成長期の咬み合わせの障害が、全身の骨代謝に影響を与える可能性
―マウス咬合異常モデルを用いた実験から―

 

ポイント

  • これまで咬み合わせと全身の骨代謝とを結びつけた報告はありませんでした。
  • 本研究によって、実験的に咬合障害を生じさせた若いマウスでは、全身の骨の骨量減少が起きていることがわかりました。

【研究の背景】

小児期は歯が生え変わり、咬み合わせの障害(咬合異常)が起きやすい時期です。こどもにかかるストレスには色々ありますが、そのひとつに咬合異常があります。咬合異常に伴いストレスホルモンは上昇すること、また、副腎皮質ホルモン(注1)の投与は骨へ悪影響を伴うことが知られています。しかしながら、これまで咬合と全身の骨代謝とを結びつけた報告はありませんでした。

【研究成果の概要】

本研究チームは、マウスの歯の形を変えて実験的に咬合障害を生じさせたモデルを作製し(図1)、全身の骨の観察を経時的に行いました。

(図1) マウスの切歯にレジンを築盛し、実験的に咬合障害を生じさせたマウスモデルを作製

 
これらのマウスでは、血中のストレスホルモンが対照群に比べて有意に増加する時期がありました。
また、脚の骨や背骨の骨の量が減っていました(図2)。

  (図2)実験的に咬合障害を生じさせたマウスモデルでは、背骨の骨量減少が認められる
 

さらに、咬合異常付与群の骨に対して組織学的観察、遺伝子解析、血中マーカの分析を行いました。
継時的に観察したところ、骨が減るまでには、骨形成の抑制と骨吸収の亢進が起きていることがわかりました(図3)。

  (図3) 実験的な咬合障害付与に伴って変化する全身の骨代謝(マウスモデル)
 

咬合異常を与えると骨形成抑制が認められる。その後、骨の代謝回転が上がり、骨吸収の促進が認められ、その結果、全身の骨の量は減少する。
 
以上より、成長期に咬み合わせの機能に障害が起きた場合、全身の骨代謝に影響を与える可能性が見出されました。


 
(注1) 副腎皮質ホルモン:外からの刺激に対して体を正常に保つために必要なホルモンであり、肉体や精神にストレスがかかったときにも分泌されるが、本実験では過剰に分泌された場合を解析している。

 
掲載誌:Scientific Reports
論文タイトル:Occlusal disharmony-induced stress causes osteopenia of the lumbar vertebrae and long bones in mice