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「遺伝性高血圧症の分子病態を解明」


 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の内田信一准教授らの研究グループは、大学院生楊松昇を中心として、東北大学の根東義明、森本哲司、東京女子医科大学の内田啓子、大野真由子、台湾三軍病院の林石化、東京医科歯科大学難治疾患研究所分子細胞生物学分野の森口徹生、澁谷浩司と共同で、高血圧症をひきおこす難病である偽性低アルドステロン症II型(PHAII)の分子病態について、遺伝子改変モデルマウスを作成し検討しました。その結果、遺伝子改変モデルマウスでは腎臓においてOSR1/SPAKと呼ばれるキナーゼ(リン酸化酵素)自身のリン酸化が亢進し、その結果としてさらにナトリウムクロライド共輸送体(NCC)が強くリン酸化され活性化されている事、すなわちこのWNK-OSR1/SPAK-NCCリン酸化刺激伝達系の亢進が腎臓での食塩排泄を阻害し高血圧症発症の原因となっている事が明らかになりました。このことにより、今まで知られていたレニンーアンギオテンシン系とは異なる新たな血圧調整系(WNK-OSR1/SPAK-NCCリン酸化刺激伝達系)の存在が明らかにされ、またこの知見を基盤とする新たな降圧薬開発の可能性が示されました。この成果は、米国科学誌Cell Metabolismの5月号に発表されました。     
内田 信一 准教授
本学大学院医歯学総合研究科
腎臓内科学分野
ポイント
  • 遺伝性の高血圧症であり難病にも指定されている偽性低アルドステロン症II型の病態  の分子機構としてWNK-OSR1/SPAK-NCCリン酸化刺激伝達系の活性化を明らかにした。
  • この分子機構は新たな血圧調節の刺激伝達系であり、本研究で得られた知見は食塩感受性高血圧症の病態解明や新たな降圧薬の開発に結びつくものと期待される。

研究の背景

 高血圧症は、先進諸国においてはその人口の20−30%が罹患していると言われ、そのまま放置すれば主要臓器の障害を招くため積極的な治療を要する。しかしながらその原因は、多因子の遺伝的・環境的因子が作用して発症すると言われるものの、いまだに明らかにされていない。単一遺伝子異常で高血圧症を来す病気を研究する事は、単にひとつの病気の原因を探るのみならず、このようなより一般的な高血圧症の発症のメカニズムを解明する上での手がかりとなり、新たな治療戦略の構築にも役立つ。
 腎臓は体液調節において主要な働きをする臓器である。日本人に多い食塩感受性高血圧は、おそらく腎臓での食塩の排出機構になんらかの異常があり発症すると考えられている。偽性低アルドステロン症II型(PHAII)は、臨床的な研究から腎臓での食塩排泄に異常があり高血圧になると考えられており、このような食塩感受性高血圧症の一つのモデルになると思われるが、その原因は不明であった。2001年にその責任遺伝子がWNKというキナーゼ(リン酸化酵素)である事が判明しても、そのキナーゼ自身の生理的役割が不明であったため、なぜキナーゼの異常と高血圧が結びつくのかが不明であった。しかしながら、未知の機能を持つキナーゼが高血圧と関連しているという事は未知の血圧調節系が存在することを示唆しており、PHAIIにおける高血圧発症の機序の解明は新たな降圧薬開発への道を開く事になると期待された。


研究成果の概要

 これまでのWNKキナーゼの変異と高血圧発症の関係についての研究は、培養細胞やアフリカツメガエルの卵母細胞を使用して検討されてきた。しかしながら種々の相反するデータが示され、一致した結論が得られていなかった。腎臓は高度に分化した臓器であることから、真の病態解明には生体内での解析を行わなければならないと考え、我々はヒトで発見されたWNK4キナーゼの変異に相当する変異を導入した遺伝子改変マウスを作成し、それを用いて病態を解析した。
 その結果、腎臓の尿細管と呼ばれる部分で塩分(NaCl)を体にくみ上げる働きをする分子Na-Cl共輸送体(NCC)が、変異マウスでは高度にリン酸化され機能が亢進している事が明らかになった。さらにこのNCCをリン酸化するOSR1/SPAKとよばれるキナーゼもリン酸化され活性化されている事が示された。その他の知見と総合して、偽性低アルドステロン症II型(PHAII)は、変異WNK4分子がその下流のOSR1/SPAK-NCCリン酸化刺激伝達系を過剰に活性化する事が、その病態の本質である事が明らかになった。


発見の意義

 偽性低アルドステロン症II型という難病の分子機構を初めて明らかにする事ができた。またWNK-OSR1/SPAK-NCCという新たな血圧調節系が腎臓に存在し機能している事を明らかにする事ができた。日本人に多いと言われる食塩感受性高血圧症の病態解明や、この系を調節する新たな降圧薬の開発につながると期待できる。


問い合わせ先

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
腎臓内科学分野
内田 信一 (うちだ しんいち)
TEL 03-5803-5214 FAX 03-5803-5215
e-mail: suchida.kid@tmd.ac.jp
研究室ホームページ http://www.tmd.ac.jp/grad/kid/kid-J


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