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「ヒト14番染色体のインプリンティング制御センターの異常によって
引き起こされる重篤な疾患とその原因遺伝子の同定」


 東京医科歯科大学難治疾患研究所エピジェネティクス分野の石野史敏教授らと国立成育医療センター研究所小児思春期発育研究部の緒方勤部長らの研究グループは、ヒト14番染色体の片親性重複が引き起こす疾患の発症機序を明らかにしました。具体的には、インプリンティング制御センターとして機能するIG-DMR(intergenic differentially methylated region)を同定するとともに、レトロトランスポゾン由来のインプリント遺伝子PEG11/RTL1の過剰が父親性ダイソミーの症状を引き起こす主因であること、またPEG11/RTL1とDLK1 の欠失が母親性ダイソミーの症状の主因であることを発見しました。本研究成果は米国科学誌Nature Genetics誌に1月6日付けオンライン版にて発表されました。



(中央)石野 史敏 教授 (本学難治疾患研究所 エピジェネティクス分野)
(左)緒方 勤 部長 (国立成育医療センター研究所 小児思春期発育研究部
(右)石野 知子 教授 (東海大学 健康科学部)

ポイント
  • ヒトの個体発生では、14番染色体が2本とも父親から子供に伝わった場合(父親性ダイソミー)*1、胎児期における羊水過多やベル型小胸郭、腹壁異常等の重篤な疾患が引き起こされます。一方、この染色体が2本とも母親から伝わった場合(母親性ダイソミー)には、胎児期・生後における成長障害や思春期早発傾向、筋緊張低下等の症状が現れます。今回、インプリンティングの制御異常*2により、これと同様の症状が生じることを発見しました。
  • 発見したインプリンティングの制御異常は2種類あります。一つは14番染色体のインプリンティング制御センター(intergenic differentially methylated region:IG-DMR)の欠失例で、もう一つはこのIG-DMRにおけるDNAメチル化異常例です。どちらの例でも、14番染色体が両親から伝わったにもかかわらず、父親性ダイソミーと同じ症状を呈していました。
  • この発見により、ヒト14番染色体の父親性ダイソミーと母親性ダイソミーの症状がどの遺伝子のどのような異常によって引き起こされるのか、その発症機序を世界ではじめて明らかにすることができました。

    *1 ヒトの場合、父親と母親からそれぞれ22本の常染色体と1本の性染色体のセットが子供に伝達されます。しかし、稀にその中の一対の染色体が共に片親から受け継がれることがあり、これを片親性ダイソミーと呼んでいます。 *2片親性ダイソミーが異常を示すのは、父親から伝わったときにのみ発現する父親性発現遺伝子(PEG)や母親から伝わったときにのみ発現する母親性発現遺伝子(MEG)というインプリント遺伝子が存在するためです。父親性ダイソミーではPEGが2倍量発現し、MEGの発現はなくなります。逆に母親性ダイソミーではMEGが2倍発現し、PEGの発現はなくなります。同じインプリンティング領域におけるPEGとMEGの発現はインプリンティング制御センターであるDMR(differentially methylated region)のメチル化の有無で制御されています。

研究の背景

 ヒト14番染色体には父親性発現遺伝子DLK1、PEG11/RTL1や母親性発現遺伝子GTL2, MEG8, RTL1as (RTL1 antisense)など多数のインプリント遺伝子群が存在します。そして、14番染色体父親性ダイソミー(upd(14)pat)は羊水過多、特徴的顔貌、ベル型小胸郭、腹壁異常を示し、母親性ダイソミー(upd(14)mat)は胎児期、生後の成長障害、思春期早発傾向、筋緊張低下を示します。しかし14番染色体の片親性重複がどうしてこのような異常を引き起こすのか、その発症メカニズムは不明でした。


研究成果の概要

 ゲノム多型の解析を行うことにより、14番染色体の父親性ダイソミーの典型的症状であるベル型小胸郭を示す症例の中に、実際には両親由来の14番染色体を持つにもかかわらず発症している症例が確認されました。これらのupd(14)pat症状陽性症例8例と、その家族解析で判明したupd(14)mat症状陽性症例3例の解析を行った結果、(1) ヒト14番染色体に存在するインプリント遺伝子群がintergenic differentially methylated region (IG-DMR) により調節されていること、(2) upd(14)patの表現型が主に父親性発現遺伝子PEG11/RTL1の過剰発現に起因すること、(3) upd(14)matの表現型が主に父親性発現遺伝子PEG11/RTL1とDLK1 の発現消失により生じること、(4) 母親性発現遺伝子RTL1 antisenseがPEG11/RTL1の発現抑制因子として作用すること、(5) 胎盤におけるインプリンティング制御が個体と異なること、を世界で初めて明らかにしました。これにより、14番染色体の父親性ダイソミーと母親性ダイソミーの発症機序が明らかになりました。


発見の意義

 今回の成果は、インプリンティングの異常により生じる疾患の発症機序解明に大きく貢献するものです。特に、IG-DMRがインプリンティングの制御センターとして機能すること、レトロトランスポゾン由来のインプリント遺伝子PEG11/RTL1の過剰が父親性ダイソミー症状を発症する主な原因であり、PEG11/RTL1とDLK1欠失が母親性ダイソミー症状の発症の主な原因であることを明確にしたことは、先天性奇形症候群や成長障害がどのように生じるかという発症機序の解明に大きな波及効果を及ぼすと期待されます。特に、母親性ダイソミーの表現型の主な症状が成長障害であることから、原因不明の成長障害の解析において新しい視点を開くものです。また、PEG11/RTL1に対して逆向きに読まれるアンチセンス遺伝子のRTL1asがmicroRNAとして生理的な抑制因子として作用することから、このmicroRNAを用いた14番染色体父親性ダイソミーの治療法を開発できる可能性も示唆されました。


問い合わせ先

東京医科歯科大学難治疾患研究所
エピジェネティクス分野分野
石野 史敏 (いしの ふみとし)
TEL 03-5803-4862 FAX 03-5803-4863
e-mail: fishino.epign@mri.tmd.ac.jp
研究室ホームページ http://www.tmd.ac.jp/mri/epgn/

国立成育医療センター研究所
小児思春期発育研究部
緒方 勤 (おがた つとむ)
TEL 03-5494-7025 FAX 03-5494-7026
e-mail: tomogata@nch.go.jp


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