14.視覚:視覚の中枢機序

§1.視覚伝導路

 中枢視覚系の大要について述べる。網膜から発した視覚線維は視神経(optic nerve)となり、後方に進み視神経交叉(optic chiasma)、更に視索(optic tract)となる。視索は大脳脚の外側を通り次の2つの系にわかれる。 ()上丘(superior colliculus)系と視蓋前域(pretectal area)上丘系は 視覚的対象に対して目を向ける注意ないし注目に関与する。「それが視野の 何処にある。」に関係する機能を司る。下等な動物では視覚の主な機能を 司る。前域は瞳孔反射の経路でもある。 ()外側膝状体(lateral geniculate)、視放線(optic radiation)、視覚領 (visual area)これは、対象視(object visrion)に関与している。この系は 更に他の大脳皮質、皮質下の核と連絡して、物の視覚的は認知等の知覚と関係 している。つまり、「それが何であるか」に関係する機能を司る。

§2.視神経及び視索

 視神経交叉においては、網膜の鼻側から来るものは交叉、耳側半分から来るものは 非交叉である。従って、両方の網膜の右半分から右側の視索にゆく。網膜の右側は 左側半分の視野に相当するから、一方の視索は反対側の視野半分を受け持っている。  視覚経路のいろいろな部位が損傷されると、種々の型の視野欠損が生じる。視 神経がやられると1眼の全盲(total blindness)が生じる。交叉部でやられると、 両耳側半盲(bitmporalhemianopsia)が生じる。交叉部でやられると、同名半盲 (homonymous hemianopsia)が生じる。(図15-1) <図15−1>

§3.外側膝状体(lateral jeniculate body)

 猿、人では6層あり、腹側から1、4、6層は反対側の眼から、2、3、5層は 同側から支配されている。網膜の部位と膝状体の部位は対応がある。(図15ー2)  機能は視覚領への入力を調節している。 <図15−2>

§4.視覚領(visual area)

 外側膝状体から出た視放線は、前方、側方、上後方にまわり、17野に投射する。  17野は第4層の横の連絡線維が非常に発達している。それで内眼ではすじとして 見える。それでこれを line of Gennari という。また、17野は有線野(striate cortex)ともいう。17野は顆粒皮質(granular cortex)で、諺悗発達している。 17野の周りには、peristriate cortex がある。18,19,野である。  網膜の部位と17野の部位はやはり対応がある。網膜の半分が同名側の視覚領に投射 する。網膜の上半分は烏距溝(calcarine fissura)の上部に投射し、下半分は下に 投射する。macula の部分が特に皮質大きな部位をしめる。  視放線(optic radiation)の広範な損傷で半盲になる。このとき黄斑部に相当 する視放線が rostral にはりだしているからという。それで caudal(表面)を 傷つけられてもその部分のみ損傷をまぬがれる。

§5.外側膝状体、視覚領の受容野

 哺乳動物で両眼視のよく発達しているものは、外側膝状体受容野は、網膜の 受容野と殆ど同じである。すなわち、オン−中心・オフ−周辺型か、オフ−中心・ オン−周辺型の円形の受容野をもっているか。わずかに周辺部か網膜に比較して 大である。  17野に来ると受容野の性質ががらりとかわる。一様照射では反応せず、特定の パターンの刺激のみ反応する。その中でも短冊型の刺激によく応じるニュ−ロンが 注目されている。ニュ−ロンは、その性質により大きく3つに分類する。 |噂齋榛挧Α (イ)受容野は興奮と抑制の小区に分かれ、それが side-by-side に並んで存在する。 (ロ)小区内では反応の加重が生じる。 (ハ)この性質から種々な光パターンに対する反応が予想できる。 この型のニュ−ロンでは、スリット光が興奮小区の長軸方向に沿ってあるとき、 興奮性反応最大であり、抑制小区のの長軸にあるとき抑制最大である。この直角 方向では興奮と抑制が打ち消しあって、反応が生じない。長軸の方向を受容野の 方位(オリエンテーション; orientation )という。方位はニュ−ロンによって 異なる。 ∧雑型細胞。 (イ)興奮及び抑制の小区に分けられない。(小さな光スポットで反応しにくい) (ロ)加重がない。 (ハ)受容野の部位に関係なく特定の方向をもった刺激に応じる。 重複雑型細胞。スリット光に応じるが、その長軸の長さが長くなると応じなくなる。  さて、このような受容野は、外側膝状体の細胞から生じるはずである。単純型 細胞は単純型細胞が、また集中してできたと考えられていた。 <図15−3> <図15−4> <図15−5> <図15−6>

§6.有線領をこえての視覚情報処理

 有線野から有線前野(prestriate cortex 18, 19)に投射、更に下側頭野 (inferotemporral cortex; 20, 21)に投射する。  prestriate 下側頭皮質は、視覚の弁別に関係している。下側頭皮質を破壊す ると対象物を認識できない。これは Kluver-Bucy の症候群といって、猿の両側 下側頭葉を拝すると (イ)視覚失認(visual agnosia) (ロ)口唇傾向(oral tendency)、 (ハ)変形過多(hypermetamorphosis)、 (ニ)性欲過多(nypersexuality)等の症状があらわれる。 (ロ)以下は扁桃核、及び辺縁皮質の破壊によるという。

§7.膝状体−有線野系の情報処理の原則とその機能

 以上から推論すると、視覚系に於ける情報処理は、19,20野のいわゆる感覚 周囲野までは、次の2つの原則に従うと思われる。  その1つは、「視覚パターンのカテゴリー化である。」それぞれの細胞は一般 的な型にあまり反応しないで、ある特定のパターンのみに反応するようになる。 上述のように、有線野のあるニュ−ロンは棒状の視覚パターンにのみ応じ、別の ニュ−ロンは「カド」にのみ反応するようになる。つまり、ある視覚図形が呈示 されたとき、その図形は特徴に分解され、それぞれの特徴を個々の活動が担って いる。  この時、視覚パターンの空間上の絶対的な位置はあまり問題でなくなる。これが 第2の原則の「空間情報の一般化」と言われるものである。  さて、このような視覚情報のカテゴリー化は、17→18→19→20→21野 と進につれてますます増し、20,21野のニュ−ロンになると1つのニュ−ロンが、 非常に特殊な形にのみしか反応しなくなる。つまり、分解された特徴が1つの総合 された特徴と、その特徴に対応して、細胞の発火があるということである。この様 な事実から、物の認識は1つの特殊なニュ−ロンが発火することによって、生じる という説もしょうじる。例えば我々の脳の中に、おばあさんニュ−ロン(grandmother cells)が存在し、それが発火したとき、我々はその視覚刺激をおばあさんであると 認識するという考えである。この様な説をgonastic cell theory と呼ぶ。それに 対するのが、集合符号化説(assemble coding theory)である。

§8.視覚野の機能的構造

 一般に脳では、似た性質を持った細胞がかたまって存在する。大脳皮質では、 これが柱状構造として、皮質表面に垂直に存在する。この構造は視覚野で特に著しい。 同じ方位を示す受容野をもった細胞群が独立した柱(orientation colulnm)をなす。 また、視覚野の細胞は両眼から支配を受けるが、どちらから強い支配を受けている のかの度合(occular dominance)についても、それぞれ独立した柱を作っている。 これら2つの柱状構造は図に示すごとく、直交している。 Orientation column の方位は次々と徐々に変わり、約1mm離れると180゜ 回転 する。このことは、我々の脳は視野のある小区に分け、その小区内に凡ての視覚 パターンを「見る」完全な細胞群の1セットがあると解釈されている。そして、 この機能単位の中にある細胞数が多ければ多いほど、その小区内に写った視覚 パターンをよく「見る」(分析する)ことが出来ると考えられている。動物で 調べられている、この機能単位(hyper column)は皮質の約1mm2を占めるとされ ている。 <図15−7> <図15−8> <図15−9>

§9.視覚野の可塑性(plasticity)

 visual cortexにおけるspecialization が発見されるとすぐ、このような機能を 支える connection は生まれてすぐできるかという疑問が生じた。調べた結果、 生まれたばかりの動物でも、すでに基本的な配線は出来ていることが分かった。 しかし、その配線を完成するには生後早い時期に、感覚入力がなければならない。 人では生まれて6ヶ月(4-6才という人もいる;ネコ3ヶ月;サルでは少し長い) の時期にたった数日1つの眼を閉じておくと、その眼、及びそれに繁がる視覚野に 障害が生じる。その眼に対する occular dominance column が縮んでしまい、他方 の眼に対するそれが大きくなる。その機構については色々なことが言われているが、 生まれた後の早い時期は視覚野の成熟の時期といえる。

§10.上丘系の機能

 上丘に相当する視葉は魚類、両棲類、爬虫類では視覚系の主な中枢である。 そして鳥類、肉食類、霊長類と進化するに従って、これと間脳大脳を結ぶ線維が 発達して来る。このように系統発生学的に見たとき、網膜-中枢視蓋系がまず存在し、 動物が進化するに従って、その上に視床、大脳皮質が発達してきたとみることが 出来る。そう見れば、まず上丘の機能が基本になり、それが動物の進化にともなって より高位の中枢でelaborate されると考える。  上丘の機能は foveation であるということが出来る。すなわち、外界の注意 すべきものに目を向け、網膜の中心窩にその像をもって来ることにある。それは、 次の理由による。上丘に最大の線維を送っている前頭眼野がおかされると、反対側の 視覚性無視(contralateral visual negrect)、および眼球運動失行(注視の固定 spsm of fixation ; 散逸distraction)が一時生じる。上丘、前頭眼野の両方が侵 されると、上の症状が永続する。  さらに、上丘、前頭眼野のどちらを刺激しても共役眼球運動(conjugate eye movement)が、刺激した側の脳と反対側に向かって生じる。  foveationの機構については、網膜中心モデル(retinocentric model)と空間 モデル(spatial model)が存在する。後者は前者の欠陥を説明するために考え られたものである。 生体の科学  1975, 26, 165   J. Neurophysiol., 1980, 43-207