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3.リンパ球の発生制御機構の理解〜免疫不全症・自己免疫疾患の発症機構の解明〜
   

(1) プレB細胞レセプターによる免疫グロブリンの品質管理とB細胞レパートリーの形成制御

  私たちはこれまでの研究で、プレB細胞レセプターがIgα/Igβヘテロ2量体を介してB前駆細胞の増殖ならびに分化を誘導するシグナルを伝達すること(Immunity, 1997)、プレB細胞レセプターからのシグナルが免疫グロブリンの再構成の制御にも重要な働きをしていることを明らかにしてきました(J. Exp. Med., 2000)。

 さらに、最近の実験結果からプレB細胞レセプターが免疫グロブリンμ鎖の品質管理にも重要な役割を担っていることがわかってきました(Int. Immunol., 2005)。B細胞分化の初期段階であるプロB細胞期に免疫グロブリンH鎖遺伝子の再構成がおこりμ鎖が産生されてきますが、そのうち50~80%ものμ鎖が代替軽鎖と会合できず、したがってプレB細胞レセプターを形成できない、いわば不良品であることが判明しました。さらに、代替軽鎖を会合できるμ鎖を詳細に解析すると、その品質(代替軽鎖との会合能力)にはバラツキがかなりあり、プレB細胞表面上のプレB細胞レセプターの発現量ならびにレセプターからのシグナルの強さはμ鎖の品質に比例しています。プレB細胞レセプターからのシグナルが強いほどプレB細胞の増殖ならびに分化の誘導が強く起こり、その結果、高品質のμ鎖を発現したプレB細胞が選択的に増えていきます。すなわち、B細胞分化の後期過程で出来てくる軽鎖(κ鎖、λ鎖)と会合してきちんとB細胞レセプターを形成できるような高品質なμ鎖を、あらかじめプレB細胞レセプターというフィルターを通して選別して、増幅させるという品質管理機構が存在することがわかりました(J. Immunol., 2006 )。
。  さらに、胎児肝臓でプレB細胞レセプターによる選別を受けたユニークなH鎖を発現したB細胞が、成体になっても脾臓の辺縁帯と呼ばれる特殊な領域で保持され続けていることを見いだしました(Int. Immunol., 2005)。感染初期の生体防御において機能するユニークな自然免疫型B細胞と考えられます。

(2)異常μ鎖(軽鎖非依存性μ鎖)によるB細胞分化障害〜免疫不全症・自己免疫疾患の発症

 代替軽鎖のλ5を欠損するためにB細胞欠損型免疫不全症となっている患者の骨髄B前駆細胞の解析から、B細胞分化の初期過程で作られてくるμ鎖のうち10%程度が代替軽鎖や軽鎖との会合なしに細胞表面に発現できるという異常な特性を示すことが判明しました(Immunity, 2001)。

  この異常なμ鎖は可変部に多数の陽性荷電アミノ酸を有するという構造上の特徴を持ち、機能的には、リンパ球にアポトーシスを誘導します。私たちは生体内での詳しい働きを解析するために、この異常なμ鎖を発現するトランスジェニックマウスを作成し、現在その表現系の解析を進めています。この異常なμ鎖は生体内でもアポトーシスを誘導してB細胞数を減少させ、免疫不全症をひきおこします。このマウスでは2重のトレランス(clonal deletionとreceptor down-regulation)が成立しているにもかかわらず、驚いたことに、加齢とともに抗核抗体が出現してきており、その自己免疫疾患についても現在解析中です。この新しいモデルマウスを用いて、ヒトの免疫不全症、自己免疫疾患の分子病態をよりよく理解し、新しい治療法を開発するように研究を進めています。


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