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「脳内塩素イオンの新しい役割を発見」


 東京医科歯科大学 脳統合機能研究センター 准教授 高森茂雄(たかもり・しげお)と同研究グループのステファン・シェンクは、脳内の興奮性神経伝達において塩素イオンが果たす重要な役割を発見しました。これまで、塩素イオンが脳内の抑制性神経伝達に果たす役割は良く知られていましたが、興奮性神経伝達における関与は全くわかっていませんでした。
 今回、研究グループは、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の輸送を行うVGLUTが働くためには、細胞外の塩素イオン濃度が高く保たれている必要があることを見出しました。グルタミン酸神経伝達の破綻は、アルツハイマー病や統合失調症等、様々な脳神経疾患を引き起こすと言われています。本研究成果は、脳内塩素イオンを操作することにより、脳内グルタミン酸神経伝達の効率を制御できることを示唆しており、神経疾患治療戦略に向けての新たな展開が期待されます。
 本研究成果は、Nature Neuroscience誌の2009年1月25日付(英国)オンライン版で発表されました。
      
高森 茂雄 准教授
本学脳統合機能研究センター
ポイント
  • 脳内興奮性神経伝達において塩素イオンが果たす重要な役割を発見
  • 神経伝達物質であるグルタミン酸のシナプス小胞への取込の仕組みを解明
  • 神経疾患治療戦略に向けての新たな展開
研究の背景

 物を見たり、音を聞いたり、物事を記憶するといった我々の脳の活動を支えているのは、神経細胞接合部で行われるシナプス伝達です。脳内のシナプス伝達は、主としてグルタミン酸によって行われる興奮性神経伝達と、主にGABA(ガンマアミノ酪酸)によって行われる抑制性神経伝達に大別されます。従来から、抑制性神経伝達においては、脳内塩素イオンが重要な役割を果たすことが知られていましたが、塩素イオンが興奮性神経伝達に果たす役割は全くわかっていませんでした。

研究成果の概要と意義

 神経細胞が神経伝達物質を放出するためには、伝達物質がシナプス小胞と呼ばれる分泌小胞内に取込まれて濃縮される必要があります。哺乳類の脳内で最も多くの神経細胞が用いている興奮性神経伝達物質はグルタミン酸ですが、研究グループは、これまでにVGLUT(小胞型グルタミン酸トランスポーター)というタンパク質がその取込を行っていることを突き止めました。
 今回の研究では、VGLUTを人工的に脂質膜に埋め込む実験系を開発し、小胞内に高濃度の塩素イオンがないとVGLUTによるグルタミン酸輸送がうまくいかないことを見出しました。神経細胞で新しく形成されたシナプス小胞の内側は、塩素イオンを多く含んだ細胞外液で満たされています。
 したがって、今回の研究成果は、細胞外の塩素イオンが、正常な興奮性神経伝達を支えるために非常に重要であることを示しています。痴呆症、アルツハイマー病、ハンチントン症、統合失調症など多くの脳疾患の発症には、グルタミン酸神経伝達の破綻が原因の一つとして挙げられています。
 今回の発見をもとに、脳内の塩素イオン濃度を制御する方法が新たに開発されれば、グルタミン酸神経伝達の効率を操作することが可能になり、将来的には脳神経疾患の治療にも役立つことが期待できます。

問い合わせ先

東京医科歯科大学 脳統合機能研究センター 准教授
高森 茂雄 (たかもり しげお)
TEL 03-5803-4716
e-mail: taknuro@tmd.ac.jp
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