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「DNA傷害による細胞死誘導の仕組みを解明」
−新たながん治療開発の可能性に光−


 東京医科歯科大学難治疾患研究所分子遺伝分野の吉田清嗣助教授らの研究グループは、遺伝情報を担う核内DNAの二本鎖切断により誘導される細胞死(アポトーシス)に関わるシグナル伝達機構を突き止めました。このことにより、がんをはじめとする異常な細胞を、効率よくアポトーシスを誘導して選択的に取り除く新たな治療法開発の可能性が示されました。本研究成果は米国科学誌Molecular Cellの3月9日号に発表されました。         
吉田 清嗣 准教授
本学難治疾患研究所
分子遺伝分野
ポイント
  • 放射線や抗がん剤などの暴露によるDNAの二本鎖切断において、プログラムされた細胞死の誘導に関わるDYRK2という酵素を同定した。
  • この分子機構は新たな血圧調節の刺激伝達系であり、本研究で得られた知見は食塩感受性高血圧症の病態解明や新たな降圧薬の開発に結びつくものと期待される。
  • DYRK2の酵素活性を制御することで、がんをはじめとするアポトーシスに関わる疾患に対する新たな治療法の開発の可能性が期待される。

研究の背景

 アポトーシスは、プログラムされた細胞の自殺機構であり、個体の発生や生体の恒常性の維持に必須の生理現象です。例えばさまざまな臓器や手足の指、口蓋上皮などの形成時に不必要な細胞が除去される形態形成や、血球数の維持や肝臓などの臓器の大きさを一定に保つといったホメオスタシス(恒常性)の維持、さらにウイルス感染細胞やがん細胞に代表される有害細胞の除去など、アポトーシスは多岐にわたる機能を担っています。従って、アポトーシス機構の破綻はがんや梗塞、自己免疫疾患、あるいは神経変性疾患など多くの疾患の発症に関わっているため、この機構の解明に関する研究は疾患診断並びに治療の面からも大きく注目されています。
 放射線や抗がん剤などにより細胞核のDNAが傷つくと、障害を受けた細胞は、DNAの損傷を修復し生存するか、アポトーシスにより細胞死を誘導するかのいずれかを選択します。この選択はDNA傷害の強さや大きさによって決定されていると考えられており、この決定を担う中心的な分子としてがん抑制遺伝子であるp53が知られています。p53は主にリン酸化によって活性化されますが、アポトーシス誘導に必須と考えられているセリン46番のリン酸化に関わるリン酸化酵素(キナーゼ)は従来良く分かっておらず、この酵素の探索が世界的な競争となっていました。


研究成果の概要

 今回本研究グループは、DNAの二本鎖切断により惹起されるp53のリン酸化とアポトーシス誘導を担う酵素としてDYRK2というキナーゼを新たに同定しました。DYRK2は強いDNA傷害が起きると細胞質から細胞核に移動し、活性化されます。そして細胞核でp53のセリン46番をリン酸化し、p53が活性化され、アポトーシスを誘導する分子の発現が高まり、アポトーシスによる細胞死が起こるという機構を発見しました。


発見の意義

 放射線や抗がん剤によって惹起されるDNAの二本鎖切断は、がん細胞をアポトーシスに導くためがん治療に広く用いられていますが、このような治療では生き残ったがん細胞はもとより、正常細胞にも遺伝子の変異が蓄積する危険性を孕んでいます。今回の発見を応用すれば、例えばDYRK2の機能を適切に調節することにより、がんをはじめとする異常な細胞を効率よくアポトーシスを誘導して選択的に取り除くといった、新たな治療法開発につながる可能性が示されました。


問い合わせ先

東京医科歯科大学難治疾患研究所
分子遺伝分野
吉田 清嗣 (よしだ きよつぐ)
TEL 03-5803-5826 FAX 03-5803-0242
e-mail: yos.mgen@mri.tmd.ac.jp
研究室ホームページ http://www.tmd.ac.jp/mri/mgen/index_j


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