トップインタビュー 山下仁大

山下仁大

生体材料工学研究所長
無機材料分野教授
女性研究者支援対策会議運営委員

先生の座右の銘を教えて下さい。

「万事塞翁が馬」です。長い人生の中で起こる日々の物事に一喜一憂するのでなく、人生で起こるすべてのことをチャンスと捉えています。

先生ご自身のWLBはどのようなご様子ですか?

いわゆる会社勤めに比べれば、研究職は朝何時から夕方何時まで、というのではありませんし、個人業に近いので、自由になる時間は比較的あるように思います。ですので、家庭と仕事を両立しやすい土壌はあるでしょうね。

私には2人の娘がいるのですが、妻がお産する際も病院に連れて行ったり、夜泣きのときにも妻を手伝いました。娘が発熱した際、看病しながら横で論文を書いたこともあります。また、娘をおんぶしているときに、研究のアイディアが浮かぶこともありました。このように、子供の世話をしているときに考えが浮かぶこともありましたから、研究者として、何かクリエイティブなことを発想するのに、必ずしも大学の机の前でなくてもよいように思います。

これまで、私は家族との時間はとって来ましたし、子育てにも協力してきました。仕事で家庭を犠牲にしたことはありませんので、WLBについても特に問題はなくやってきたように思います。

少子高齢化の時代ですが、この時代における女性研究者の役割について、先生のお考えをお聞かせ下さい。

物を作る工学系の世界は、今までは男性社会でしたが、これからは斬新な新しい価値観が必要ですから、女性が入ることで、違う価値観が入って来ます。そこに大いに期待しています。

私の部屋の、私以外の教員3名はすべて女性です。この3人の女性教員にはいずれ、教授になって欲しいと願っています。最近は、工学系の分野と、生物学との接点がどんどん多くなってきており、新しい学際的な領域として展開されてきています。ですので、この分野には、女性ならではの新しい価値観が不可欠ですし、女性が進出しやすくなって来ていると思います。だからこそ、自分の研究室には女性が多く集まっているのではないでしょうか。

2020年までに女性研究者比率を20%にするのにどんなことを実行していらっしゃいますか?

生体材料工学研究所では、公募の際、男性と女性の業績がほぼ同じであれば女性を優先して採用することにしています。

また、本学では、任期制の勤務形態を取っているために、任期終了に伴い、優秀な女性研究者が外部に出て行ってしまうケースはやむを得ません。ただし、特任教員の方で、タイミングと希望が合えば、本学内の常勤職に移行するというシステムを実行しています。

これはあくまでも個人的意見ですが、20%の数値目標の2020年は、これからわずか10年ですので、達成するには少し早いような気もします。数値目標を達成するには、場合によっては15年、20年くらいは必要なこともあるかもしれません。つまり、今の助教レベルの若手研究者が教授のポジションに就くまでには15〜20年くらいかかります。例えば現在30歳の若手研究者が、10年後に40歳になったときに、教授になるのにはまだ少し若いかもしれませんね。

あと10年、自然にまかせても何かがドラスティックに変わることはありません。社会が変わっていくには、法律が変わって行くことが不可欠だと思いますし、積極的に男性と女性の意識も変えていくことが必要です。

社会の最前線において、女性がもっと立って行ってほしいですし、これからは様々な分野で、女性比率が50%になるよう活躍してほしいですね。

女性研究者へのメッセージをいただけますか?

私は助教授時代に、アメリカに留学した際の上司が女性でした。ポーランドから亡命してこられて、大変な思いを経験されたという方だったのですが、そんな過去がありながらも、いつもとても前向きで、研究者としても素晴らしい業績を残しておられました。その女性の上司の姿が、今も自分にとって大きな参考になっています。

私が女性のみなさんに言いたいのは、物事に逐一、一喜一憂しないで、あくまでも「冷静に普通」でいること。そして常に自分を客観視して、自分の考えが正当だと思えば主張すればよいと思います。また研究者には競争が伴いますので、性別は関係なく、結局は本人の努力次第だと思います。

ただし、女性には妊娠・出産・育児が伴うので、その場合は分野全体でサポート体制を作ればよいでしょう。つまり、研究をしながらも、出産などのライフイベントを経験する場合は、一時的に研究を休んでも問題ないと思います。私も娘をおんぶしながら研究のアイディアが浮かんだように、在宅でできる仕事もあるので、育児等で大変な場合は在宅勤務も取り入れて、ブランクをなるべく少なく出来るように工夫していけばよい。これは教授として、また所長としての思いです。

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