文部科学省   科学研究費補助金   基盤研究(B)   研究課題番号19320074

医歯学系留学生のためのeラーニングによる医療コミュニケーション学習システムの開発

研究の背景

  わが国では医学・歯学教育のコア・カリキュラムの策定が行われ、プロフェッショナリズム教育という観点から、医療系大学でのコミュニケーション教育の積極的な導入が求められている。しかし、医療者と患者の関係、診療参加型臨床実習などを指導する医師・歯科医師などには当該領域における知識・理論についての混乱や、教育の実体験不足からくる戸惑いも少なくない。
  また、コミュニケーション教育は態度学習と不可分であり、教育効果を上げるためには教科書などによる知識学習だけでは不十分で、コミュニケ―ションの実地の訓練が必要だが、コミュニケーション教育を担当する医療系大学の多くの教員が、診療・研究に多くの時間が費やされる中で、コミュニケーション教育に割く時間の制約をかかえている。教育を受ける側の医学生、歯学生、研修医なども同様に時間の制約があり、理想的な訓練の実施が難しい。ましてや、医学・歯学を学ぶ外国人留学生にとっては、時間だけでなく、日本語の言語・非言語、文化の差、日本の医療現場の知識等、さまざまな知識を得ることも合わせて必要で、それらを含めた医療コミュニケーションを学ばなければならない。
  そこで、本研究では、上に挙げるような問題点を理想的な形で解決するために、eラーニングによって医療コミュニケーションを自主学習できるようなシステムを開発する。この開発に先立ち、実際のコミュニケーション教育に関するニーズ、学習者のレディネス、患者の側の医療コミュニケーションに対する意識等を調査し、その分析結果に基づき、医療コミュニケーションを学習するeラーニング教材の開発を行うことにした。

海外の事情
  欧米では1970年代から医療コミュニケーションが基礎研究として活発に行われてきた。またその研究は、医療専門家だけでなく、医療専門家が言語学者や心理学者と共同で研究を行うといった形が多く見られ(Coulthard, 1975; Mishler, 1984; Robinson, 1998; Todd & Fisher, 1993)、学際的な研究としてその成果を示している。近年はそういった知見をもとに、米国のドレクセル大学(Drexel University)等で、様々な医療コミュニケーションのケースをウェブ上でビデオ映像により自主学習することができるようなシステムが開発されている(doc.com enhancing competence in healthcare communication)。
  海外で進んでいるこの分野の研究の情報収集を積極的に行い、それを日本における医療コミュニケーション研究および教育に生かすことが急務である。海外で進んでいる医療コミュニケーションの知見を得つつ、日本の医療文化に即した独自の留学生のための医療コミュニケーション学習教材を作成し、その成果を国内外に発表していけば、関連分野への貢献は非常に大きいものとなる。