. 硫酸や苛性アルカリ等が皮膚や目についた時は、直ちに大量の水で流し担当教官に申し出て指示を受けること。危険な薬品を扱う時は、ゴム手袋、安全メガネ等の防具を使用する。
    4. 臭気を調べるときは直接かがず手の平であおぎ、臭気を呼び込むようにして調べる。
    5. 有毒ガスや悪臭気体を発生する恐れのある場合は、通気室(ドラフト)内を利用し、実験室内の空気を汚さぬようにする。
    6. アルコール、エーテル、その他引火性あるいは発火性の薬品の取り扱いには特に注意する。
    7. 試験管、ガラス棒等をむやみに振り回さないこと。中に入っているものが水だけとは限らず他人に迷惑をかけることになる。
    8. 試験管の中で物を熱する場合、常に振りながら加熱する。その際、人のいる方へ口を向けないように注意する。突沸した場合危険である。
    9. ガラス器具類は熱していても外見ではわからない。ガスバーナーで加熱するときには火傷をしないよう注意すること。ガスバーナーの炎は無色のところでも高温になっているから、頭や衣類等を近づけないように注意する。
    10. ガラス器具が破損したら、直ちにかたずけ掃除する。破片は小さくなりやすく危険である。ガラスの小さい破片を雑巾で拭きとった場合には、その雑巾は捨てる。
    11. 実験室では身体や衣類を保護する意味でできるだけ実験衣(作業衣)を着用するのがよい。皮膚の露出面積をできるだけ小さくするため、半袖・半ズボンなどは避ける。
    12. 実験中に起こった事故は、些細なことでも報告しなければならない。
    13. 消火器の備えてある場所を確かめておくこと。
  4. 実験ノートについて ルーズリーフは使わず、実験ノート( B5 判)を作り、1.Primary Record と2.報告 (report) の両方を書き込む方式をとる。ノートを用いる最大の理由は、記録の散逸を防ぎ、一連の実験の中でデータの順序がわからなくなってしまうなどの事態が起こらないようにするためである。
    (Primary Record )

    Primary Record とは、実験中の経過、状況などをその場で記録するもので、できるだけ多くの生の情報(そのとき記録しなければ永遠に失われるもの)を書き留める習慣をつけることを目的としている。実験室で行ったことは、その場ですぐにノートに記入するのはもちろんのこと、離れた場所で試薬の重さを測るときはその場所へノートを持っていくべきである。薬包紙・ろ紙・その他の紙片にとっさにデータや計算を書き散らすというような悪癖は絶対につけてはならない。ノートに記入しなければならないことは、試薬の量、操作、反応条件(温度、時間)、観察事項(色、発熱)などである。

    文章や形式を整える必要は全くない。そのようなことのために、忙しい実験中に余計な労力を使うことはない。自分だけにわかる略号などを使ってもよいが、あまり略しすぎて二、三日たって読んでみたら自分にも意味が分からなかったというようでは困る。そういう事態を避けるためには、名詞のみの羅列はやめて、短い文章を書くのがよい。複雑な構文は避けるべきである。記号や絵を使うのも良い。観察事項の追加がしやすいように実験経過が追いかけやすいもの(たとえばフローチャート形式)がよい。一連の実験は見開き 2頁以内に書き、頁をめくって次にわたらない方がよい。実験の区切りごとに時刻を記録するのがよい。

    実験しなくても書けるようなことや、あとでも書けるようなことは実験中には書かない。感想、解釈、考察などは実験中の状況の記録になる場合もあるので、待ち時間など余裕があって観察の必要もないような場合には書いてもよい。主観的で未熟な記述(きれいな、きたない、など)は報告には不適であるが Primary Record ではかまわない。

    可能な限り量的に記述してあいまいさを排除し、操作だけでなく所見も書く。定性分析と言えども定量的な記述は必要である。結果の検討のときなどにそれが生きてくる。逆に、容量分析になると数字だけ書き並べて定性的所見を書かない人がいるが、これも良い Primary Record とは言えない。

    あらかじめ記入欄を作って実験しながら記入する方式は、よく予習したという意味では良いが、 Primary Record の本来の趣旨からは外れている。実験では予想外の事態が起こる可能性が常にあり、そういう時にこそ、特に詳細な Primary Record が必要なのである。試料をこぼしたこと、器具の破損なども記録されるはずである。何回かやり直しをしたら、そのすべてについて記録するのは勿論である。(配布された)試料をどのように実験に消費したか、その経過をできるだけ詳細に記録する。最終段階では廃棄(流しまたは回収瓶)の記録があるはずである。一度ノートに記入した事項は、消しゴム等で消してはならず、もし変更、削除などをするときは、その箇所に 2本線を引き、後からでも読めるようにしておく必要がある。間違った情報でも、結果の検討に役立つことがある。あとで間違っていないことがわかった場合には、二本線のそばに「イキ」と書いて日付を入れておく。

    (報告)
    報告は誰が読んでもすぐ分かるように、できるだけきれいに、整理して書かねばならない。
    記入すべき事項をまとめると次のようになる。
    1. 実験題目、日付、天候、室温、共同実験者名、入室時刻、退室時刻
    2. 目的(理論的な説明を含む)
    3. 実験方法:器具、試薬、装置、操作、反応条件など
    4. 実験結果
    5. 考察 (題名をつけること)
    6. 反省、意見
    4-1 実験ノートの整理

    乱雑に書き込まれた実験ノートにあとで手をいれるのは手間がかかる。はじめから計画的に記録をとること、すなわち実験ノートをどんな形式にするかを決めておく必要がある。われわれが初めて化学の研究に従事し、実験ノートに記録を始めるのは、実験の経験に乏しい時代である。それはただ現象を克明に記入するということから始められる。整理をするということを考慮に入れるなどの余裕は持ち合わせていない。先輩諸氏からも『「こういった形式で記入するように」と詳細にノートについての指示をされない場合には、各人勝手に、しかも自分だけがわかればよいといった形式で記録され、このような自己流の記載形式は、その後の長い研究生活を通して、ほとんど変えられないまま惰性的に継続される。』という感想が寄せられている。

    そこで、将来研究実験を始める諸君がその前に、実験ノートから実験内容を引き出しやすいように、整理されたノートの記載方法を自分で作り出すことは極めて大切なことである。以下各自が実験ノートの記載方法を定めるに当って、参考とすべきことを述べる。

    4-2 実験ノートの表紙
    研究題目、番号、使用のはじめと終わりの年月日の他に必ず氏名と組番号あるいは住所を記入する。実験ノートは当人にとっては貴重な資料である。万一紛失した場合でも氏名と組番号、あるいは住所が記載してあれば当人の手に戻ってくる可能性が生じる。
    4-3 記入方法
    鉛筆または青、黒のボールペンを用いる。水溶性のインキを用いたものは使わない。
    4-4 目次とページ番号
    ノートの有効利用のためには目次をつけるべきである。そのため、ページ番号が必要になる。実験ノートの第1ページに書き込むまえに各ページに番号を記入する。
    (考察に関する注意 (化学実験テキスト p 92 )
    ノート面接で「考察が書けない、書くことがない」と訴えてくる学生をときどき見かける。操作の意味を良く考えずに単にマニュアルどおりに実験を行ってしまうと、考察に何を書けば良いのか分からなくなってしまうので、良く考えながら実験に取り組んでほしい。考察では実験結果、実験過程、あるいは実験課題全般に基づいて、自分の考えていることを論理的に議論することが重要である。実験者の考えが全く入っていない文章は考察とは言えない。例えば、実験中に観察したことをただ羅列した文章や、参考書を写しただけの文章は考察ではない。 まずは考察を書くことに慣れることが大切なので、考察の項で自分の考えを文章にまとめたら、積極的にノート面接を受けてほしい。

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化学実験の実際

高校まで化学実験をやったことのない学生もしくは 4~5 人のグループでしかやったことのない学生が過半数を占める中で、各自が一人一人独立して実験を行う形で化学実験は行われる。それぞれのテーマにはテスト形式のものがあるので、学生は緊張感の中で実験を行うことになるが、それが責任感につながり、やがて本実習が終了する頃には、一人で実験することに対する自信とやり遂げた達成感を満喫できるようにプログラムが工夫されている。

実験レポートに関して、ただノートを提出させるというような一方通行の指導では学生の能力を充分に引き出すことはできないという考えから、教官と学生との双方性が保てるように、面接(ノート面接)を頻繁に行っている。そこではレポートの書き方の基礎から実験結果の議論までマンツーマンで指導するので、学生は実験報告を行うことの重要性を認識する。

実験の最終回に自分自身で実験のテーマを見つけさせる「考察実験の週」を平成 10 年度に設けた。現在ではこれは化学実験の学生の関心をそそるテーマの一つになっている。将来研究者としての潜在能力のある学生を早いうちに発掘したいという教官側の興味から、はじめ容量分析テスト合格者に対して行ったものである。実際に、好奇心を駆り立てられてひとりで独創性を追求する学生ばかりでなく、グループでテーマに取りくんで協調性を大切にする学生もかなり見受けられ、学生各自の持っている能力を十分発揮できる機会になっている。またテストに失格した者の中にも自主的に考察実験に取り組もうとする姿勢が見られる。優秀な考察実験を行った者に対しては「考察実験優秀者」として評価・公表するので、次年度の学生の刺激にもなっている。



参考: 佐賀医科大学教育視察団が見た「化学実験」の感想 (医歯大ひろば No.76 p.9 )

「(前略 )また、解剖の増子教授、生理学の江原教授、化学の高崎教授は、午後からの化学の実習を見学させていただき、 3人とも、実習を指導されていた先生の熱意、迫力にいたく感銘を受けたようです。帰途、ずっと一緒だった増子教授は、佐賀医大では試験の評価が厳しい先生として学生から恐れられている存在なのですが、「うちでも、ああいう風に引き締まった雰囲気の中で実習がやれないものか」と、しきりにうらやましがっておりました。(後略)」



参考文献
  1. 「考えさせる化学実験−“マニュアル実験”からの脱却−」 岡崎三代、舩越浩海、東京医科歯科大学教養部研究紀要 No.27 、19-27 (1997) 。
  2. 「「化学実験」から得られるもの。一人一人が考え、一人一人が責任を」 岡崎三代、奈良雅之、医歯大ひろば No.71 、16-17 (1998) 。
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成績評価の方法

出席点、面接点、実験ノート(一次記録およびレポート)、考察実験等について総合的に評価する。



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