ご挨拶
日本における、ケミカルバイオロジー学会が創立し、研究会時代も含めますとこの年会で5年目を迎えることとなります。一昨年には分子イメージングの世界が大きく評価され、3名のノーベル化学賞受賞者が出たことは記憶に新しい所であります。そのなかには日本で培われたオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質の発見で下村脩博士の名があったことは、まさにケミカルバイオロジーの日本の底力を世界に示した大成果と認識できます。そもそも世界のケミカルバイオロジーの底流が長井長義、鈴木梅太郎、真島利行を源とした日本の天然低分子研究に裏打ちされていると言っても過言ではありません。益々化学におけるケミカルバイオロジーの占める位置が重要になり、本学会に対する期待は限りなく大きくなりつつあります。
さて、ケミカルバイオロジーは、化学の技術・方法論を駆使し生命現象を明らかにする新学問領域であります。平成20年度から22年度までの3年間、同名の細目を科学研究費補助金の時限付き分科細目として設定したところ活発な応募がなされました。この間に採択された研究課題には、生体内機能を制御できる化合物発見を目指して、天然物や合成化合物ライブラリーから有用化合物の探索を目指すもの、ライブラリー自体の構築や効果的なスクリーニング系の確立を目指すもの、さらには、発見された分子を武器として生命現象の分子基盤確立に取り組む課題などがありました。研究活動の比較的初期段階で行われる有用分子探索から、発展段階での中心となる生命現象解析まで、ケミカルバイオロジー研究の一連の流れの全てが網羅されています。このような採択課題の分析から、我が国におけるケミカルバイオロジー研究が勃興期を通過し、成熟した学問領域として定着しつつあることが読み取れます。この傾向は、時限付き分科細目が対応しない比較的大型の研究種目についても同様であり、課題名、キーワードにケミカルバイオロジーを含む課題が増加していることが確認できます。これら課題から得られた成果は、今後の医農薬の開発、生物工学や環境科学の発展にも大きな波及効果を与えることでしょう。
本研究分野の研究者数は年々増加していますが、従来の有機化学、生化学、生物学、薬学、医学、農学・水産学、微生物学、工学などの分野で分散して活動しているため、相互の連携に必要な共通基盤を有していなかったと考えられ、科研費の分科細目として設定されることにより関係分野の融合・連携が加速し、我が国の学問水準が一層の向上をするものとして期待しております。
慶應義塾大学で開かれる第5回日本ケミカルバイオロジー学会年会には大きな注目と期待が集まっております。少しでも多くの皆様のご参加をお願いすると共に、基礎研究としての重要性、社会への成果の還元等を発信しつつ、成功裡に向けた心よりの関係各位のご協力とご援助をより一層強くお願いする次第であります。
日本ケミカルバイオロジー学会 第5回年会
実行委員会 委員長
慶應義塾大学 理工学部
教授 上村 大輔
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