治療方針
当病院では下記の疾患に対して、高気圧酸素治療を適用しています。
主な適応疾患
- 減圧症
- 空気塞栓
- 急性一酸化炭素中毒その他のガス中毒
- 重症軟部組織感染症(ガス壊疽、壊死性筋膜炎)又は頭蓋内膿瘍
- 急性末梢血管障害
(イ) 重症の熱傷又は凍傷
(ロ)広汎挫傷又は中等度以上の血管断裂を伴う末梢血管障害
(ハ) コンパートメント症候群又は圧挫症候群 - 腸閉塞
- 網膜動脈閉塞症
- 突発性難聴
- 難治性潰瘍を伴う末梢循環障害
- 皮膚移植
- 脊髄神経疾患
- 骨髄炎
- 放射線障害
- スポーツ外傷など
その他の疾患
熱傷・凍傷,難治性脊髄・神経疾患,急性心筋梗塞,空気塞栓症,脳血管障害,網膜動(静)脈閉塞症,重症頭部外傷,急性脳浮腫,慢性難治性骨髄炎,性動脈・静脈血行障害,急性脊髄障害,低酸素性脳障害,重症空気塞栓症,中毒性疾患:一酸化炭素中毒、シアン化合物(青酸),硫化水素皮膚移植後の虚血皮弁
主な適応疾患(詳細)
減圧症
ダイビングなど高気圧環境下において体内に取り込まれた窒素などの生理的不活性ガスが、急速な浮上などの減圧に伴って過飽和状態となり、不活性ガスの気泡が組織内や血管内に発生することで生じます。気泡は身体のほぼどこでも発生しうるため、多彩な症状を呈します。
発症する要因:減圧症になりやすい要因として、急速浮上、深い長時間の潜水、一日での頻回な潜水、潜水後の高所への移動、寝不足、疲労、ストレス、肥満、高齢、脱水などがあり、複数の要因が発症に関与します。
症状
症状がおよそ軽症か重症かによってⅠ型減圧症(軽症)と、Ⅱ型減圧症(重症)に分類されます。主な症状は下記の通りです。
- Ⅰ型減圧症
皮膚の発赤・かゆみ、関節痛、浮腫・むくみなど - Ⅱ型減圧症
脊髄型:手足のしびれや脱力感などの知覚神経・運動神経の障害、排尿遅延・残尿感などの、膀胱直腸障害など
脳型:意識障害、痙攣、麻痺、脳神経症状など
肺型(チョークス):胸痛、咳、息切れなど
内耳型:めまい、耳鳴り、吐き気、聴力低下など
その他:全身倦怠感など。時に骨壊死もあり。
治療
減圧時に気泡が血管内に入り、空気が動脈を閉塞して症状を呈する動脈ガス塞栓症との鑑別が困難な場合もありますが、減圧症、動脈ガス塞栓症のいずれも高気圧酸素療法の適応です。
減圧症の場合、早期の治療開始が勧められます。減圧症を疑った場合は、ご連絡下さい。高気圧酸素療法の治療時間は、原則1回5時間程度です。重症例では複数回の治療を行いますが、担当医師とご相談下さい。
一酸化炭素中毒
軽症では頭痛やめまいなどが生じ、重症になると意識が消失したり、場合によっては死亡することがあります。一酸化炭素は、血液中で酸素を運搬するヘモグロビンと強い結合することで、酸素とヘモグロビンの結合を阻害します。このため、全身が低酸素状態となり、障害を生じます。
発症する要因
火災など閉鎖空間での不完全燃焼時に発生する一酸化炭素を吸入することで症状が発生します。冬季は暖房器具は灯油などを利用して燃焼するため、一酸化炭素が発生しやすくなります。また、車内など密封空間も同様です。「換気をこまめにすること」が主な予防法といえます。
症状
【軽症】頭痛やめまいなど
【重症】意識が消失したり、場合によっては死亡
治療
一酸化炭素中毒では、高気圧酸素療法が最も有効な治療です。全身の低酸素状態の改善のみならず、一酸化炭素とヘモグロビンの結合を早期に解離します。
一酸化炭素中毒では、まずは閉鎖空間から脱出・救出した後、酸素があれば酸素吸入を、そしてできるだけ早く救急対応で高気圧酸素療法を開始する必要があります。
ガス壊疽・骨髄炎
ガス壊疽」とは主にクロストリジウムというガスを発生する菌による感染です。怪我の後に発生することが多く糖尿病など感染をしやすい人に生じることが多い感染症です。
「骨髄炎」とは、骨の中に生じた感染症です。骨の中は抗生剤の移行が少なく、特に慢性骨髄炎では血行も悪く低酸素状態となっており、治療が困難な感染症です。
治療
いずれの感染症の診断や菌の特定には、医師の診察や検査が必要ですが、上記感染症の場合は高圧酸素療法の適応となります。
また治療には抗生剤のほか場合によって手術などもありますが、感染巣の低酸素状態を改善する高気圧酸素療法は、感染の治癒に有効な治療法です。他の感染症でも適応となることがあり、医師の指導に従ってください。
コンパートメント症候群
コンパートメント症候群は、前腕や下腿の骨折・打撲・肉離れなどの怪我の後、非常に腫れることで手足がしびれたり痛くなったり、場合によっては手足の血行を阻害する病態です。
発症する要因
減前腕や下腿では、筋膜や骨間膜、骨などでいくつかの部屋に区画されています。筋膜とは筋肉を包んでいるソーセージの皮のような伸縮性の低い組織です。このため外傷などにより腫れが生じ、区画内での圧力が非常に高くなると神経や血管を圧迫して症状を呈します。場合によっては筋肉が壊死してしまいます。
治療
外傷の初期治療の基本はRICE(R:rest安静 I:icing 冷却 C:compression 圧迫 E:elevation挙上)ですが、手足にしびれ痛みや血行障害を生じた場合は、コンパートメント症候群を疑います。
コンパートメント症候群ではRICE療法のほか手術もありますが、高気圧酸素療法も腫れを軽減する効果があり、良い適応となります。
スポーツ外傷・軟部損傷
捻挫・肉離れ・足関節靭帯損傷などスポーツに関連した軟部損傷において、早期回復・早期復帰を目指して、高気圧酸素療法での治療を行っております。高気圧酸素療法は、腫れや痛みの軽減に効果的で、早期スポーツ復帰が期待されます。
治療
通常受傷早期からの治療で、5回を1クールとして治療しております。患者さんのみならず、チームの医師・トレーナーの方々からのお問い合わせをお待ちしております。
特発性大腿骨頭壊死
大腿骨の股関節部分の骨(大腿骨頭)が徐々に死んで骨が弱くなる疾患で難病指定疾患です。
ステロイドを多量に服用したり、アルコールを多量に摂取するで発生することがありますが、原因不明な大腿骨頭壊死も多く、特発性大腿骨頭壊死といいます。大腿骨頭壊死では血行障害があるといわれています。
腰部脊柱管狭窄症
大腿骨の股関節部分の骨(大腿骨頭)が徐々に死んで骨が弱くなる疾患で難病指定疾患です。腰部脊柱管狭窄症とは、腰の背骨である腰椎が変形し、神経が通っている脊柱管が狭窄することで下肢へ分岐する神経などが圧迫され、症状を呈する慢性疾患です。
症状
腰部脊柱管狭窄症では、下肢の痛み・しびれ・筋力低下・膀胱直腸障害などの神経症状を生ます。特に数分程度の歩行で症状を生じ、椅子に座るなど座位にて症状が軽減することが特徴的です。
治療
腰部脊柱管狭窄症では神経が脊柱管で圧迫され、神経に通う血行が阻害され、神経の低酸素状態となります。高気圧酸素療法では神経の低酸素状態を改善することで症状の改善が期待されます。