1.
EBV感染モデルマウスの開発と応用
2.
鼻性T/NKリンパ腫の研究
3.
EBV陽性鼻性T/NK リンパ腫の発生・再発のメカニズム解析
4.
EBV陽性gdT細胞株の解析
2.鼻性T/NKリンパ腫の研究
進行性鼻壊疽は、鼻腔および口蓋に発生するリンパ増殖性疾患である。組織は壊死像が強いため診断が難しく、また進行性に経過し様々な部位に転移するため末期になって確定診断がつき手遅れになることもしばしば経験される予後不良の疾患である。ほとんど全ての症例で病変部においてEBV感染細胞のモノクローナルな増殖が証明されるため、EBV陽性リンパ腫と考えられている。
進行性鼻壊疽の病理組織標本を免疫染色するとCD3が検出されるため当初はT細胞リンパ腫であると考えられていた。しかし、免疫染色では細胞質CD3がNK細胞でも陽性となるため本来NKリンパ腫とすべきものが誤認されていた可能性が高く、さらにT細胞リセプターの再構成も検出できないためNKリンパ腫と考えるのが妥当とする研究者が増加している。
一方、検索したほとんどの症例でT細胞リセプターの再構成が確認できるためやはり進行性鼻壊疽はT細胞リンパ腫であるとの研究結果も報告されており、原因細胞の詳細については議論が続いていた。病変組織の壊死像が強いことと病変部から細胞株が樹立されていないことが研究を行うための障害となっており、病気の本態がいまだ確定していない要因となっている。したがって、病変部から細胞株を樹立しその細胞を詳しく解析することが可能になれば進行性鼻壊疽の本態に関する研究は大きく進展するものと考えられる。
過去、病変部から細胞株を樹立する試みが行われていたが成功例の報告はなかった。その理由として、壊死性の病変部から微生物を繁殖させることなく細胞を培養することが難しいことと、NK細胞由来細胞株の報告はこれまでごく少数であることから分かるようにNK細胞由来の細胞株を樹立すること自体が非常に難しいことがあげられる。我々は、最近、進行性鼻壊疽患者末梢血からEBV陽性細胞株を樹立することに成功した。今回この経験を踏まえ患者病変部から細胞株を樹立し、病気の本態解明の研究に供することを目的として研究を行った。

進行性鼻壊疽と診断された2人の患者から得た鼻腔病変部由来生検材料を細切後メッシュを通しリンパ性細胞を採取した。得られた細胞を増殖培地(RPMI1640培地+10%ヒト血清+700U/ml IL-2 )中で培養したところ、いずれの場合もリンパ系細胞の急速な増殖が認められた。増殖した細胞の表面抗原を染色後フローサイトメーターで解析したろころ、1例目の患者由来の細胞(SNK-6)はCD3、CD19陰性、CD56陽性でありNK細胞由来と考えられた。SNK-6はEBV潜伏感染細胞であり、EBVの末端繰返し配列の解析より、モノクローナルな細胞であることが明らかとなった。また、2例目の患者由来の細胞(SNK-8)もモノクローナルなEBV潜伏感染細胞でありCD56陽性、CD19陰性だったが、SNK-6と相違してCD3が陽性でT細胞由来と考えられた。さらに詳しく解析したところ、SNK-8は細胞表面にγδ型T細胞リセプターを発現していることが明かとなり、γδ型T細胞由来と考えられた。またサザンブロット法によりT細胞リセプター再構成の有無を検討したところ、SNK-6は再構成が確認できなかったが、SNK-8はJ-δ3領域の再構成が認められた。
以上の結果より、SNK-6はNK細胞由来、SNK-8はγδ型T細胞由来のモノクローナルなEBV感染細胞と考えられた。細胞株を分離した2人の進行性鼻壊疽患者は臨床的、病理学的には差がなく、典型的な進行性鼻壊疽患者であった。したがって、本研究により少なくともNK細胞リンパ腫による進行性鼻壊疽とγδT細胞リンパ腫による進行性鼻壊疽の2種類が存在することが明かとなった。
従来より、進行性鼻壊疽を例外なくNKリンパ腫とする報告と例外なくγδT細胞リンパ腫とする報告があり対立点となっていたが、今回我々が得た結果より、臨床的、病理学的に進行性鼻壊疽として分類される病気にはNK細胞リンパ腫とγδT細胞リンパ腫の2種類が存在することが明かとなった。さらに、今回得られた細胞株はEBV陽性NK細胞としては3例目、EBV陽性γδT細胞としては初めて樹立された細胞株であり、NK細胞、γδT細胞とEBVの関連を研究する上で貴重な系となるだろう。

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