研究概要

これまでの研究成果 

 私はこれまで一貫して、「細胞がどのようにしてストレスを感知し、適切に応答するか」という生命現象の根幹に迫る研究に取り組んできました。特に、酸化ストレスや小胞体ストレスなどの外的・内的刺激に対して細胞が示す応答の分子機構に注目し、ストレス応答キナーゼASK1(Apoptosis Signal-regulating Kinase 1)をはじめとするストレスシグナルの制御機構の一端を明らかにしてきました。
 ASKファミリーの発見とその機能解明は、細胞死、細胞競合、細胞体積調節といった細胞の生理的機能の理解に加えて、炎症やがん、さらには神経変性疾患や代謝疾患といった多様な病態の理解にも新たな視点を提供するものであり、ストレス応答研究の分野においてひとつの転機となる成果を上げました。
 また、ストレスシグナルを制御するタンパク質分解系や、細胞内の金属イオン動態とシグナル伝達の関係にも注目し、分子レベルでの緻密な制御機構を明らかにしてきました。これらの成果は、基礎生命科学の発展に寄与すると同時に、ストレス関連疾患の新たな治療法の開発にもつながる可能性を秘めています。 

 

今後の研究方針 

今後は、これまでに築いてきたストレス応答の分子基盤に加え、「時間」と「空間」の視点から細胞シグナルの動態を解明する研究へと展開していきます。具体的には、シングルセル解析や空間オミクス、ライブイメージングといった最先端技術を活用し、細胞が環境ストレスに応じてどのように情報を処理し、運命決定を行うのかを、精密な時空間情報を基盤として捉えていきたいと考えています。
 また、老化やがん、神経変性といった疾患の発症過程において、ストレス応答が具体的にどのように関与し、それを制御することで健康寿命の延伸や疾患予防にどうつなげられるかという応用への展開も視野に入れつつ、「ストレスの分子実体」から目を逸らすことなく、あくまで生命現象の理解に立脚した基礎研究に軸足を置いて進めていきます。