個体から細胞へ


  1.階層性の認識
  2.小腸を例に
  3.すべての生物は細胞から





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  カラダを構成する組織のカラー写真集





更新日:2002/04/08

1.階層性の認識

 簡単か複雑かの違いはあるにせよ、どんな生物でもそれぞれのはたらき(機能、function)に応じたつくり(構造、structure)が対応している。構造-機能を常に対比させてとらえることが生物学を学ぶ上で非常に重要である。通常の化学反応では考えられないような効率で酵素反応が進むのも、酵素の活性部位と基質の間に、ちょうど鍵と鍵穴のような構造的な関係があるからである。

 さらに、生物のつくりは階層構造になっている。

 たとえば、個体は大まかに見ると、次のように分けられる。

   個体(organism)−器官系(organ system)−器官(organ)−組織(tissue)−細胞(cell)

 個体は複数の器官系が重層的に配置されている。たとえば、下の図は外皮系、骨格系、消化器官系を順に描いたものだが、我々のからだの中ではこれらの器官系はこのように重なりあって存在する。

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  Cell-Tissue-Body Explorer

 さらに、その器官系は複数の器官から構成されている。 単純に見える骨格系も、骨組織と軟骨組織、さらに血管系から構成されている。

 次の図は大腿骨を拡大し、各拡大レベルでの構造をしめしたものである。骨格系を構成する骨組織の最終的な細胞単位は骨細胞(osteocyte)である。

 ここでヒトの器官系をまとめておこう。

  外皮系(Integmentary system)
  骨格系(Skeltal system)
  筋系(Muscular system)
  消化器官系 (Digestive system)
  循環器官系(Circulatory system)
  呼吸器官系(Respiratory system)
  泌尿器官系(Urinary system)
  神経系(Nervous system)
  内分泌系(Endocrine system)
  生殖器官系(Reproductive system)

 器官系がどのような機能を営んでいるかは、名前を見れば想像できるであろう。 自分の体を眺めて、それぞれの器官系や器官が体の表面、あるいは内部のどこにあってどんな働きをしているか考えてみよう。

 たとえば消化器官系は、食道(esophagus)、胃(stomach)、小腸(small intestine)、 大腸(large intestine)、肝臓(liver)、膵臓(pancreas)、胆嚢(gallbladder)などから構成されている。

 小腸はさらに、十二指腸(duodenum)、空腸(jejunum)、回腸(ileum)よりなり、大腸は、虫垂突起(vermiform appendix)、盲腸(cecum)、結腸(colon)、直腸(rectum)よりなる。

 泌尿器官系は、腎臓(kidney)、輸尿管(ureter)、膀胱(bladder)、尿道(urethra) から構成されている。

 いずれの器官系でも、各器官が役割分担をしている。

 それぞれの器官は、基本的な組織の組み合わせでできている。基本的な組織は次の4つである。

  上皮組織(epithelial tissue)
  結合組織(connective tissue)
  筋組織(muscle tissue)
  神経組織(nervous tissue)

(1)上皮組織は、
    単層扁平上皮(simple squamous ep.)
    単層立方上皮(simple cuboidal ep.)
    単層円柱上皮(simple columner ep.)
    重層扁平上皮(stratified squamous ep.)
    多列上皮(pseudostratified ep.)

 これらは上皮細胞の形と並び方による名前で、器官の名を冠して腸上皮(これは単層円柱上皮)などとも呼ぶ。    

(2)結合組織は、
    疎性結合組織(loose con..)
    密繊維性結合組織(dense con.)
    弾性結合組織 (elastic con.)
    細網結合組織(reticular con.)
    脂肪組織(adipose con.)
    軟骨組織(cartilage con.)
    骨組織(bone con.)
    血液(blood)。

 それぞれ、細胞と細胞間基質(intercellular substance)とからなり、基質には特徴ある繊維などが多く存在する。    

(3)筋組織は、
    骨格筋(skeltal muscle)
    心筋(cardiac muscle)
    平滑筋(smooth muscle)

にわかれる。    

(4)神経組織は、
    ニューロン(neuron)
    グリア細胞(glia cell)

からなる。 中枢神経系(central nervous system)と末梢神経系(peripheral nervous system)という呼び方もある。

 それぞれの組織は、各組織に応じた特徴ある細胞より構成されている。

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2.小腸を例に

 小腸を例にとって、器官がどのような組織からなりたっているか見てみよう。

 上の図は、小腸を輪切りしてその一部を拡大したときに観察できる構造の模式図である。四層の構造をしていて、それぞれの層はさらにいくつかの細胞要素で構成されている。

 上の例を見ても、細胞が集まって機能単位である組織を構成し、さらに組織が組み合わさって器官をかたち作っているのがよくわかるであろう。

 小腸のはたらきは、食物を消化し吸収することである。吸収は絨毛の吸収上皮細胞(上に述べた単層円柱上皮細胞にあたる)によりおこなわれ、消化液は陰窩(crypt)の腸腺から分泌される。

 絨毛は長さ1mm前後で、虫眼鏡で見ることができる。絨毛の形は、小腸上部では木の葉のように先が広く元が狭くなっているが、回腸の下部になるとしだいに短くまばらになる。大腸には絨毛がない。絨毛の表面には単層円柱上皮細胞が並んでいて、その表面には微絨毛(microvilli)がびっ しりと並んでいる。このように二重三重に面積を広くするようになっているために、小腸の吸収面の広さは20平方メートルにもなる。

 腸上皮中に散在する杯細胞(goblet cell)は、粘液を分泌している。

 皮膚の上皮細胞が常に新生し、古くなったものは剥離して垢となるように、消化管の上皮細胞も新生、移動、剥離が起こっている。小腸の場合は、陰窩の下部にある細胞が常に分裂して上皮細胞を供給している。新しくできた上皮細胞は、エスカレーター式に、24時間で絨毛側面まで進み、2から3日後に絨毛先端まで移動し、剥離する。

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3.すべての生物は細胞から

 最初に細胞(cell)という言葉を使ったのはロバート・フックで、1665年に今日の顕微鏡のもととなる装置をつくり、コルクの薄片を観察し、小さな空所が無数にあることを見つけ、この名を与えた。しかし実際にはこの空所は細胞の抜けた細胞壁であるが、細胞という名前は残った。

 その後、シュライデン(Schleiden, Matthias、1838)とシュバン(Schwann, Theodor、1839)によって、植物も動物も同じ基本単位である細胞からできていることが明確に打ち出され(細胞説)、細胞が生物の基本的な単位という認識が完成したのである。

 その後、ウイルヒョウ(Virchow, Rudolph、1855)によって、「すべての細胞は細胞から」という考えが明確になり、やがて生物の自然発生説は終焉した。

 1.では細胞が機能に応じて分化していると書いたが、どんな細胞でも基本的なつくりやはたらきは共通している。共通している点をいくつか列挙してみよう。 

 細胞は生物の体を作り基本単位である。したがって共通したはたらきがある。さらにこの細胞が分化していろいろな特殊なはたらきをもつようになり、これが組合わさって組織、さらに器官をつくり、複雑な体制ができあがる。

 次章から、生物学を学ぶ第一歩として、細胞が共通に持っている構造を理解し、そのはたらきを考えていこう。

 次の本は電子顕微鏡写真がたくさん使われた易しい読み物である。推薦する。
  『細胞を読む−電子顕微鏡で見る生命の姿』 山科正平 講談社ブルーバックスB623  昭和60年 780円

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