16.視覚:色覚 color vision

§1.色調(color hue)、彩度(saturation)

 色感の形作る要素のうち、明るさを別にし、さらに白味、黒味を問題にしない。 このときの要素が色調である。単色光の場合は、光りの物理的性質(波長)と 生理的色調の間に一定の関係がある。赤、燈、黄、緑、青、藍、紫の順に 650, 600, 575, 520, 470, 410 nm とだんだん波長が短くなる。  彩度は色の純度を表す。すなわち、白光色によって、いかにうすめられて いないかの程度を示す。彩度の高い色は鮮やかである。

§2.色混合(color mixing)

 ある色調の色を感じるには、単色光である必要はない。一般に3つの(単) 色光を選び、それを適当に混合するか、差し引くと、全ての色調を作ることが 出来る。これを混色(color mixing)という。差し引くということは物理的に 不可能である。色Bが色Aから色Cを差し引いたものという意味はBとCを加 えたものと、Aが等色出来るということである(Grassmanの法則)。 <図17−1>

§3.色の客観化−測色学

 このことから、一方では色受容に関する説が生まれ、他方では色を客観的に 記述する学問が生まれた。すなわち、3つの原色(普通、 赤、緑、青)を選び、 それぞれの単位輝度を決める。このとき、全ての色は、3つの原色の単位量の 適当倍を加えれば、等色できる。すなわち、5R+3G+7Bのようにで → → → ある。このことは、3原色の単位ベクトルをR,G,Bとしたとき、全ての色は 空間ベクトル →  →  →  →   C=mR+nG+pB で表すことが意味する。ここで、全部たしたものが1とし、   m : n : p が同じならば、同じ色調の光であるから、 m n p ──────:──────:─────── m+n+p m+n+p   m+n+p の値が重要となる。この値をその色の三色刺激値という。逆に3色刺激値が わかれば、その光の色調がわかる。  さらに、三色刺激値は等色というような面倒な操作をしなくても、分光エネ ルギーの分布がわかればわかり、色は完全に客観的に記述することが出来る。 <図17−2> <図17−3>

§4.色度図(chromaticity diagram)

上述のことから色調は、  m n p →   → → → Cu=──────R+──────G+──────B m+n+p m+n+p m+n+p で表せる。これはRGB時苦情の単位の長さの点を通る平面となる。この平面上 にすべての色を示すことが出来る。このように平面上に色を表したものを色度図 という。この色平面を直角の方向から見れば正三角形となり、(Maxwellの色三角 形)、又B軸の方向からみれば直角三角形となる。  このようにして作った色度図は、かならず、負の値が出てくる。そこで、仮想的 な軸すなわち、原色をつくり、全ての値が正となるように座標変換して、作った 色度図が一般に用いられている。 <図17−4> <図17−5> <図17−6> <図17−7>

§5.色覚の機序−三色説(trichoromatic theory)

 網膜の一定の場所に特定の色光が照射されたとき、それに相当する視野が特定の 色に見えるのは次のような機序による。  その場所には、スペクトル吸収率の異なる3種類の錐体がある。従って、1つの 色覚をあたえたとき、それぞれの錐体が吸収する光量子の数はことなる。従って、 それぞれの錐体に生じた受容器電位の大きさもことなり、さらに、それに持続して いるニュ−ロンのインパルスの頻度もことなる。そのとき、この3種類の錐体から 発して、中枢に行くまでの路(channel)は独立(separate)している。この3つ の channel を上行するインパルスの頻度の比で、我々の見える色が決まる。  このような考えは、Helmholzの3色説である。彼は、3つの色を選び、それを 混色すれば、地球上に存在するあらゆる色と等色できることから、この説を主張 した。  この考えは、更に近年、単一錐体の吸収スペクトルを測定することによって、 たしかめられた。特殊な装置をつかって、錐体外節の吸光スペクトルを測定すると 3種類ある。人では 445nm(青),535nm(緑),570nm(黄)に吸収スペクトルの ピークを持つ(図17-8)。さらに、網膜錐体の受容器電位の大きさを指標にして、 各スペクトル光に対する効果を見ても、錐体には3種類あることがわかった。 <図17−8>

§6.中枢視覚系での色覚情報の変容

 以上述べた3つの separate channel を上行する色覚情報は、中枢視覚系を上行 するに従って、変容する。  神経節細胞、外側膝状体ユニット活動を記録し、色光を与えたとき、その反応の 仕方から次の3つのユニットに分けられる。(図17-9) <図17−9>  (イ)非色ユニット(non-color cell) どんな色を用いても受容野は on-中央、 off-周辺の余名指抗的な体制になっている。  (ロ)色反対ユニット(color opponent cell) 白色で反応せず。受容野に周辺なし。 緑-ON・赤-OFF、赤-ON・緑-OFFのように1つの色で興奮、その補色で抑制。  (ハ)二重反対ユニット(double opppnent cell) 白色ならば()と同じ。色光で 照射したとき。中心部を照射したとき()と同じ周辺部ではその反対。すなわち、 中心部、赤-OFF、緑-ON、周辺部、赤-ON・緑-OFF、 視覚領視覚領ユニットでは、  (イ)非色ユニット(non-color cell) 単純、複雑、超複雑細胞である。  (ロ)色反対ユニット 外側膝状体とおなじである。  (ハ)空間色ユニット(spatial color cell) side-by-side に小区あり、1小区で は例えば red+, green-,他方ではそれと反対に red-, green+。

§7.色覚の精致化(elaboration) - Hering の反対色説

 以上のような中枢視覚系での色情報の変容は、我々が色のついた物を見るときに、 その分解能を、時間的、空間的によくしていると考えられる。  時間的分解能の 精致化は color opponent cell によって生じると考えられる。 すなわち、Color opponent cells のように1つの錐体から興奮性入力、他方、 それの補色から抑制性の入力があるとする。赤刺激→興奮、次に緑が続くと抑制 して時間的分解能を高める。  一方、double opponent cell は空間的分解能を高めている。double opponent cell は中心と周辺で異なる入力を受ける。このようなとき、赤面と 緑面の境界が強調される。したがって、色まで含めた周辺対比に役立っていると 考えられる。この事は、Heringの反対色説に相当すると考えられる。 <図17−10> <図17−11>

§8.色盲(Color blindness)と色弱(Color weakness)

 色は3つのchannelで感じられることを述べた。そのうち少なくとも1つ以上の channel がやられると色弁別に支障を来す。これが色盲、色弱である。 (イ)全色盲(total color blindness) スペクトル光に対して色調を感じない。 すなわち、どの色の光も、1つの色で等色される。スペクトル視感度曲線は 正常人の時順応状態でのそれと一致する。プルキニエ現象はない。 (ロ)部分色盲(partialcolor blindness) 色調弁別に必要な要素の一部が欠損 しているものである。 (1)赤緑盲(red-green blindness) スペクトルの長波長部はすべて黄色、 短波長部は青色に感じる。両者の中間に灰色(無色帯 neutral zone) がある。更に2つに分かれる。 (a)赤盲(第一盲:protanopia) 赤要素がやられらもの。スペクトル赤端暗い。 極大視感度は正常よりも短波長寄り。黄緑弁別できず。無色帯は青緑 (490nm)。 (b)緑盲(第二盲:deuteranpia) 緑要素がやられたもの。無色帯緑(500nm) にある。その補色の赤紫が感じない。従って赤端部は明る     い。  (2)青黄盲(第三盲:tritanopia) まれなもので、無色帯黄とその補色であ る青緑から紫が同一色調(緑)として感じる。青と黄色の区別ができない。 色盲の程度の差でその障害の弱いものを、色弱(color weakness)という。赤色弱 (protanonalia)、緑色弱(deuteranomalia)、青黄色弱(tritanomalia)がある。 <図17−12> <図17−13>