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「肥大型心筋症の新たな原因遺伝子を発見」
― 心臓肥大の新たなメカニズムの解明で治療法の開発に道 ―


 東京医科歯科大学・難治疾患研究所・分子病態分野の木村彰方(きむら あきのり)教授、有村卓朗(ありむら たくろう)助教らのグループは、高知大学医学部、国立西札幌病院、久留米大学医療センター、メイヨークリニック、ベイラー医科大学等との国内・国際共同研究によって、心臓肥大、突然死、心不全を起こす肥大型心筋症の新たな原因遺伝子を発見しました。心臓の細胞において細胞質内と核内を行き来するCARPタンパクの局在異常が肥大型心筋症を引き起こすメカニズムを明らかにしたことから、原因不明の難治疾患である肥大型心筋症の診断や治療法の開発に新たな道をひらくものです。この研究は文部科学省科学研究費補助金や医薬基盤研究所受託研究費などの複数の研究助成金によって実施されたものです。研究成果は、アメリカ心臓病学会誌(Journal of American College Cardiology)2009年7月21日号(Vol.54 No.3)に発表されました。  
木村 彰方 教授
本学難治疾患研究所難治病態研究部門分子病態分野
有村 卓朗 助教
本学難治疾患研究所難治病態研究部門分子病態分野
 
ポイント
  • ANKRD1はCARP(cardiac ankyrin repeat protein)タンパクの遺伝子です。CARPは心筋細胞内で細胞骨格であるタイチンと結合していますが、心不全などの心筋細胞にストレスがかかった状態では核に移動して、いくつかの遺伝子の発現を制御します。
  • 原因不明の難治疾患である肥大型心筋症の患者さんにANKRD1変異を発見し、変異があるとCARPタンパクは細胞骨格であるタイチンタンパクN2-A領域との結合性が強くなり、また変異CARPタンパクは心臓細胞内の分布が異常になることを証明しました。
  • 別の肥大型心筋症患者さんにタイチンN2-A変異を発見し、変異があるとCARPタンパクとの結合性が強くなることを証明しました。
  • CARP遺伝子検査による肥大型心筋症の診断法、CARPタンパク結合性の変化に着目した治療法の開発が可能になると考えられます。
研究の背景

 肥大型心筋症は高血圧などの明らかな誘因がなく心室筋の肥大を呈し、突然死、胸痛、心不全の原因となる疾患です。肥大型心筋症の患者さんの多くに家族歴があることから、その病因は遺伝子変異であると考えられていました。このため世界的に原因遺伝子の探索が行われ、これまでに心臓の筋肉収縮を司る構造タンパク、すなわちサルコメアを構成する要素(例えば、ミオシン重鎖やトロポニンIなど)の遺伝子異常、もしくはZ帯を構成する要素(例えば、テレトニンなど)の遺伝子異常が原因となることが判明しています。つまり、肥大型心筋症の原因遺伝子は約20種発見されており、そのいずれに異常が生じても肥大型心筋症になります。これらの原因遺伝子のうち、難治疾患研究所分子病態分野による世界に先駆けた発見は、1997年のトロポニンI変異(Nature Genetics)、1999年のタイチン変異(BBRC)、2004年のテレトニン変異(JACC)、2007年のオブスキュリン変異(BBRC)などがありますが、これらのサルコメア構成要素やZ帯構成要素の異常が引き起こす機能変化の検討から、肥大型心筋症の病因変異が心筋収縮のカルシウム感受性の亢進もしくはストレッチ反応の亢進をもたらすことが明らかになってきました。しかしながら、このような種々の原因遺伝子を調べても異常が発見されるのは約半数に過ぎず、これら以外にも原因遺伝子があると考えられていました。

研究成果の概要

 難治疾患研究所分子病態分野では、高知大学医学部、国立札幌西病院、久留米大学医療センターなどの国内臨床施設および米国Mayo Clinic循環器科、Bayler医科大学小児循環器科などとの国際共同研究によって、これまでに知られている原因遺伝子に変異が見つからない患者さんの集団を対象として心筋細胞での遺伝子発現の制御に関わるCARP遺伝子の変異を探索しました。その結果、3名の患者さんに3種の変異を見出しました。CARPはタイチンのN2-A領域に結合することが知られているため、N2-A領域についても変異を検索したところ、2名の患者さんに2種の変異を発見しました。これらの変異はいずれもが、CARPとタイチンN2-Aとの結合性を増強するものでした。CARPは胎児期の未熟な心筋細胞や、心不全時などの伸展された心筋細胞で発現が亢進する転写関連因子ですので、心筋細胞の成熟分化や心不全状態の心筋細胞の機能に重要な役割を果たしていると考えられます。そこで、正常または変異CARPをラットの心筋細胞に遺伝子導入してその分布を検討したところ、成熟心筋細胞では正常CARPは核から細胞質、ことにZ帯やI帯に移動するのに対して、変異CARPは核膜周辺に貯留していました。これらのことから、細胞質と核を行き来するタンパク(シャトリングタンパク)であるCARPの細胞内局在異常が肥大型心筋症の原因となると結論しました。肥大型心筋症はこれまでサルコメアやZ帯などの心筋細胞の構造タンパク異常によるとされていましたが、シャトリングタンパク異常でも同様の病態が生じることを示した発見であり、CARPタンパクの結合性に着目した新たな治療法の開発にも繋がると考えられます。

関連事項

 これとは別に、Baylor大学小児循環器科他との国際共同研究によって、拡張型心筋症患者さんの解析から、肥大型心筋症患者に見出されたものとはまったく異なるCARP変異を3種類発見しました。拡張型心筋症は原因不明の心拡大と重症心不全を来たし、その20−35%は遺伝性であると考えられますが、病因変異が見出される患者さんは家族性拡張型心筋症に限っても約20%に過ぎませんので、肥大型心筋症よりもさらに原因遺伝子が多彩であると言えます。発見した拡張型心筋症に関連するCARP変異は、肥大型心筋症の場合とは異なり、いずれもが細胞内での分布異常は示しませんでしたが、タリンなどの細胞質タンパクとの結合性が減弱していました。また、変異CARPは心筋細胞を伸展した際の遺伝子発現パターンを変化させました。これらのことから、CARP変異は、それぞれ異なった機能異常によって、肥大型心筋症と拡張型心筋症という全く異なる2つの原因不明の心筋疾患の病因となることが明らかとなりました。(JACC Vol 54 No 3に同時発表、筆頭著者Mousumi Moulik, 責任著者Jeffrey A. Towbin)

問い合わせ先

東京医科歯科大学 難治疾患研究所難治病態研究部門分子病態分野 教授
木村 彰方 (きむら あきのり)
TEL 03-5803-4905
e-mail: akitis@mri.tmd.ac.jp

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