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「脊髄小脳変性症の原因を発見」
― 神経難病の遺伝子診断、治療法開発への道を開く ―


 東京医科歯科大学大学院・脳神経病態学分野(神経内科)の水澤英洋教授と石川欽也講師の研究グループは、大阪大学、慶應義塾大学、東京大学、名古屋大学などのグループとの共同研究で、50歳ころから歩くときにふらつきはじめ、呂律が回らなくなり、徐々に立てなくなるという大変不思議な難病である「脊髄小脳変性症」の1つの原因が、脳で働く遺伝子に正常では存在しない塩基配列が他から入り込んだ「挿入」変異によって起きることをつきとめました。この研究は文部科学省科学研究費補助金、21世紀COEプログラムならびに厚生労働科学研究費ヒトゲノム・再生医療等研究事業、厚生労働科学特定疾患対策研究事業運動失調症調査研究班の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学雑誌The American Journal of Human Genetics(米国人類遺伝学会雑誌)に、2009年10月30日付オンライン版で発表されました。       
石川 欽也 講師
医学部附属病院 神経内科
ポイント
  • 長らく謎であった第16番染色体長腕に連鎖する脊髄小脳変性症の原因が、5塩基繰り返し配列の挿入であることをつきとめました。
  • 我が国の原因が不明であった常染色体優性遺伝型脊髄小脳変性症の遺伝子診断が可能となるとともに、正確な病態の解明と治療法開発への道が開かれました。
  • 他の神経筋疾患の病態解明と新規治療法開発への応用が期待されます。
研究成果の概要と意義

 脊髄小脳変性症は現在治療法がない神経難病の一つで、我が国には2万人以上の患者さんがいると言われています。小脳とそれに関連する脳の機能が障害されるため、中年期ころから徐々に階段が降りられない、まっすぐ歩けない、ろれつが回らない、などの症状が出現し、数年で進行して歩けなくなることが多い疾患です。脊髄小脳変性症には遺伝性のものと非遺伝性(孤発性)のものがあります。
 我々は遺伝性のうち、遺伝子異常が親から子、孫へと遺伝する「常染色体優性遺伝型」の脊髄小脳変性症のうち、原因が不明であったタイプの大部分を占めると言われる、「第16番染色体長腕連鎖型脊髄小脳変性症」の原因を今回同定しました。我々はこの疾患の原因が、第16番染色体上の大きな領域のどこかに存在することを突き止めていましたが、今回その領域について、完全塩基解読とサザンハイブリダイゼーション法という遺伝子探索を行い、 (TGGAA)n「チミン・グアニン・グアニン・アデニン・アデニン」という5塩基の繰り返し配列などが2500〜3800塩基対に渡って「挿入」されているという、人類史上全く新しい遺伝子変異を見出しました。この挿入配列はTK2(thymidine kinase 2)およびBEAN(brain expressed, associated with Nedd4)という2つの遺伝子が共有するイントロンに存在し、脳では蛋白の設計図の元になるRNAとして「転写」され、さらに患者の小脳の神経細胞の核内ではこのRNAが特異的に固まって(凝集して)いました。そして、一般にRNAを蛋白に翻訳する過程で必要な「スプライシング」に重要な因子がこの(TGGAA)nに吸着する可能性を見出しました。我々はこの疾患を改めて脊髄小脳失調症31型(SCA31)と命名しました。今回の発見で、我が国の原因不明の、特に常染色体優性遺伝型の脊髄小脳変性症患者の遺伝子診断につながると期待しており、さらに今後有効な根本的治療法開発に向かうことが期待されます。また、類似した病態が絡んだ脊髄小脳変性症やある種の筋ジストロフィーといった神経筋疾患の病態の解明と治療法、予防法解明に関わると期待しています。

問い合わせ先

東京医科歯科大学 医学部附属病院 神経内科 講師
石川 欽也(イシカワ キンヤ)
TEL 03-5803-5234
e-mail: ikyoku.nuro@tmd.ac.jp

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 脳神経病態学分野 教授
水澤 英洋(ミズサワ ヒデヒロ)
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