ごあいさつ

湯浅 保仁

私が昭和63年(1988年)に群馬大学から東京医科歯科大学に赴任してから、今年(平成26年)で約26年になります。3月で定年を迎えるに当たりまして、退任祝賀会と記念のホームページを作成していただけるとのことで、教室員の皆様にたいへん感謝しております

思い起こせば、昭和63年群馬大学助教授の時に本学医学部衛生学講座の教授選に出ないかとのお話があり、深く考えずに出ますとお答えいたしました。しかし、まだ39歳と若かったため、あまり期待しておりませんでした。それが選ばれたとのご連絡を頂き、驚いた次第です。7月1日に着任いたしました。私は、昭和48年に本学医学部を卒業した後、東京大学医科学研究所、米国国立衛生研究所(NIH)、群馬大学とずっと外部におりましたので、15年ぶりの母校ということになります。

衛生学講座は、初代北博正元教授、2代今村晋前教授と引き継がれてきましたので、私は3代目になります。よく「3代目は家をつぶす」と言われますが、平成12年に本学が大学院化された時に教室名が「分子腫瘍医学分野」に変わりまして、やっぱりということになりました。

着任すぐから教育・研究を開始しなければならなかったわけですが、教育は本橋豊講師(現秋田大学教授)に、また研究は長崎弘美技官に助けて頂き、順調に始めることができました。その後も、学部教育では衛生学と腫瘍学を担当しましたが、多くの非常勤講師の先生方に助けて頂きました。

研究では、幸い多くの大学院生、学内臨床部門から来た若い先生方など、延べ100人以上の人達と一緒に行うことができました。海外からも中国・ブラジル・タイから大学院生として多くの方が研究に参加しました。結果として一流雑誌に多くの論文が掲載されたことは、私の誇りです。

研究面での私の主な業績は、ヒトがん遺伝子の単離と解析、遺伝性大腸がんの遺伝子解析、胃がんの遺伝子及びエピジェネティクス異常の解析、遺伝子改変による胃がんのマウスモデルの作成などです。

ヒト肺がんからがん遺伝子を単離して解析した研究では、筆頭著者として論文をNatureなどに掲載することができました。遺伝性大腸がんであるリンチ症候群では、世界で始めてミスマッチ修復遺伝子hMSH6の生殖細胞変異を検出・報告しました。

また、胃がんの発症過程にCDX2などの分化に関連する転写因子が関与していることを明らかにして、胃がんの発症機構に関する総説が日本人で初めてNature Reviews Cancer誌に掲載されました。

さらに、胃がんにおいて多くの遺伝子の発現異常や、DNAメチル化、マイクロRNAなどのエピジェネティクス異常を解析して、多数の論文を発表しました。最近では、胃の細胞特異的にE-カドヘリンとp53の2つの遺伝子を同時にノックアウトして、ヒトと同様な未分化型胃がんのマウスモデルの作成に世界で始めて成功しました。後輩が、このマウスモデルを使って治療薬の開発をしてくれることを期待しています。

加えて私はこれらの研究に携わるのと同時に、日本癌学会の評議員・Associate Editor、日本衛生学会の評議員・編集委員長、日本家族性腫瘍学会の幹事・学術集会当番世話人、日本がん分子疫学研究会の幹事・学術委員長、日本エピジェネティクス研究会の幹事・年会長、Journal of Cancer Research and Clinical OncologyのEditorなど学会関連の役職を兼務しました。特に、私が言い出して、2006年末に日本エピジェネティクス研究会が立ち上がりましたが、毎年の年会が盛大に行われていることを誇りとしております。2009年の第3回年会は、私が年会長に指名されて、成功させることができました。

国際的にも、5年間にわたる日本学術振興会日中韓フォーサイト事業の主催者や、日韓がん研究ワークショップのコーディネータ―を務めるなど、アジア諸国の医学の向上と若手研究者を含む人材交流に貢献することができました。

この間大学での管理・運営面では、東京医科歯科大学アイソトープセンター長、附属図書館長、医学部附属動物実験施設長、教育研究評議会評議員、医学部医学科長、大学院医歯学総合研究科副研究科長などを併任し、本学の発展に寄与できました。平成23年4月には東京医科歯科大学医学部長、平成25年4月には大学院医歯学総合研究科長となり、医学部と大学院医歯学総合研究科の発展に尽力いたしました。中でも多くの外国大学医学部との交流協定を多数締結して、学生の海外研修の機会を増やすことができました。ソウル国立大学医学部との協定では、日中韓フォーサイト事業の仲間であるKang医学部長との人脈が役に立ちました。

26年はもちろん長いですが、私の気分としてはもう26年もたったのか、短かったなというのが、正直な感想です。やり残したことも多数ありますが、あとはこれから続く人達に託したいと存じます。26年の間には、本当に多くの方々のご支援をいただきました。この場をお借りして厚く感謝申し上げます。誠にありがとうございました。

皆様のますますのご活躍・ご発展を祈念しております。

平成26年3月9日