手術の更なる技術向上と、心臓移植手術の実施を目指したドイツ留学記
~心臓血管外科 藤原立樹先生
2025.1.9
当院で実施される心臓血管外科手術の更なる技術向上と、心臓移植手術の実施を目指して、心臓血管外科の藤原立樹先生が、2024年6月から9月までの3か月間、ドイツ・バイエルン州にあるルートヴィヒ・マクシミリアン大学(LMU)ミュンヘンの附属病院であるKlinikum Großhadernにて研修を行いました。その様子について、お話を伺いました。
【質問1】留学期間と留学先
私は2024年6月から9月までの3か月間、ドイツ・バイエルン州にあるルートヴィヒ・マクシミリアン大学(LMU)ミュンヘンの附属病院であるKlinikum Großhadernにて研修を行いました。LMUは1472年に設立された歴史ある大学であり、ドイツで最初の心臓移植が行われた施設でもあります。同病院は大学病院として移植医療に非常に力を入れており、ほぼすべての臓器移植が昼夜を問わず行われていました。年間の心臓移植件数は約40件でドイツ国内で3番目に多い実績を誇ります。私が滞在した3か月間には、ほぼ週1回のペースで心臓移植が行われていました。
【質問2】留学の目的
私の留学の目的は、心臓移植の経験を積むことでした。具体的には、心臓移植における手術手技、術前・術後の管理、そして合併症が生じた際の対応について学ぶことを目指しました。また、心臓移植施設の審査要項には「海外の心臓移植実施施設においてTransplantation Fellowの経験を有する者が勤務していること」との記載があり、この条件が今回の留学を大きく後押ししてくれました。
限られた留学期間ではありましたが、明確な目的を持って研修に臨むことができたことは、私にとって非常に意義深い経験となりました。
【質問3】留学先の指導者・病院・研究室の雰囲気
留学先の指導者は、LMU心臓外科主任教授であるChristian Hagl先生でした。心臓外科の教室には約35名のスタッフが所属しており、Hagl教授を中心に大変統制の取れた運営が行われていました。緊急手術や移植手術が連続して発生しても、驚くほど円滑に進む現場の様子が非常に印象的でした。
また、Hagl教授の下にはヨーロッパ諸国や中国、南米など世界各国から心臓外科医が研修に訪れていました。他国の医師たちと疾患に対する考え方や手技、管理方法について意見を交換し、交流できたことは、大変貴重な経験となりました。
【質問4】留学中に大いに学びになった・気づきになったと感じたことベスト3

1. 移植の順位付けシステムの違い
ドイツでは、移植の順位付けが日本とは大きく異なり、登録日ではなく患者の重症度を優先するシステムが採用されています。このシステムは現在、日本でも導入が検討されていますが、私はいち早くその運用を体験することができました。
2. 効率的なワークスタイル
ドイツでは朝の業務開始が早く、仕事が終われば17時前でも帰宅するという効率的な働き方が印象的でした。このワークスタイルを間近で体験できたことは、私自身の働き方を見直す良い機会となりました。
3. 休暇の取り方
ドイツでは、夏休みや有給休暇をしっかり取る文化が根付いており、仕事とプライベートのバランスを大切にしている姿勢が大変参考になりました。
【質問5】気分転換法
ドイツは湿度が低く晴天の日が多かったため、私はサイクリングを楽しみました。現地到着後すぐにマウンテンバイクを購入し、翌日から通勤に使用しました。週末には自転車でミュンヘンの様々な観光名所を訪れ、リフレッシュすることができました。
また、ミュンヘンに留学している同世代の日本人医師たちとビアガーデンに行くことも楽しみの一つでした。特に、屋外で飲むドイツビールは格別で、幸せなひと時を過ごしました。学生時代から好きだった山登りも続けており、ドイツ国内最高峰のツークシュピッツェ(Zugspitze)に登ることもできました。
【質問6】感謝の言葉
今回のドイツ留学では、移植医療の実地経験を積み、Transplantation Fellowの修了証を取得するという目標を達成することができました。しかし、それ以上に異国での多様な経験や新たな人間関係が、私にとって大きな財産となりました。
この留学を支援してくださった東京科学大学の田中雄二郎学長、内田信一理事、藤井靖久病院長、藤田知之教授、多忙な業務を代行してくださった医局の皆様、そして手続きに携わってくださった事務の皆様、さらにこの素晴らしい経験を支えてくださったすべての方々に、心より感謝申し上げます。
今後は、東京科学大学で心臓移植を担う外科医の一人として、今回の研修で学んだことを最大限に生かしていきたいと考えております。
藤原立樹医師プロフィール

講師・医学博士
藤原 立樹
学会・資格
心臓血管外科専門医、外科専門医、日本外科学会指導医、循環器専門医、植込型補助人工心臓実施医、日本脈管学会専門医、日本脈管学会認定脈管指導医、胸部ステントグラフト指導医、腹部ステントグラフト指導医、日本人工臓器学会(評議員)、日本移植学会、日本心臓移植学会
主な研修・出張先
草加市立病院、国立循環器病研究センター
ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(JATSフェローシップ、ドイツ)