3 グリア細胞の脳高次機能における役割の解明

 ・ グリア細胞の脳高次機能における役割

脳などの中枢神経は、その名の通り神経細胞を数多く含み、それらの神経細胞はそれぞれが重要な働きを持っています。しかし神経系には神経細胞以外にも様々な種類の細胞が存在し、グリア細胞もそのような細胞集団のひとつです。グリア細胞という名前はglue(=糊)という言葉に由来するように、古くは神経細胞同士をつなぎ合わせる糊のようなものだと考えられていました。しかしながら、研究が進むにつれて多様な働きを持っていることが明らかになり、現在では神経と同等に重要な細胞として捉えられています。グリア細胞は大きく分けてアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアの3種類に分類されます。これらのグリア細胞たちはそれぞれ異なる機能を果たすのですが、近年の研究から、これら3つの種類の中でもさらに細かく機能が異なっている可能性が示されてきました。
 そこで現在わたしたちは、これらのグリア細胞を脳の部位ごと分けて活性化させることが可能なマウスを開発し、化学遺伝学的手法と行動解析を組み合わせることによって、それぞれのグリア細胞が脳高次機能の発揮に果たす役割を明らかにするため解析を試みています。





・ アストロサイト/オリゴデンドロサイトの脳高次機能における役割

アストロサイトはグリア細胞の中でも数の多い細胞です。“アストロ”という通り、細胞の骨格の染色を行うと星型に見えたことに由来する名を持ちますが、実際には非常に緻密なスポンジのような構造をしており、その末端は神経細胞のシナプスをひとつひとつ覆っていてシナプス間隙における神経伝達物質の調節をしています。その他にも神経細胞への栄養因子の提供や、血液脳関門と呼ばれる血管から脳内への有害物質の流入を防ぐためのバリアーの構成など、非常に多彩な機能を果たしていると考えられています。
アストロサイトに並んで数の覆いグリア細胞がオリゴデンドロサイトです。脊椎動物の多くの神経は髄鞘と呼ばれる絶縁性の層に包まれており、この髄鞘の存在によって神経活動の伝導を高速化しています。オリゴデンドロサイトは中枢神経において髄鞘を形成する細胞で、髄鞘がなければ人が歩く程度の早さである神経伝導速度を新幹線くらいの早さに押し上げています。
これらのグリア細胞が持つ多様な機能が脳高次機能にどのような役割を持っているのかを明らかにするために、わたしたちは化学遺伝学的手法と行動解析を組み合わせ、解析を試みています。



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・ ミクログリアの脳高次機能の役割

アストロサイトやオリゴデンドロサイトと比べると大きさが小さいことから“ミクログリア”と名付けられたこの細胞は、中枢神経内で主に免疫を担当している細胞として知られています。ミクログリアの集積は、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患の多くで観察されるため、これらの疾患になんらかの役割を果たしているのではないかと考えられています。さらに近年では、シナプスの刈り込みと呼ばれる、健康な脳の発達のために行われる現象においても重要な働きを持つことが示されています。
 現在、このミクログリアを選択的に障害することのできる薬剤を用いて、ミクログリアが脳高次機能や疾患病態において果たす役割の解明を試みています。