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「カルシウム増感剤による拡張型心筋症の発症予防」
― 心筋症・心不全の発症を遅らせる薬剤開発への新たな視点 ―


 東京医科歯科大学・難治疾患研究所・分子病態分野の有村卓朗(ありむら たくろう)助教、木村彰方(きむら あきのり)教授らのグループは、東京農工大学、九州大学、フランス筋疾患研究所等との国内・国際共同研究によって、フォスフォジエステラーゼ阻害作用のないカルシウム増感剤(SCH00013、全薬工業)を拡張型心筋症モデルマウスに投与し、心不全の発症遅延、心筋細胞脱落の減少、心筋線維化の抑制、生存予後の改善を認めました。原因不明の難治疾患である拡張型心筋症の治療や発症予防に用いられる薬剤開発に新たな道をひらくものです。この研究は文部科学省科学研究費補助金、医薬基盤研究所受託研究費、厚生労働省科学研究費、フランス筋疾患財団研究費、日本学術振興会二国間交流事業共同研究費などの研究助成金によって実施されたものです。研究成果は、国際学術誌Journal of the American College of Cardiology(アメリカ心臓病学会誌)の2010年4月6日号に発表されます。     
木村 彰方 教授
難治疾患研究所難治病態研究部門分子病態分野
有村 卓朗 助教
難治疾患研究所難治病態研究部門分子病態分野

ポイント
  • 拡張型心筋症のモデル動物であるラミンA/C遺伝子改変マウスにカルシウム増感剤を投与すると、心不全発症の遅延、生存期間の延長、心筋線維化抑制、およびリモデリング関連遺伝子発現是正が観察されました。
  • 心筋症・心不全の発症予防法として、カルシウム増感作用に着目した薬剤開発が期待されます。
研究の背景

 拡張型心筋症は明らかな誘因がなく心室拡大、心筋細胞脱落、心筋線維化を来たし、突然死や難治性心不全の原因となる疾患です。拡張型心筋症の患者さんの一部に家族歴があることから、その病因の一部は遺伝子変異であると考えられていました。このため世界的に原因遺伝子の探索が行われ、これまでに心臓の筋肉を構成するタンパク、とくに細胞膜(例えば、ディストロフィンなど)、Z帯(例えば、テレトニンなど)、収縮タンパク(例えば、アクチンやトロポニンTなど)、I帯タンパク(例えば、FHL2やCARPなど)、さらには核膜タンパク(例えば、ラミンA/Cなど)の遺伝子異常が原因となることが判明しています。つまり、拡張型心筋症の原因遺伝子は20種以上発見されていますが、そのいずれに異常が生じても拡張型心筋症になります。これらの遺伝子異常が拡張型心筋症を引き起こすメカニズムについては不明な点が多くありますが、一部の遺伝子異常は心筋収縮のカルシウム感受性を低下させることが報告されています。また、心不全状態でも心筋収縮のカルシウム感受性が低下しているとの報告がありますが、カルシウム感受性低下と心不全との直接の因果関係は明らかではありません。

拡張型心筋症の治療法としてはβブロッカーやACE阻害剤などが用いられており、薬剤治療が効を奏しない場合には心臓移植が行われています。また、心不全治療法としてフォスフォジエステラーゼIII(PDEIII)阻害剤が使用されることがありますが、短期的には心筋収縮力を増強するものの、長期的な生存予後の改善は認められていません。さらに、カルシウム増感剤による心不全治療も試みられていますが、それらの薬剤にはPDEIII阻害作用があるため、その効果はPDEIII阻害によるものと考えられています。

遺伝子変異による拡張型心筋症の多くは成人期以降に発症しますが、発症を予防する方法は確立していないため、発症予防法の開発が待たれます。また、ラミンA/C遺伝子を改変したマウス(ラミン変異ノックインマウス)は生後5−6カ月程度から心不全を発症し、心筋細胞の脱落や心筋の線維化を来たすとともに、12−13カ月までに死亡しますので、拡張型心筋症の動物モデルとして研究に使われています。


研究成果の概要

 難治疾患研究所分子病態分野では、東京農工大学獣医学部、九州大学医学部、フランス筋疾患研究所などとの国際共同研究によって、拡張型心筋症モデル動物であるラミンA/C遺伝子改変マウスを用いて、フォスフォジエステラーゼ阻害作用のないカルシウム増感剤(SCH00013、全薬工業株式会社提供)による拡張型心筋症の発症予防効果を検討しました。その結果、発症前(2カ月齢)からカルシウム増感剤を投与することで、心不全の発症遅延と生存予後の改善を認めました。また、カルシウム増感剤を投与したラミンA/C改変マウスでは、心筋の線維化ならびに心筋リモデリング関連遺伝子の発現異常が是正されました。一方、ラミンA/C改変マウスでは発症前にはカルシウム感受性が低下していないことを見出しました。すなわち、カルシウム感受性が低下していない時期からカルシウム増感剤を投与することで拡張型心筋症・心不全の発症を抑制できることが明らかとなりました。これらのことから、カルシウム増感作用に着目することで、心不全の発症予防法の開発が可能になると考えられます。

問い合わせ先

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 分子病態分野 教授
木村 彰方(きむら あきのり)
TEL 03-5803-4905
e-mail: akitis@mri.tmd.ac.jp
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