東京医科歯科大学・難治疾患研究所・発生再生生物学分野の仁科教授の研究グループは、英国バス大学、東京大学、大阪大学、山口大学、慶応大学グループとの共同研究で、日本が世界に誇るメダカをモデル生物に用いて、これまで詳細が不明であった肝臓発生に「レチノイン酸シグナル」が関与することをつきとめました。この研究は文部科学省科学ならびに厚生労働者の研究費補助金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、米国肝臓病学会誌Hepatology(ヘパトロジー)に、2009年12月3日付オンライン版で発表されました。 また、山口大学との共同研究で、メダカに非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を誘導し、ヒトの病態を模倣するモデルを作製することにも成功しました。この研究成果は、病態モデル生物の専門誌であるDisease Models & Mechanismsに発表されます。 仁科 博史 教授難治疾患研究所発生再生生物学分野 ポイント 大規模スクリーニングによって肝臓形成や機能に異常のあるメダカ変異体を多数単離し、このうち肝臓が小さくかつヒレが無い変異体の一つをhiohgi(緋扇)と命名しました。 体内で産生されるレチノイン酸がWnt等のシグナル分子を制御することで、ヒレ(ヒトでは腕に相当)と類似のしくみで、肝臓の元となる幹細胞の発生を決定することを発見しました。 マウスでは明らかにできなかった分子機構を明らかにできたことから、哺乳類動物に加えてメダカは再生医学の基盤を形成する器官形成の有用なモデル生物であることが期待されます。 研究成果の概要と意義 肝臓は、胆汁の分泌, 吸収栄養分の濾過と解毒, 糖の貯蔵と血糖の調節など多様な働きをする必須の器官です。またその再生能力の高さから生体肝移植も行われています。しかしながら、その形成(発生や再生)の分子機構は未だ不明な点が多い現状です。私たち研究グループは、母体外で発生が進行するため顕微鏡による観察が容易であるメダカをモデル生物として、肝臓の形成機構の解明を行っています。肝臓の発生が異常なメダカ変異体を単離し解析することで、「体内で産生されるレチノイン酸が肝臓の発生を決定すること」をつきとめました。この発見により、必須な働きをする多機能器官である肝臓の形成の分子機構の一端が解明されました。同時に、器官形成を知るために多用されているマウスでは困難な解析が、メダカでは可能であることを示す成果であると考えられます。また我々は、非アルコール性の脂肪性肝炎(NASH)を発症するメダカの作製に成功し、「ヒト疾患のモデル生物」としてのメダカの有用性も明らかにしました。 問い合わせ先 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 発生再生生物学分野 教授 仁科 博史(ニシナ ヒロシ) TEL 03-5803-4659 e-mail: nishina.dbio@mri.tmd.ac.jp