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2025年度 採択課題の研究成果
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研究代表者:九州大学 生体防御医学研究所 准教授 伊藤 美菜子
難治研受入教員:精神行動医科学 教授 高橋 英彦
研究課題:統合失調症のストレス免疫細胞病態の解明
研究成果:本共同研究では、統合失調症高リスク遺伝子改変マウスにおける免疫細胞病態の解明を目的として、Setd1a、Cul1、Xpo7変異マウスを用いた解析基盤を構築した。末梢血、脳、髄膜を対象にフローサイトメトリーおよびscRNA-seq解析を行うことで、各遺伝子変異に伴う免疫細胞組成や活性化状態の変化を評価した。さらに、社会ストレスや孤立ストレスを負荷した条件で解析を進め、遺伝的脆弱性と環境要因が重なることで顕在化するストレス応答性の免疫細胞変化を検討した。本研究により、統合失調症関連遺伝子変異に共通する免疫細胞病態を抽出し、認知機能障害や社会性異常に関与し得る候補細胞群および分子経路を見いだすための基盤が形成された。今後、同定した候補細胞や発現遺伝子を機能的に制御することで、精神疾患における免疫学的治療戦略の確立につながることが期待される。
研究代表者:秋田大学 大学院医学研究科 教授 海老原 敬
難治研受入教員:病態生理化学 教授 佐々木 雄彦
研究課題:自然リンパ球の低栄養ストレス耐性機序の解明
研究成果:肝臓の1型自然リンパ球(group 1 ILC)は、通常は主にNK細胞から構成されるが、低栄養状態ではNK細胞数が著しく減少し、ILC1が全体の80~90%を占めるようになる。本研究では、肝臓ILC1がmTORC1依存的に休止状態へ移行することで生存し、NK細胞よりも高いグルコース取り込み能と酸化的リン酸化活性を維持することを明らかにした。さらに、低栄養下ではILC1欠損マウスはマウスサイトメガロウイルス(MCMV)感染に対して高い感受性を示した一方、十分な栄養状態ではその差は認められなかった。これらの結果は、肝臓ILC1が低栄養時のウイルス感染防御において、NK細胞では代替できない重要な役割を担うことを示している(Tatematsu et al. Cell Reports 2025)。
成果論文:・Tatematsu M, Takasuga S, Fuchimukai A, Seki S, Cui G, Asahi T, Hirao A, Sexl V, Nabekura T, Shibuya A, Ikuta K, Ebihara T. Quiescent ILC1 cells confer protection against MCMV infection during undernutrition. Cell Rep. 2025 44(12):116644. doi: 10.1016/j.celrep.2025.116644.https://doi.org/10.1016/j.celrep.2025.116644
・Tatematsu M, Takasuga S, Fuchimukai A, Kimura Y, Ishii S, Taniuchi I, Ishiwata K, Ikuta K, Sexl V, Eberl G, Sawa S, Kuba K, Ebihara T. CNOT3 supports ILC2 differentiation and function by destabilizing Tbx21 and Rorc transcripts. J Exp Med. 2026. 223(7):e20250895. doi: 10.1084/jem.20250895.https://doi.org/10.1084/jem.20250895 研究代表者:神戸大学 大学院医学研究科 教授 古屋敷 智之
難治研受入教員:神経炎症修復学 教授 七田 崇
研究課題:慢性ストレス下のミクログリアにおける高次クロマチン構造解析
研究成果:本研究では、マウスの慢性社会ストレスに伴うミクログリアの転写応答とクロマチン制御の機 能的意義を明らかにすることを目的として解析を進めた。令和7年度は、前年度に同定した急性・慢性ストレス後に誘導される転写制御因子を操作し、神経細胞の応答性および情動・ 認知行動への影響を検討した。併せて、慢性ストレス後の内側前頭前皮質を対象にシングル核トランスクリプトーム解析を行い、神経細胞を含む非ミクログリア細胞集団の変化を解析した。さらに、急性・慢性ストレス後の脳切片を用いた空間トランスクリプトーム解析により、遺伝子発現変化の局在性を評価した。これらの多層的解析により、ストレス応答に伴うミクログリアの転写・クロマチン制御が周辺細胞や神経回路に及ぼす影響を捉える手がかりが得られた。今後は、高次クロマチン構造変化との対応関係を検証し、慢性ストレスによる神経回路再編の分子基盤の解明につなげたい。
成果論文:・Yoshida T, Emoto T, Yamamoto H, Takaya T, Sawada T, Murphy SL, Shoda M, Nakamura K, Taniguchi M, Sasaki N, Fukuishi Y, Toba T, Ohkawa T, Furuyashiki T, Kawai H, Hirata Kl, Otake H, Yamashita T. A Single-Cell Analysis Reveals Macrophage Heterogeneity Driving Plaque Vulnerability in Coronary and Carotid A1ieries. J Atheroscler Thromb Online ahead of print (2026). doi: 10.5551/jat.65991.https://doi.org/10.5551/jat.65991
・Duan C, Yu Z, Li X, Sakai M, Maejima Y, Shimomura K, Furuyashiki T, Kikuchi S, Kobayashi N, Sasaki K, Matsuki T, Komatsu H, Hino M, Kunii Y, Kasahara T, lshikuro M, Murakami K, Orui M, Abe T, Nagami F, Fuse N, Ogishima S, Kinoshita K, Yamatomo M, Nakaya N, Hozawa A, Obara T, Kuriyama S, Tomita H. Sex Differences in the Risk of Autistic-Related Traits in Toddlers Born to Mothers with Perinatal Depression: Evidence from Human Coh01i and Mouse Study. Mol Psychiatry Online ahead of print (2026). doi: 10.1038/s41380-026-03456-z.https://doi.org/10.1038/s41380-026-03456-z ・Sotani N, Kusuhara S, Nishisho R, Kurio H, Shima H, Haruwaka K, Mori Y, Kishi M, Furuyashiki T, Kobayashi K, Wake H, Takumi T, Nakamura M, Tachibana Y. Transpupillary in vivo two-photon imaging reveals enhanced surveillance of retinal microglia in diabetic mice. Proc Natl Acad Sci USA 122, e2426241122 (2025).https://doi.org/10.1073/pnas.2426241122 ・Imai Y, Kinugasa Y, Nukiwa R, Llamas Covarrubias MA, Thwin KK, Yonezaki K, Shimizu T, Yamasaki S, Shintani Y, Hashimoto H, Suzuki Y, Fujino Y, Kubodera K, Kotani T, Furuyashiki T, Penninger J, Slutsky AS. Protective Role of Apelin in a Mouse Model of Post-Intensive Care Syndrome. Am J Respir Cell Mol Biol Online ahead of print (2025). doi: 10.1165/rcmb.2025-00280C.https://doi.org/10.1165/rcmb.2025-0028OC ・Ueno H, Iyanaga Y, Kunida K, Hara Y, Miura H, Nakai Y, Tanuma M, Hayashida M, Yokoyama R, Ohkubo J, Seiriki K, Hayata-Takano A, Ao T, Yamaguchi S, Kitaoka S, Furuyashiki T, Ago Y, Nakazawa T, Takuma K, Yoshimoto J, Hashimoto H, Kasai A. Recovery of centralities in medial prefrontal and sensory-related cortices associated with social behavior improvements in an autism mouse model. Scientific Reports 15, 22895 (2025). doi: 10.1038/s41598-025-05996-w.https://doi.org/10.1038/s41598-025-05996-w 研究代表者:東京大学 大学院薬学系研究科 教授 富田 泰輔
難治研受入教員:病態生理化学 教授 佐々木 雄彦
研究課題:アルツハイマー病におけるミクログリア PIP3 シグナル制御因子の病的役割解明
研究成果:本研究では、アルツハイマー病(AD)におけるミクログリアPIP3シグナル制御因子の病的役割解明を目的に、INPP5D研究を発展させるとともに、佐々木グループで確立されたPik3cg 欠損マウスとADモデルマウスとの交配を開始した。ミクログリア特異的Inpp5dホモ欠損ADモデル(NLGF Inpp5dΔMG)を樹立し解析した結果、Aβ総蓄積量は変化しない一方、病態早期にAβ斑周囲へのミクログリア集簇が促進され、9ヶ月齢ではAβ斑の性状変化、神経突起変性の顕著な抑制、斑周囲リン酸化タウ蓄積の低下が認められた。また、ミクログリアの薬理学的除去で、神経保護にミクログリアが重要であることが示唆された。さらに、シングルセルRNA-seq解析ではInpp5d欠損で有意に変化するミクログリアサブクラスターを同定した。Pik3cg欠損ADモデルマウスは作出中で表現型解析が今後の課題であるが、並行した初代ミクログリア実験では、PI3Kγ経路の抑制によりタウ刺激への炎症応答の一部が選択的に変化することを見出した。
研究代表者:東北大学 医学系研究科 准教授 前川 素子
難治研受入教員:恒常性医学 教授 豊島 文子
研究課題:妊娠期低栄養ストレスが産子の精神疾患を誘導する分子基盤の解明
研究成果:本共同研究では、妊娠初期低栄養ストレスが産仔の精神疾患関連表現型を誘導する分子 基盤の解明を目的として研究を実施した。申請者らは妊娠初期母体低栄養モデルマウスを作製し、産仔における行動解析、脳組織解析、マルチオミクス解析を行った。その結果、雄の産仔においてプレパルス抑制低下、不安様行動、前頭前野における樹状突起スパイン密度低下など、統合失調症関連表現型を認めた。また、bulk RNA-seq、空間トランスクリプト ーム解析、DNAメチル化解析により、シナプス機能、タンパク質恒常性、ERK/Wntシグナル経路などに関連する分子変化を同定した。さらに、東京科学大学難治疾患研究所の豊島文子教授らとの共同研究により、母体肝臓および腸サンプルを用いた解析を進め、妊娠期低栄養による母体代謝変化と胎児神経発達異常との関連について検討を進めた。本研究成果はMolecular Psychiatry誌等に掲載された。
成果論文:・Wang H, Bundo M, Nakachi Y, Kanai A, Miyazaki H, Toyoshima F, Shima Y, Sakai M, Tomita H, Suzuki Y, Iwamoto K, Owada Y, Maekawa M. Maternal fasting during early gestation induces epigenetic alterations and schizophrenia-related phenotypes. Molecular Psychiatry. 2026. doi: 10.1038/s41380-026-03629-w. https://doi.org/10.1038/s41380-026-03629-w
・Kirikae H, Kimura K, Fu J, Sun Z, Wang H, Shibuya H, Kasahara Y, Miyazaki H, Yamamoto Y, Sakai M, Yu Z, Oehl S, Naganuma F, Yoshikawa T, Namba T, Osumi N, Tomita H, Owada Y, Maekawa M. Maternal granulocyte colony-stimulating factor alters synaptic maturation and social behaviors in offspring. Brain Behav Immun. 135:106534. 2026.https://doi.org/10.1016/j.bbi.2026.106534 研究代表者:九州大学 生体防御医学研究所 教授 増田 隆博
難治研受入教員:神経炎症修復学 教授 七田 崇
研究課題:脳機能を調節する脳常在性ミエロイド細胞がもつ特徴と機能の解析
研究成果:脳損傷後約2ヶ月で自然な脳機能回復が失われる原因は不明であったが、本研究により修復性ミクログリアの修復機能を終焉させる転写因子ZFP384を同定した。ZFP384はYY1との相互作用を遮断してクロマチンループを崩壊させ、修復関連遺伝子の転写を停止させる。申請者(増田)らは、ミクログリア特異的Hexb-CreERマウス、脳境界マクロファージ特異的Mrc1-CreERマウスを開発し、脳常在性ミエロイド細胞の機能解析を推進してきた。本研究では受入教員・七田の次世代シークエンス解析法を組み合わせ、脳虚血ストレスに対する修復応答を担うミエロイド細胞を解析し、ミクログリアや脳境界マクロファージにおけるZFP384の機能解析を実施した。結果としてミクログリア特異的にZFP384を欠損させると、脳梗塞後の機能回復を持続させられることを突き止めることができた(増田、七田ら、Nature 2026)。
成果論文:・Tsuyama J, Sakai S, Kurabayashi K, Nakamura A, Tanaka E, Hara Y, Kawakami I, Tsuda M, Masuda T, Prinz M, Kawaji H, Shichita T. Sustaining microglial reparative function enhances stroke recovery. Nature. (2026).https://doi.org/10.1038/s41586-026-10480-0
・Otani K, Koyama R, Tsuyama J, Sakai S, Hase K, Shichita T. Zoledronic acid attenuates ischemic brain injury by promoting ETS2 and MSR1 expression. Int Immunol. 37(7):393-402 (2025).https://doi.org/10.1093/intimm/dxaf010 研究代表者:東京大学 生産技術研究所 教授 池内 与志穂
難治研受入教員:人体模倣システム学 教授 高山 和雄
研究課題:腸脳相関を解析するための生体模倣システムの開発
研究成果:本共同研究では、ヒト人工多能性幹(iPS)細胞を用いて、腸管上皮細胞および腸管神経細胞を備えたヒト腸管モデルを臓器チップ技術により構築し、腸炎に伴う腸管神経障害の病態解明を目指した。まず、ヒトiPS細胞から、腸管上皮細胞マーカー遺伝子であるEPCAM、CDX2、VIL1、ならびに腸管神経細胞マーカー遺伝子であるTUBB3などを十分に発現するヒト腸管チップを開発した。また、本腸管チップに3種類の炎症性サイトカイン刺激を加えることで、IL-6やIL-8などの炎症関連サイトカインの産生誘導や上皮層構造の損傷が確認され、炎症性腸疾患に類似した病態を再現することに成功した。さらに本腸管チップとヒト脳オルガノイドとの連結培養系構築に向けた取り組みとして、ヒト脳オルガノイドの大学間移動時における適切な運搬条件や培養維持条件の検討を実施し、将来的な腸脳相関研究への応用可能性を検討した。
研究代表者:東京大学 定量生命科学研究所 准教授 岸 雄介
難治研受入教員:統合ストレス医科学 教授 内田 周作
研究課題:心理社会的ストレスによる行動変容の多様性と関連する脳内クロマチン状態の解析
研究成果:エピゲノムは、さまざまな環境変化を記憶し、遺伝子発現の制御を介して未来の細胞機能に影響を与える。そのため、エピゲノムの異常はさまざまな疾患の原因となる。脳において、うつ病や自閉症といった精神疾患のリスク遺伝子には、多くのエピゲノム関連遺伝子が見つかっている。しかし、それらエピゲノム関連分子の精神疾患病態に対する役割は不明である。本研究では、社会性行動において重要である内側前頭前皮質(mPFC)と前側視床室傍核(aPVT)の2つの脳領域において網羅的なH3K27me3の解析を行った。その結果、ストレス耐性・感受性マウス間でH3K27me3分布が変化する遺伝子座が脳領域ごとに異なることを見出した。さらに、神経細胞核のRNA-seqおよび公共RNA-seqデータとの統合解析により、一部候補遺伝子ではH3K27me3変化と発現変化の対応が認められた。一方で、H3K27me3変化を示す遺伝子座と発現変動遺伝子の重複は限定的であった。mPFCには複数の神経細胞サブ集団が存在し、遺伝子発現は単一のヒストン修飾のみで規定されるとは限らないことから、細胞集団特異的、あるいは複数のヒストン修飾が協働するエピゲノム制御機構の存在が示唆された。
研究代表者:玉川大学 脳科学研究所 教授 高岸 治人
難治研受入教員:ゲノム機能多様性 教授 高地 雄太
研究課題:ゲノムワイド関連解析による向社会行動を支える未知の遺伝子の特定
研究成果:2025年度は、一般成人110名分の唾液サンプルを採取し、DNA抽出を行った。そのうちDNA濃度が解析基準を満たした107名分について、lnfinium Asian Screening Array-24 Kit を用いたSNPアレイ解析を理研ジェネシスに委託し、ゲノムデータを取得した。得られたデータについては、インピュテーションを含む前処理を進め、2024年度に取得・解析済みのデータと統合することで、約250名規模のデータセットとして解析可能な状態となった。また、2025年度には高地研究室を複数回訪問し、ゲノムワイド関連解析に関する一連の手法を学び、解析手順の理解とデータ解析体制の整備を進めた。現在は、向社会行動および性格特性を対象として、遣伝的多型との関連解析を進めている。本年度の取り組みにより、共同研究の成果創出および今後の論文化に向けた重要な研究基盤が形成された。
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