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 研究概要 Research

 ゲノム配列の決定やプロテオミクスの進歩により、多くのタンパク質の一次配列やその経時的な機能が解明されてきていますが、タンパク質はある特定の立体構造をとることにより初めてその機能を発揮します。いわゆるプリオン病が示すように、タンパク質の化学的組成が同じでも、その立体構造が正しくなければ活性を示さないだけでなく疾病と関連しうることもあるのです。
 本研究室では、タンパク質を中心に生体高分子の立体構造やそれに関連した物理化学的な性質を研究することを目的としています。創薬への貢献を視野に、タンパク質と低分子化合物の複合体の構造も数多く決定しています。



B細胞共受容体CD72の結晶構造解析


B細胞活性化に重要なB細胞抗原受容体(BCR)シグナル伝達は、共受容体と呼ばれる膜タンパク質によって制御されており、共受容体CD72の機能異常が自己免疫疾患の発症に関与することが示唆されています。 CD72はC型レクチン様ドメイン(CTLD)を有するが、そのリガンドおよびリガンド認識機構は明らかになっていません。 CD72の立体構造およびリガンド認識機構が解明されれば、B細胞活性化および自己免疾患に関して新たな知見が得られると期待されます。
我々はこれまでに、マウスCD72のC型レクチン様ドメインの結晶構造を決定しました。 さらにリガンドとの複合体結晶の作製を試みています。本研究は本学難治疾患研究所の鍔田武志教授との共同研究です。


T細胞の活性化におけるシグナル伝達機構の研究

ヒトの免疫系で重要な役割を担うT細胞の活性化には、CD28ファミリー分子を介したシグナルが必要であるCD28の細胞内領域は約40残基からなり、Tyrキナーゼによりリン酸化を受けたのち、Grb2、Gads、PI3Kなどのシグナル伝達分子にあるSH2ドメインが認識し結合します。これら各シグナル分子とCD28ファミリーとの分子認識機構を原子レベルで解明することにより、これを利用した医薬品開発などの応用を目指します。本研究は、京都府立大学の織田昌幸教授との共同研究です。


アルツハイマー病の発症機構の研究

アルツハイマー病の発症原因のひとつとして、タウタンパク質の神経原線維変化形成(凝集化)が疑われています。タウタンパクは、本来、微小管に結合しその安定化に寄与していますが、過剰リン酸化を受けると、微小管への結合能を失い、凝集化するとともに、神経細胞のアポトーシスを招きます。近年、プロリン異性化酵素のPin1やFKBP12が、このタンパク質の凝集抑制能を持つことが示唆され、アルツハイマー病の発症との関連から注目されつつあります。われわれはこれまでに、タウタンパク質の凝集化の核となる領域を含むペプチドを対象とした実験で、Pin1とFKBP12が実際に凝集抑制能を有することを示しました。また、FKBP12のプロリン異性化活性がこの機能に直接関与していることも示しました。現在は、Pin1のプロリン異性化活性の関与についての解析に取り組んでいます。本研究は、広島大学の楯真一教授、栃尾尚哉特任講師との共同研究です。


核内受容体と新規合成リガンドとの複合体結晶構造解析

 ビタミンDはステロイドホルモンの一種であり、生体内において血中カルシウム濃度を調節するほか、免疫調整、細胞増殖抑制、分化促進など多様な機能を持ちます。このため様々な疾患の治療薬として使用されていますが、副作用として高カルシウム血症等があり、ビタミンD受容体(VDR)に作用する活性の異なるリガンドは新薬の候補となり得ます。様々な新規合成リガンドについて、VDRリガンド結合ドメインとの複合体の結晶構造解析によりその分子認識機構を解明し、これを応用してさらに高機能なリガンド分子の合理的設計を行います。本研究は、本学生体材料工学研究所の影近弘之教授、日本大学の山田幸子教授、昭和薬科大学の山本恵子教授らとの共同研究です。


巨大ヘモグロビンの酸素結合中間状態での結晶構造解析

実用的な血液代替物の開発は現在においても成功しておらず、赤血球の代わりとしてヘモグロビン(Hb)を多量体化させる方法などが検討されています。一方、無脊椎動物の血液中においては、ヒトのHbの数倍から数十倍におよぶ巨大分子量のHbの存在が知られており、これらの巨大Hbの立体構造と酸素運搬の作用機構が詳細に解明されれば、血液代替物の開発に有用な情報となることが期待されます。われわれはこれまでに、巨大Hbの酸素結合型(oxy型)と酸素非結合型(deoxy型)の双方について結晶構造を決定しました。さらにoxy型とdeoxy型の中間状態を再現させた結晶の作製を試みています。本研究は、京都大学の三木邦夫名誉教授、金沢大学の福森義宏教授との共同研究です。

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東京医科歯科大学
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