実験室全体1.jpg細胞培養室.jpg

研究テーマ

----------------------------------------------------------------------------------
歯周病の病因に関する研究
Investigation of pathogenesis of periodontal disease.
----------------------------------------------------------------------------------
・歯周疾患における免疫学的研究
 歯周疾患において特異的細菌に対する免疫応答の果たす役割の重要性が示唆されてきた.これまで当教室でも歯周炎患者の血清IgG抗体が認識する抗原,治療にともなう 血清抗体価の変動,唾液IgA抗体の果たす役割,さらに歯周炎におけるワクチンの応用の可能性などについて報告してきた.特に近年、破骨細胞形成を促進するRANKLと、その働きを抑制する OPGのバランスによって骨の吸収はコントロールされることが知られている。当教室ではRANKLおよびOPGが歯肉、歯根膜での発現を検討し、歯周組織を構成する歯肉線維芽細胞、歯根膜線維芽細胞などが歯槽骨破壊や、骨吸収の抑制にどのように関わっているかについて研究している。
・歯周病の疾患感受性に関する研究
歯周病の感受性に関する研究を分子レベルで行っている.HLA,サイトカイン,Fcレセプター,LPSレセプターなどの免疫反応に関する分子の遺伝子変異と歯周病との関係を調べている.また,同様に前思春期性歯周炎を伴う常染色体劣性遺伝病パピロンレフェヴレ症候群の遺伝的研究を分子レベルで行っている.
・歯周疾患における炎症のメディエーターに関する研究  
歯周疾患の発症・進行には,歯周病原性細菌に対する生体応答が重要な役割を果たしている.生体応答調節因子として,細胞接着分子(ICAM-1など),サイトカイン(IL-1, IL-6, TNFα など),プロスタグランジン(PGE2 など)が注目を集めているが,未だ歯周疾患におけるそれらの分子の役割や相互作用が十分に明らかにされていない.生体応答調節因子の解明により,新しい診断法・治療法の開発につながるよう,研究を進めている.
・歯周病原性細菌に関する研究
歯周疾患の発症・進行には特定の歯周病原性細菌が関わると考えられており,これまでに侵襲性歯周炎患者の細菌叢の特徴,親子間での病原性菌感染の可能性,病的歯肉組織中の病原性菌の局在などを調べている。

----------------------------------------------------------------------------------
歯周病における再生治療に関する研究 
Investigation of periodontal regeneration
----------------------------------------------------------------------------------
・歯根膜細胞シートを用いた歯周組織再生療法の研究
歯周組織の再生には歯根膜由来の細胞が重要な働きを果たしており、最近ではその中に幹細胞様の細胞が含まれていることも報告されている。東京女子医科大学との共同研究において、温度応答性培養皿を用いて培養ヒト歯根膜細胞シートを作製した。この歯根膜細胞シートには細胞外マトリックスが温存されており、歯周組織の再生に有利に働く可能性があることを報告した。更にビーグル犬の歯根膜細胞シートを人工的に作製した裂開型歯周組織欠損部に移植したところセメント質や歯槽骨の再生を伴う歯周組織の再生が観察され、歯根膜細胞シートの適用により歯周組織の再生が起こる可能性があることを報告した。現在新たな歯周組織再生療法としての臨床応用に向けて現在準備を進めている。
・骨形成因子rhBMP-2の歯周組織再生への応用に関する,実験動物を用いた研究.
・エナメルマトリックス抽出物の歯周組織再生への応用に関する,臨床的研究および実験動物を用いた研究.
・リン酸カルシウムセメントの,歯周組織再生への応用に関する,実験動物を用いた研究および臨床的研究.


----------------------------------------------------------------------------------
歯周病におけるレーザー治療に関する研究
Application of lasers in periodontal therapy
----------------------------------------------------------------------------------

 レーザーは,組織の優れた蒸散効果,殺菌および止血効果,さらには組織細胞に対する様々な生物学的効果を有しており,歯周治療において有用な手段として認められつつある.なかでも近年開発されたEr:YAG レーザーは,軟組織および硬組織の両者を効果的に蒸散することが可能で,発熱による組織の熱傷害が極めて軽微であるため,歯周治療において非常に有望なレーザーの一つと期待されている.当分野では,主にEr:YAG レーザーを用いて,歯肉の色素沈着除去などの審美処置を含む歯周軟組織治療,歯石除去を含む歯周ポケット治療,歯周外科手術における根面のデブライドメントや骨形態修正,および骨欠損部からの病的肉芽組織の除去,インプラント周囲炎の外科的治療,レーザーおよびレーザーによるPhotodynamic therapyを応用した歯周病原菌の殺菌などへの臨床応用に関して,基礎的研究から臨床的研究まで総合的に数多くの先駆的研究を行い,光エネルギーであるレーザーを用いた新しい歯周治療法の開発および臨床応用の確立とその生物学的効果の解明を目指して研究を行っている.

----------------------------------------------------------------------------------
歯周病と全身疾患の関係に関する研究
Relationship between systemic diseases and immune responses against periodontopathic bacteria
----------------------------------------------------------------------------------
・歯周病と心臓血管病変の関係
歯周炎と全身疾患の関わりが注目されており、特に心臓や血管病変から歯周病細菌が検出されることが当教室からも報告されている。細菌の直接的な作用以外に生体の免疫・炎症反応が重要であることが推察されているが、歯周病がどのように全身に影響を与えるかについては、これまで明らかにされていなかった。当教室では歯周病細菌の菌体成分に対する免疫反応によって作られた抗体が自己の細胞と反応して血栓を形成する可能性や、歯周病細菌に対する免疫反応によって血管の細胞が骨芽細胞様の分化を遂げて血管の石灰化を促進する可能性について検討している。
・歯周病と糖尿病の関係
糖尿病は歯周疾患のリスクファクターの一つであり、糖尿病患者では非糖尿病患者に比較して約3倍も歯周疾患の罹患率が高いことが知られている。歯周疾患は糖尿病の合併症の一つであり、糖尿病患者で歯周疾患を合併している患者に歯周治療を行うことにより、糖代謝が改善することが報告されている。これまでに、当教室でも歯周疾患と糖尿病の関係を知るために、歯周疾患を合併している糖尿病患者に歯周治療を行い、歯周組織の炎症状態および糖代謝の改善について検討した。その結果、糖代謝については統計学的に有意な改善は見られなかったが、歯周組織の炎症は有意な改善を示し、炎症の指標である血清CRP濃度にも有意な改善が見られたことを報告した。さらに、欧米の糖尿病患者では肥満度と糖尿病の相関関係が見られことから、肥満と歯周疾患、および糖尿病との関係を調べることを目的として研究を進めている。

----------------------------------------------------------------------------------
歯周病に対する臨床研究
----------------------------------------------------------------------------------
・歯周病原性細菌の保有する細胞死誘導因子の解析と臨床応用  
重要な歯周病原性細菌である,Bacteroides forsythus さらには,Actinobacillus actinomycetemcomitans 血清型a がタンパク性の細胞死誘導因子を産生し,リンパ球系・上皮系のヒト培養細胞に対して強力に細胞死を誘導する。歯周炎の本態である歯周組織の炎症と破壊の原因となり,かつ歯周組織の修復を妨げる歯周病原性細菌由来外毒素様因子(細胞死誘導因子)の同定,作用機構の解析を基盤として,歯周炎発症・進行機構を解明し,最終的には効率的な診断・治療・予防法の開発を目標としている.
・酸素ナノバブル水・オゾンナノバブル水の応用
ナノバブルとは、独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)とREO(レオ)研究所が生成に成功したもので、直径が1mmの5000分の1ほどの目には見えない泡であり、一般的な泡と異なり、イオン類がバブル表面に凝集することにより、気泡周囲に無機質の殻を形成するsalting out 現象が起こり、気体の散逸が抑えられ安定化し、数ヶ月に亘り、気体がナノバブルとして存在することが可能である。医療の分野では、酸素ナノバブル水の共存下でラットの大動脈血管内皮細胞を培養すると、炎症状態が回避され、マクロファージの内皮細胞への接着が抑制され、結果として動脈硬化病変形成を抑制する効果が認められたとの報告がなされており、さらに、臓器移植の分野では、ドナーからの臓器の保存液としての利用が検討されている。
 一方、オゾンナノバブル水とは、オゾンを含有しており、塩素系の殺菌剤と比較して10-30倍の殺菌効果があり、バイオフィルムを分解する作用や優れた浸透性を保有し、細菌やウイルスなどの微生物に対して死滅させるか増殖抑制効果があるとされている。安全性に関しては、塩素系殺菌剤のようにトリハロメタンのような有害な二次生成物を作る危険性も少なく、オゾンは分解して酸素に変わるものなので、安全性に優れている。さらに、オゾンはウィルスやバクテリアを遺伝子レベルで破壊するため、抗生物質のように耐性菌を発生させる危険性も皆無である。

スライド1.jpg