感染予防

歯学部附属病院新型コロナウイルス感染予防と歯磨き

2020.04.23

【歯学部附属病院】
一般の皆様、医療関係者にも役立つ、新型コロナウイルス感染症に負けないマメ知識を、
東京医科歯科大学の専門家に聞きました。

◆回答者
東京医科歯科大学歯学部附属病院歯科総合診療部 礪波 健一 講師

【質問1】歯磨きは一般的な細菌やウイルス感染予防に有効ですか? また新型コロナウイルス感染予防に有効ですか?

近年、高齢者の誤嚥性肺炎が問題になっていますが、歯磨きなど口腔ケアを徹底し、お口の中の細菌数を減らすことで予防できることが知られています。また、かぜやインフルエンザについても、特に歯周病原細菌を減らすことによって、その原因であるウイルスの細胞への付着を阻害できることが明らかになっています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因であるSARS-CoV-2もインフルエンザウイルスと同様な付着様式であるため、適切な口腔ケアは当該疾患に有効です。

参考:インフルエンザウイルスはエンベロープ表面に突出する糖蛋白ヘマグルチニン(hemagglutinin:HA)を介して気道上皮細胞に接着し細胞内に進入します。さらに,開裂・活性化した HA を持つウイルスだけがエンベロープを細胞膜に融合させて細胞質内にRNAを放出し(脱殻),ウイルスの増殖に進む ことができることが明らかになっています。開裂・活性化させる因子の一つとして、トリプシンや細胞に発現するプロテアーゼが関係しています。歯周病原細菌のうち最も悪玉といわれるRed complex(Porphyromonas gingivais, Tannerella forsythia, Treponema denticola)は、トリプシン様プロテアーゼを保有しているため上記のHAの開裂・活性化にかかわると考えられています。

【質問2】新型コロナウイルス感染予防の観点から歯磨きする際に注意することがあれば教えてください。

歯磨き時はどうしても、自分の唾液を触ったり、唾液の飛沫を飛ばしてしまいます。一方、新型コロナウイルスに感染している人では唾液中にもウイルスが混入していることが分かっています。したがって、感染予防としては唾液に他の人が接触したり、飛沫を吸い込んだりしないよう注意する必要があります。例えば、歯磨きのタイミングをずらしたり、歯磨きをする場所の換気をよくするなど3密を避けることは予防効果があると思われます。また、家庭内でも使用していない時の歯ブラシを接触させないなどの配慮も、家庭内感染を防ぐと思われます。

【質問3】歯磨きの回数を増やせば増やすほど、感染予防につながりますか?

新型コロナウイルス感染予防だけでなく、むし歯や歯周病予防の点からも言えるのですが、お口の中の細菌の数が増えてしまうことが悪影響を及ぼすことが分かっています。細菌の数が増えると、歯の表面の白く柔らかなネバネバしたものとして目で見えてきます。それがプラーク(バイオフィルム)と呼ばれる細菌の塊です。感染予防にはこのプラークをくまなく掃除することが必要で、確実に歯ブラシの毛先がプラークに当たった状態で歯ブラシを動かすことがポイントとなります。ですから、雑に何回も磨くよりは、一日に一回(就寝前が効果的)、歯と歯茎の境を丁寧に磨く方が効果的です。残念ながら、お口の中の細菌の数はゼロにすることはできませんが、一度歯磨きで数を減らすと、もとの数に増えるのにだいたい48時間かかると言われています。つまり、一日一回でもちゃんと磨けていれば、細菌の数を低い水準で押さえることができますが、磨き残しをゼロにすることは困難なので、毎食後磨いて習慣づけると良いでしょう。単純に歯磨きの回数を増やすのではなく、プラークを狙い撃ちした歯磨きを心がけましょう。さらに、舌の表面にも舌苔と呼ばれるバイオフィルムがあり、むし歯菌(う蝕原性細菌)、歯周病原細菌が生息しています。したがって、舌の表面の清掃も忘れないようにしましょう。

【質問4】虫歯や歯周病があると細菌感染やウイルス感染しやすくなったり、感染が悪化することがありますか?

最近の研究で、歯周病と糖尿病が関係あることが分かってきました。重篤な糖尿病があると、感染のリスクが高くなることが知られています。したがって、歯周病があると細菌感染やウイルス感染を生じやすくなると言えます。
さらに、特に歯周病にかかっている方は、歯周病原細菌がお口の中に多く生息していますので、質問1のコメントも参考にしてください。

田中雄二郎学長メッセージ

新型コロナウイルス感染に正面から取り組む
―大学基金へのご協力のお願い―

全世界が新型コロナウイルス感染という危機に直面しています。これは世界の4 人に1 人が感染し、5000 万人が死亡したスペイン風邪以来の大規模パンデミックとも言われており、大きく世の中を変えることになると思います。
大学自体も、卒業式、入学式が相次いで中止となり、教育はe-ラーニング、研究もコロナウイルス感染関連以外は最低限となり危機的状況です。
もともと、本学は「知と癒しの匠みを創造し人々の幸福に貢献する」という理念を掲げています。
この理念に基づき、東京に位置する医系国立大学としてこの危機に正面から取り組むのは使命だと考えて行動を開始しました。

新型コロナウイルス感染克服を最優先に

新型コロナウイルス感染克服への取り組みを最優先課題としました。
大学病院は高度先進医療を優先すべきだという議論もあります。しかし感染爆発の状況に至れば、そのような姿勢は社会的に許容されないだろうと考え、3月初旬から準備を開始しました。
診療面では、医学部附属病院がこの前面に立ち、集中治療室全体を陰圧化するなどの改装や、病院前に検体採取用テントを設置するなどのハード面の改修を行いました。また、新たに20台の人工呼吸器を購入し、ECMO(人工肺)5台、人工呼吸器82台の体制を敷いて多くの重症患者様の治療に当たっています。
ソフト面では、多くの研究者たちの応援のもと院内感染ゼロを維持するため入院患者様およびコロナウイルス対応職員の院内PCR検査体制を実施しています。また、コロナウイルス感染拡大防止の観点から医学部および歯学部附属病院の通常診療も大幅縮小し、患者様にはご迷惑をおかけしつつ、そのスタッフたちがコロナウイルス対応スタッフの応援に回っています。

このような本学の取り組みの結果、全国でも有数の新型コロナウイルス感染者の治療に当たることができ、その社会貢献を評価して頂き、防護服の寄附や弁当の差し入れなどを頂戴することが出来ました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

しかしながら、病院の改装、医療機器、防護服、検査試薬など諸費用は莫大なものになっており、より良い診療、教育、研究を維持向上させるために、皆様のご支援を重ねてお願い申し上げる次第です。お寄せ頂いたご厚意には必ず報いることが出来ますよう使途も明らかとして、一層の社会貢献に努めて参りたいと思います。
宜しく、ご理解、ご支援のほどお願い申し上げます。

東京医科歯科大学 学長 田中雄二郎

新型コロナウイルス対策基金にご協力ください

東京医科歯科大学は、新型コロナウイルス感染症に正面から立ち向かっています。そのため、病院の改装、医療機器、防護服、検査試薬など諸費用は莫大なものになっており、より良い診療、教育、研究を維持向上させるためには、皆様のご支援が必要です。お寄せ頂いたご厚意には必ず報いるよう、一層の社会貢献に努めて参りたいと思います。宜しく、ご理解、ご支援のほどお願い申し上げます。